第二百三十二話 最強の連合(ユニオン)・(後編)
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---三人称視点---
「突撃開始ッ……さあ、皆も思う存分戦うんだぁッ!」
よく耳に響きわたる剣聖ヨハンの声が、団員達の中枢神経を駆け巡り、戦闘が開始された。 漆黒の甲冑を着込んだ魔王軍の前衛部隊が突貫してくるありさまを、剣聖ヨハンは冷然と眼で追いながら、二、三歩前に進んだ。
地鳴りをあげながら次々と、襲い掛かってくる黒き野獣達を真正面から迎え討つ。敵兵が振り下ろした大剣を容易に交わすと、兜と鎧のつぎめを一撃で切断した。 むき出しになった頚動脈が網膜に映ると、白銀の聖剣で切り裂き、完全に生命を絶つ。
「ヨハンだけに良いカッコはさせないわ!」
そう叫びながら、群青色の甲冑を着込んだ女侍アーリアも両手で白刃の日本刀を握りながら、果敢に前へ出た。 女侍アーリアの白刃の太刀が空を切り裂いて、秒単位で魔王軍の前衛部隊の死体の山を築き上げる。 前方から怒りと憎悪の声が沸きあがったが、女侍アーリアの表情には変化はない。 ただ冷然たる翡翠色の瞳で一同を眺めた。
そしてアーリアは四肢と五感と愛用の刀に全神経を集中させて、斬撃を繰り返し、確実に敵を一人ずつ戦闘不能の状態に突き落としていった。 この好機を逃さんとばかりに二列目から彼女の仲間が飛び出した。 旅芸人風の猫族のジョルディー・ベスト。 弓矢の扱いに長けた聖なる弓使いのカリン。 そして黒服の上に赤いローブを羽織った錬金術師の竜人の女性。
「は~い、傾注、傾注! 今からオイラが楽しい芸を見せてやるニャン!」
旅芸人風の衣装に身を包んだ曲芸師の猫族ジョルディーがそう言いながら、両手に持った小さな鉄球で鮮やかな手並みでジャグリング始めた。
曲芸師ジョルディーは慣れた手つきでジャグリングを披露する。
「は~い、種も仕掛けもありましぇん! 只の殺人ジャグリングです!! そういう訳なので、魔王軍の皆さん! 速やかに死んでくだしゃい! 行くニャ! ――『デス・ジャグリング』ッ!!」
ジョルディーは明るい口調でそう言って、手にした鉄球を前方の魔王軍に向けて投げつけた。
そして光の闘気を宿らせたその鉄球が敵の眉間に綺麗に命中する。
投げつけられた鉄球は闘気の力も相まって、標的の眉間に命中すると放射状に皹が広がった。 瞬く間に敵を三人始末したジョルディーは軽快なステップを刻んで、大仰な仕草でお辞儀した。
「ご鑑賞ありがとうございましたニャン!」
あまりの早業と予想外の動きに前方の魔王軍も固まっていたが、
我に返るなり、殺意と憎悪を篭めた視線でジョルディーを睨み付けた。
だが当のジョルディーは「またね-」と云って、女侍アーリアの背中に隠れた。
それが更に敵の戦意に火をつけた、つけようとしてたが、
聖なる弓使いのカリンがその前に先手を打った。
「もう、ジョルディーはこういう状況でも芸達者ね。 でも後始末する方の身にもなってよ。 まあいいわ。 ――行くわよ! ハアアアァッ! ――セラフィム・アローッ!!」
カリンは左手を突き出し、右手を引き締めて弓を引く構えを取りながら、眉間に力を込めた。 金色の弓と弦の間に炎光がゆっくりと生み出される。
カリンはその炎光を矢のような形状に変えて、前方に向けて放った。
すると矢の形状となった炎光が最前衛に立っていた魔族兵に命中する。
「ぎ、ぎゃあああ……あああっ!!」
炎光に巻きこまれた魔族兵は炎で鉄が焦げる匂いと熱によって呼吸を乱しながら、断末魔の叫びを上げた。 そこからカリンは右手に手にした黄金と宝石で装飾された弓を天向けて掲げた。
その時、カリンの小さく口が動き、黄金の輝きを放つ弓の弦には肝心の矢がなかったが、彼女が眉根をやや寄せてその綺麗な唇を真一文字にして、魔力を込めるような仕草をすると、弓と弦の間に、光のような輝きが生じた。
「――メテオライトッ!!」
聖なる弓使いカリンは、弓の弦を力強く引いてそのエーテルのような光を天に目掛けて放った。 弓から放たれた光が空高く舞い上がり、眩い神々しい光を放つ。 そして光は流星のごとく急降下して前方の魔族兵目掛けて襲い掛かった。
瞬く間にその光を受けた魔族兵が身体を震わせて激しい痙攣を起こして、次々と地面に崩れ落ちた。
それを気にすることなくカリンはまた何かを念じるように呟き、聖弓アルデリードの弦を力いっぱい引いた。 カリンは眉根を寄せて唇を綺麗に結んで集中力を高める。
今度は光ではなく風の塊が弓と弦の間に生じた。
「――ウェントゥス」
カリンがそう云うと風の塊が弓から放たれて、空気を裂く鎌鼬のような真空の刃となり、魔族兵を体の至る所をその風の刃で切り刻んだ。 そして気が付けば、短時間で二十人以上の魔族兵が戦闘不能に追いやられた。
「えへへ、どんなもんよ!」
と、得意げな表情で胸を張るカリン。
だがその後ろに居た錬金術師の竜人の女性クロエが軽く叱責した。
「カリン、油断大敵よ。 敵の戦意はまだ下がってないわ。 だけど仲間をやられて怯んでいるわ。 だからアンタは一度下がりな。 後はアタシに任せな」
「了解よ、クロエ姉さん!」
そう言葉を交わして、クロエとカリンは並ぶ位置を変えた。
そして錬金術師クロエは両手で素早く印を結んだ。
「――地形変化開始!!」
錬金術師クロエがそう叫ぶなり、前方の魔王軍の前衛部隊の足下の地面が綺麗に凍り付いた。 錬金術師の職業能力・地形変化によって、地形の変化が行われたのだ。 足下が急に氷上になった魔王軍の前衛部隊は、驚き戸惑い地面に転げ込んだ。
「――今よ、魔法部隊の皆! 魔法攻撃をお願い!!」
クロエは後ろに振り返り、そう叫んだ。
すると後方に居た魔導猫騎士や魔法部隊は「ああ!」と頷いて、前線に躍り出た。
「よしやるだニャン!! 我は汝、汝は我。 我が名はニャラード。 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! ――行くだニャン! 『ライトニング・ダスト!!』」
「皆、ここは核熱を狙うだニャン! 我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! ニャン! 『フレア・ブラスター』」
と、魔導猫騎士が一斉に魔法を唱えた。
急な事だったので、後方に居た賢者ベルロームやリリア、メイリンは少し反応が遅れた。 するとラサミスが耳錠――『イヤリング・デバイス』を介してメイリンに念話で指示を出した。
『メイリン、猫族ばかりに格好つけさせるな!
とりあえず何でもいい、炎属性か光属性の魔法をぶっぱなせ!!」
『え? ああ、『イヤリング・デバイス』からの通話なのね。
了解、了解、ならばこの美少女大魔法使いメイリンさんの出番ね!』
『――ベルローム、リリア。 キミ達も攻撃に参加するんだ!』
と、魔導騎士のナースも『イヤリング・デバイス』で部下達に命令を下した。
『了解した』『了解です』
「我は汝、汝は我。 我が名はベルローム! ウェルガリアに集う光の精霊よ、
我に力を与えたまえ! 『ライトニング・カッター』」
「我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、
我に力を与えたまえ! 炎殺ッ!!」
「我は汝、汝は我。 我が名はリリア。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 『シューティング・ブレア』!!」
ベルロームに続き、二人の女魔導士が魔法攻撃を仕掛けた。
そして氷上の敵目がけて、炎属性と光属性の魔法攻撃が交わり、魔力反応『核熱』が発生。 すると不意を突かれた魔族兵は思わず勢いに呑まれて後退し始めた。 そして剣聖ヨハンはその絶好の機会を逃さなかった。
「今だ、突撃開始!」
剣聖ヨハンが高らかにそう叫んだ。
『ラサミス、オレ達も後に続くぞ!』
『イヤリング・デバイス』越しにライルの声が聞こえ、ラサミスも「おう!」と答えて前線に出た。 雷光のライルが手にした銀の宝剣で凄まじい勢いで魔族兵を蹴散らした。 その弟ラサミス・カーマインも手にした刀やブーメラン、投石紐を適度に使い分け、着実に敵兵の数を減らしていく。 そして彼等の後に続くように、他の騎士や冒険者、傭兵も武器を手にして、魔族兵と斬撃を繰り返した。
だが魔王軍も意地を見せる。
死を覚悟して、真っ向から連合軍の兵士達と衝突。
激しい戦いが繰り返されて、この大猫島に無数の屍が積み上げられていくが、
戦場に居る兵士達は、そんな余韻に浸る間もなくただ全力で目の前の敵と戦うのであった。




