第二百二十五話 猫族海賊(ニャーマン・パイレーツ)・(後編)
---ラサミス視点---
「うお、これは凄い」
オレは眼前に見える大きな船を見上げながら、思わずそう口にした。
するとエリス達も同様に驚きの声を上げた。
「とてもカッコいい船ですわね」
「これってガレー船よね?」
「そうね、でもかなり大きいわね」
メイリンがそう言うと、ミネルバがそう返した。
「うむ、これはガレー船というより、ガレアス船だな」
「その通りです、ドラガン殿」
「あ、キャプテン・ガラバーン。 どうもです」と、ドラガン。
「いえいえ気になさらずに! 貴方達もこのガレアス船――またの名を猫族ガレアスに乗るんですからね」
そう言いながら、猫族海賊のキャプテン・ガラバーンが左右に、お供のキジトラ猫とサバトラの白猫を引き連れて、颯爽と現れた。 そう、彼が云ったように、次の戦いではオレ達はキャプテン・ガラバーンの船に乗る事となった。
ちなみオレ達『暁の大地』だけでなく、マリウス王子、それと山猫騎士団の猫騎士達も同乗する予定だ。
また竜人族の族長アルガスと傭兵隊長アイザックは竜人海賊のキャプテンの船に同乗する事となった。
さっきの会議の後、アルガスがガラバーンに向かって――
「ところでこの海賊島には、猫族海賊以外の海賊は居ますかな? いや単刀直入に聞こう。 ワシを竜人海賊のキャプテンと引き合わせて欲しい」
と、申し出たのでガラバーンが間に入って、アルガスと竜人海賊を引き合わせた模様。 その結果、竜人海賊も連合軍に加勢する事となった。 まあ戦力が増える事自体は歓迎すべき事だが、あの爺さんの事だ。 裏で色々と根回ししてそうだな。 まあそれは今気にしてもしょうがない。
それはさておき、このガレアス船――猫族ガレアスはかなり大きいな。 この猫族ガレアスは通常のガレー船より随分大きいと思う。 帆は前マストに四角帆、後ろ二本には三角帆を張っており、前部と後部に楼閣を持つ特徴のある作りだ。 そして黒い海賊旗を掲げていた。 可愛らしい猫を丸で囲んで十字紋が記された黒い海賊旗だ。
しかしこれだけ巨大な船を人力で漕ぐのはキツそうだな。
などと思っていると、ガラバーンが猫族ガレアスの説明を始めた。
「全長60M、最高速度10.5ノット、最大乗組員500名。 大砲20門、30本を超える多数のオール一つ一つに漕ぎ手が5名以上居ます。 これが猫族海賊の旗艦である猫族ガレアス・ブラックサーベル号です!」
「おお~」
と、この場に居るほぼ全員が感嘆の声を上げた。
いや細かいスペックを言われても、正直ピンとこないけどね。
でもなんというか見ただけで凄いと分かる戦闘船だ。
「では『暁の大地』の方々、それとマリウス王子、山猫騎士団の猫騎士の皆様も乗船してください」
オレ達はガラバーンに言われるまま、猫族ガレアス・ブラックサーベル号に乗り込んだ。 外からだけでなく、中から見ても大きな船だ。 というかこんなに大きな船だから、迷子にならないようにしないとな。
「それではワタシが軽く船内を案内しますので、ついて来てください」
「はい」
オレ達はそう大きな声で返事して、ガラバーンの後について行った。
---三人称視点---
ラサミス達はキャプテン・ガラバーンに案内されてブラックサーベル号の内部を一通り見終えた。 中でも圧巻だったのは、ガレー船の象徴とでも言うべき両舷に備え付けられた櫂だ。 その数なんと34本。 更に漕ぎ手だけで350名もの人員を割いている事に再度、驚かされた。
また船に様々な仕掛けが仕込まれていた。
標的となる船への乗り込みを可能にする固定杭付の跳ね橋をはじめ、遠方の敵船の狙う為に設置された弩や投石器、船ごと転覆を狙う突撃船首などもある。
船の奥底では五、六人で一組になり、それぞれ横一列に並び、一つの大きな櫂を漕ぐようだ。 それらの横一列の席が 幾つもあり、彼等はひたすら櫂を漕ぐ。
櫂を漕ぐ手段は大まかに分けて、二種類ある。
一つは単純に人力で漕ぐという方法。
もう一つは風魔法を使って櫂を漕ぐという方法だ。
そしてこの猫族ガレアス・ブラックサーベル号は人力で漕ぐ方法と魔法を使って櫂を漕ぐ方法を使い分けている。
人力で漕ぐのはヒューマンや竜人族、エルフ族の海賊や水夫が担当して、彼等が疲れてきたら、猫族の水夫が魔法で櫂を漕ぎ、その間に人力で漕ぐ乗組員達を休ませる。
通常時は人力で漕ぐ方法を優先するが、戦闘時は魔法で櫂を漕いだ方が速度が出るので、甲板上の操帆手も同様に風魔法で帆や風を操ると、船の移動速度もかなり上がる。 このようにこの世界の船乗り達は、人力と魔法を上手く使って船を操縦している。
船の中を一通り見たラサミス達は、ガラバーンに案内されて船の甲板上に出た。 するとガラバーンは耳錠のような物体をラサミス達に見せてこう言った。
「この耳錠は魔道具の『イヤリング・デバイス』です。 この『イヤリング・デバイス』は装備者の位置情報の把握に加え、他者と念話で交信する事が出来る魔道具です。 貴方達にはこの『イヤリング・デバイス』を装備してもらい、甲板上で敵を迎え討って頂きたい。ちなみに親機と子機は念話可能ですが、他の親機とは交信できませんので、各部隊のリーダーの方には携帯石版を持ってもらい、各リーダーはそれで連絡を取り合ってください」
そう言ってガラバーンは『イヤリング・デバイス』をドラガン、マリウス王子、レビン団長に手渡した。 そして更に銀色の携帯石版をドラガン達に手渡した。
「成る程、これならば確かに海上でも意思の疎通が出来ますね」
ドラガンが感心したようにそう言う。
「そうだニャン。 これは便利だニャン」
と、暢気な声でそう言うマリウス王子。
「ええ、しかし人数分用意するとなると、結構費用がかさばりますね」
レビン団長が少し渋い表情でそう言った。
するとガラバーンは右手を左右に振ってこう言った。
「いえ我々はいつもこの『イヤリング・デバイス』を使って航海してますから、ちゃんと人数分あります。 基本的に無料でお貸ししますが、故障、破損した場合は弁償してもらうことになりますので、予めご了承ください」
故障、破損した際に弁償させるところはちゃっかり――しっかりしている。
とはいえドラガン達としても、拒むという選択肢は選べない。
なのでこの場はガラバーンの提案を素直に受け入れた。
そしてラサミス達は自分の右耳に『イヤリング・デバイス』を装着して、他の者と交信できるか試してみた。 すると全員分、問題なく交信できた。 その姿を見てガラバーンは「うむ」と満足そうに頷いた。
「ではマリウス王子は客室で待機してください。『暁の大地』と山猫騎士団の方々は甲板上で待機してください。 基本的に視界に入った敵を迎撃しながら、船や帆を護ってください。それでは今よりブラックサーベル号を出発させます。 ――錨を上げろ!」
ガラバーンは右手に持った銀色の携帯石版に向かってそう叫んだ。
すると錨アンカーがあがってしまうと、ブラックサーベル号はゆっくりと動き出した。
甲板上では操帆手の猫族やヒューマンが帆を風魔法で帆や風を操る。
そして船の奥底では、漕ぎ手達が呼吸を合わせて、櫂を漕いだ。
するとブラックサーベル号が大海原へと乗り出した。
「うおおぉ、想像していた以上に速いぜ!」
ラサミスが興奮気味にそう言った。
「ああ、だが皆、船酔いには気をつけろよ。 不安がある奴は酔い止め薬を飲んでおけ」
「ライル兄様、いざとなれば私が解毒魔法をかけますわ」と、エリス。
「だが船酔いの度に解毒魔法を一々かけるのも面倒だ。
とりあえず航海に慣れるまで、各自、自分の体調管理は怠るな!」
「「「「了解」」」」 「「「はい」」」
ドラガンの言葉にラサミス達は声を揃えて返事をした。
すると櫓を漕ぐ速度が一段と増してきて、船の速度がまた上がった。
それと同時に船の奥底、あるいは船室、また甲板上からとある歌が聞こえてきた。
おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族、おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族
おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族、おれたちゃ猫族海賊!
おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族、おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族
おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族、おれたちゃ猫族海賊!
今日も櫂を漕ぐ水夫 今日も漕ぐ、昨日も漕いだ、明日もきっと櫂を漕いでるだろう!
お宝探し求めて、海賊になったが、現実はセコい略奪行為に明け暮れる日々。
それでも胸の内では大きな夢を抱いている。
でも知ってる、それは叶わない妄想。
それでもおれたちゃ海賊しかできない、だから昨日も今日も明日も海賊船で大海原をかける!
おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族、おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族
おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族、おれたちゃ猫族海賊!
おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族、おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族
おれたちゃ海賊、おれたちゃ猫族、おれたちゃ猫族海賊!
気が付けば、周囲の猫族海賊や航海士、水夫が同じ歌を口ずさんでいた。
単純なメロディーだが、妙に耳元に残る歌だった。
気が付けばエリス、メイリン、マリベーレも周囲に釣られて、歌い出した。
そしてブラックサーベル号を先頭にして、他の海賊船、猫族海軍の軍艦も大海原を突き進んだ。




