第二百十話 猫族(ニャーマン)チャンプ(前編)
---ラサミス視点---
「ラサミス・カーマイン選手。 入場してください」
大会の係員の男のヒューマンが控え室に入ってくるなり、そう告げた。
「うっし、んじゃ行くか。
兄貴、ドラガン、アイラ、セコンドは任せた」
「「「ああ」」」
オレはそう言葉を交わして、控え室から出て、身体を少し揺らしながら入場する。
「ただ今より第二十回四大種族混合・無差別級フィスティング大会の準決勝第一試合を行います。 まずは新進気鋭の新参者ラサミス・カーマイン選手の入場です!」
するとリング上から、
司会役と思われるヒューマンの女の甲高い声が闘技場内に鳴り響いた。
恐らくまた拡声効果のある魔道具を口元に当てて、叫んだんだろう。
少々五月蠅いが、こういう演出は嫌いじゃない。
「ラサミス・カーマインッ! 頑張れよー!!」
「ラサミス、ガンバよ!!」
「ラサミス、今日も勝ちなさいよ!」
観客席から怒声と歓声が沸き立つ。
エリス達はアリーナ席から応援しているようだな。
こりゃ負ける訳にはいかねえな。
「続いて上半期大会のチャンプ、猫族が誇る大スター!! ルーベン・オリスター選手の入場ですぅぅぅっ!!」
またしても司会役のヒューマンの女が大音声で叫んだ。
リング上から響き渡る嵐のような大音声が闘技場だけでなく、
観客を包み込んだ。 そしてそれに呼応するように観客も大歓声を上げた。
「オリスタァァァッ、頑張るニャァッ! ヒューマンなんかぶっ飛ばすニャ!」
「オリスタァァァッ! キミは我等、猫族が誇る希望の星だニャ!」
「そんな若造なんかに負けるニャ! とにかくKOするだニャン!」
「ルーベンッ!! 愛してるぅぅぅっ!!」
な、なんだ、なんだ!?
異様な盛り上がりを見せているぞ。
それによく観りゃ猫族の種族も男女問わず絶叫していた。
オレはこの異様な熱気に包まれて、リング上で軽く身震いした。
だがこれで終わりではなかった。
『天知る、地知る、猫ぞ知る。 さあ、ベイビー&子猫ちゃん! オイラと共に更なるエクスタシーを求めようぜ!! さあ、オマエ等……オイラの名を云ってみろぉぉぉぉぉぉっ!!』
な、なんだァ!?
なんだ、これは演出……なのか!?
というか観客の反応がオレの時と明らかに差があるんですけど?
「ルーベン、ルーベン、ルーベンッッ!!」
「ルーベン、ルーベン、ルーベンッッ!!」
「オリスタァァッ!!!」
「ルーベン・オリスタァァァァァァ……アアアァァァッ!!」
周囲の観客が何かに取り憑かれたように叫びだした。
観客席の観客が瞬く間にスタンディング・オベーション状態となった。
すると赤コーナー側の通路からルーベン・オリスターと思われる猫族が現れた。
ルーベン・オリスターと思われる猫族はヒョウ柄のガウンを着ており、
顔には仮面舞踏会でつけるような舞踏仮面を装着していた。
そして偉そうに両腕を胸の前に組んでいた。
するとその偉そうな猫族を囲むように踊り子達が現れた。
その踊り子達は、猫族だけでなく、ヒューマン、エルフ、竜人も
揃っていた。 皆、艶やかな衣装に身を包んでおり、色っぽいダンスを披露していた。
そんな中、ルーベン・オリスターはさも当然といった表情で、
ゆさゆさと身体を振りながら、ゆっくりとリングに向かう。
その間にも観客は狂ったようにルーベン・オリスターの名を呼び続けた。
ルーベン・オリスターは踊り子達に囲まれながら、
まるで王者の行進と云わんばかりに、堂々たる歩調でリングに近づいた。
そしてリングサイドに近づいた瞬間、空高くジャンプしてリングイン。
それから空中で一回転、いや二回転して足からリングに着地する。
すると観客がまた熱狂の渦に飲み込まれた。
「ルーベン、ルーベンッッ!!」
「ルーベン、ルーベンッッ!!」
「ルーベン・オリスタァァッ!!!」
それからオリスターは乱暴にヒョウ柄のガウンを脱ぎ捨てた。
そして上半身裸、下半身には小さなヒョウ柄のトランクスという格好になる。
身長は60セレチ(約60センチ)くらいか?
ルーベンの見た目は虎のようなブレード状の縞パターンに、
目はやや小さ目で、つり目だ。 品種はトイガーっぽいな。
だがそのやや胴長の小さな身体は骨太で、随分と引き締まってるように見えた。
更にリング上で両肩をゆさゆさとわざとらしく揺らせながら、
軽快なステップを刻んでから、両足をシャッフルさせた。
そして小さな赤いグローブをつけた右手で顔の部分に、
はめた舞踏仮面を外して、
アリーナ席の観客に向かって投げ捨てた。
コイツ、噂以上にやる奴だな。
間違いない。 コイツ、意図して場の空気を操作してやがる。
もうハッキリ云って、観客はオレの事などどうでもいいと思ってるだろう。
実際に無責任な観客の立場からすれば、
こんな派手な入場する猫族を応援するのは自然な行為だろう。
だがオレはコイツの噛ませ犬になるつもりはない。
例え観客に罵倒されても、勝利を掴みに行くぜ!
そしてオレは青コーナー、オリスターは赤コーナーへと向かう。
「レディース&ジェントルメン。 ただいまより準決勝第一試合を行います。 青コーナー、ライト級~、134パンド(約134ポンド)~、ラサミス・カーマインッ!」
司会役のヒューマンの女が魔道具を片手に大きな声で叫ぶ。
すると観客席から一斉に容赦ないブーイングが浴びせられた。
……アウェイ感半端ねえっ~。
「続きまして、赤コーナー、ライト級~、12パンド(約12ポンド)~!! 上半期大会の優勝者である猫族チャンプッ!! ルーベン・オリスタァァァッッ!!」
「ルーベン、ルーベンッッ!!」
「ルーベン、ルーベンッッ!!」
「我等、猫族の誇り! それがルーベン・オリスタァ!」
う、五月蠅えぇっ!
何だよ? この空気、オリスター一色じゃねえか。
この空気の中で戦えというのか?
こりゃ想像以上に厳しい戦いになりそうだぜ……。
「青コーナー、ラサミス・カーマイン選手対赤コーナー、
ルーベン・オリスター選手による準決勝戦、試合時間は三十分。
それでは試合開始です、レッツファイトッ!」
レフェリーがそう宣言して、準決勝戦が開始された。
よし、少々厳しい空気だが、オレは負けるつもりはねえぜ!
次回の更新は2021年3月31日(水)の予定です。




