第二百八話 準決勝に向けて
---ラサミス視点---
「――じょうぶ、――ミス」
「――サミス、――いじょうぶ――」
「――ラサミス、――っかりしてよ」
誰かがオレを呼ぶ声が聞こえる。
頭の中が少し痛む。
身体は……動くな。 どうやらオレは少し気を失っていたようだ。
「起きたっ! ラサミス、大丈夫なの!?」
と、エリスの声が聞こえた。
「ラサミスが起きたよ! ミネルバ、医者を呼んできてちょうだい!」
と、同様にメイリンの声が聞こえる。
「わ、わかったわ!」
エリスやメイリン達は心配そうな表情をしている。
どうやら皆に心配をかけたようだな。
「おい、エリス。 オレは何分くらい気絶していたんだ?」
「十分くらいよ。 というか無理に喋らない方がいいわよ」
「そうなのか? でももう頭も痛くないぞ」
「わたしが中級回復魔法を使って、治したのよ」
「医者を呼んできたわよ。 ラサミス、無理しないで、横になってて」
と、ミネルバが優しい声音でそう言った。
なんか妙に皆が優しいよな。
だが今のオレは妙に落ち着いた気分だ。
「ラサミス・カーマイン選手ですよね? ここが何処かわかりますか?」
白衣を着た中肉中背の中年のヒューマンの男がそう訊ねてきた。
「……無差別級フィスティング大会の医務室ですよね?」
「今日あなたは何をしてましたか?」
「無差別級フィスティング大会に出場して戦ってました」
「うん、大丈夫のようですね。 頭に痛みはありますか?」
「はい、少し痛みますが問題ありません」
「問題ないようですね。 それでは私はこれで失礼します。 お大事に!」
そう言って白衣の医師は踵を返した。
オレはその背中を見ながら、右手で頭を軽く擦った。
うむ、もう大して痛くない。
これなら問題なく準決勝で戦えそうだ
「……ラサミス、本当に大丈夫なの?」と、エリス。
「ああ、大丈夫だ。 だからそんなに気を使うなよ」
「どうやら問題ないみたいね。 ……良かった」と、メイリン。
「ああ、これなら準決勝も問題なく戦える。
あっ、というか準々決勝の第四試合はまだやってるのか?」
「……どうかしら?」と、ミネルバ。
「あたし達はお兄ちゃんの試合が終わったら、
すぐに医務室に向かってきたから……」
と、マリベーレ。
そうか、ならまだやっている可能性は――
「ワアアアアアアアアアァァァッ!!」
その時、闘技場の中から耳を劈くような大歓声が鳴り響いた。
凄い歓声だな。 これは中で何かが起こっているな。
「オレ、ちょっと中を見てくるよ」
「わたくしも同行しますわ」
「あたしも」
「おなじく」
「あたしも行く!」
そう言ってエリス、メイリン、ミネルバ、マリベーレがオレの後についてきた。
とりあえず次の対戦相手の試合でも観ておくか。
オレの予想じゃ多分、奴――ルーベン・オリスターが勝ち上がってくる。
オレはとりあえずエリス達が座っていた客席の一つに座り、リング上に視線を向けた。
すると周囲の観客は異様に興奮した様子で怒声と歓声を飛ばした。
「ウオオオォッ! オリスター最高!!」
「頑張って、オリスター!!」
「いや……なんかセコい戦いだぞ! ドーソン負けるんじゃねえ!」
「そうだ、そうだァ! 猫族如きにデカい面をさせるなぁっ!!」
猫族のルーベン・オリスターは怒声と歓声を一身に浴びながら、
対戦相手の竜人族のドーソンが繰り出すパンチを蝶の様に舞って交わし、
そして蜂のように強烈なカウンターを次々と突き刺していく。
気がつけば試合会場の観客達はオリスターに魅せられていた。
まるで少し前に試合していたオレの事など完全に忘れたように。
試合内容はオリスターが圧倒している。
体格で大きく上回る竜人のドーソンだが、
ちょこまかと動き回るオリスターを捕まえることが出来ない。
逆にオリスターは小さなパンチをこれでもかというくらいに連打した。
身長差があるので、基本はボディ攻撃が中心だが、
時々飛び上がっては左右のフックの連打。
あるいは飛び上がるようなアッパーでドーソンの顎を綺麗に打ち抜いた。
そのような展開が最終ラウンドまで続く。
そして最終ラウンドが始まった頃には、
ドーソンの顔は異様に腫れ、左目が塞がっていた。
オリスターは更に追い打ちをかけるべく、
ドーソンの懐に入って、左右のフックのつるべ打ちを浴びせ続けた。
一発、一発の威力は大したことはないだろう。
だがアレだけ連打を食らえば、いやでもダメージは蓄積されていく。
そしてドーソンが気力を振り絞って、
反撃する頃にはオリスターは軽快なフットワークで安全圏まで逃げる。
絵に描いたようなヒット&アウェイスタイルだ。
その後もオリスターはパンチの連打をオーソンに浴びせた。
そしてドーソンの両眼がとうとう塞がり、そこでレフェリーが試合を止めた。
第三ラウンド6分57秒、それが正式なKOタイムだった。
「あらら、猫族が勝っちゃいましたわね」と、エリス。
「あの猫族がラサミスの次の相手よね?」と、メイリン。
「ああ、こりゃ厳しい戦いになりそうだぜ。
というわけでオレはもう拠点に帰るよ」
「そうね、あたしも帰るわ」と、ミネルバ。
「うん、あたしも帰る~」と、マリベーレ。
どうやら明日は想像以上に厳しい戦いになりそうだ。
でもオレは負けるつもりはねえ!
明日の準決勝に勝てば、黄金の手になれる。
ここで上級職になれるか、どうかでオレの今後の命運が変わる。
だからオリスターさんよ。
悪いけどアンタには負けてもらうぜ。
そしてオレは勝つ為には、あらゆる手を使うつもりだ。
アンタと同じようにな。
オレはそう思いながら、踵を返して闘技場を後にした。
次回の更新は2021年3月27日(土)の予定です。
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