第百七十五話 荒野での激闘
岩と砂磯だらけのヴァルデア荒野で激しい戦闘が繰り広げられた。
俺達、四大種族連合軍の総兵力はざっと換算して、千五百前後。
基本戦術はこの間の「アスラ平原の戦い」と同じだ。
両翼に攻撃の要の部隊を置いて、本陣にはマリウス王子などの各種族の重鎮が陣取り、後方から全軍に指示を出すという形だ。
だが前回はそれで失敗を重ねたので、基本的に本陣の首脳陣は、最低限の命令しか下さない。
とにかく火力のある両翼で敵を攻めるというシンプルな戦術だ。 しかし連合軍と言えば、聞こえはいいが所詮は即席部隊。 故に小細工を要するより、力押しで攻める方がこの場においては正解だった。
「――せいっ! 「兜割り」っ!!」
俺はそう技名を叫びながら、両手で持ったミスリル製の戦斧を眼前のコボルトの頭上に振り下ろした。
「ギャガアアアアッ!!」
頭蓋骨が打ち砕かれて、断末魔を上げるコボルト。
そして俺はコボルトの頭部から、ミスリル製の翠玉色の戦斧を抜き取り、再び両手で戦斧の柄を握り締めた。 ちなみにこのミスリル製の戦斧は、この戦いの前に新調した。
リアーナの高級店の武器屋で125万グラン(約125万円)で購入。
やや値を張ったが、斧刃の切れ味は非常に鋭く、闘気や魔力の伝達率も非常に良い感じだ。 既に現時点でもゴブリンやコボルト、オークなどを二十体以上斬り倒した。 だがこの戦斧は刃こぼれの一つもなかった。 これならまだ何体でも相手に出来そうだ。
「そいつの相手はこのエンブラン様がするぜ!」
と、茶色の人狼が戦斧を片手に前へ出てきた。
自己主張の激しい野郎だな。
でもこんな真似されちゃ逃げるわけにもいかねえ。
「はい、はい。 お前みたいな奴は何処にでも居るよな」
「ふんっ! 見た感じ若そうだが、なかなかやるよう――!?」
「戦場でペラペラ喋ってんじゃねえよ! ――レイジング・スパイク!」
俺は相手が喋り終える前に、手にした戦斧を振り上げて一直線に敵の頭上に振り下ろした。
「ぎ、ぎ、ぎゃあああぁっ!!」
完全に不意を突いた上級斧スキルがまともに命中。
茶色の人狼は絶叫しながら、背中から地面に倒れ込んだ。
そして俺は即座に傍に駆け寄り、右足で首を蹴り折った。
すると茶色の人狼は、しばらく身体を痙攣させてから、動かなくなった。
「おう、ライルの弟! 少し卑怯だがなかなかの速攻だったぜ」
「そりゃどうも!」
俺はやや冷やかすように言ったボバンの言葉に曖昧に頷いた。
「お前等、無駄話はそこまでだ! 敵が攻めてきたぞ!」
「あいよ、団長! うほっ、こりゃ大漁じゃねえか!」
アイザックがそう言い、ボバンが舌なめずりしながらそう応じた。 俺も釣られて前方に視線を向けるが、敵が群れとなって襲って来た。 ゴブリン、コボルト、オーク、トロルなどを中心に、蜥蜴人間や人狼の群れが次々と襲い掛かって来た。
「――甘い! パワフル・スマッシュ!」
「ピアシング・ブレード!」
「ヴォーパル・スラスト!」
「くたばれや! ――レイジング・バスターッ!!」
迫りくる敵も恐れずに、アイザックが先陣を切り、兄貴、ミネルバ、ボバンが後に続き得意の技で敵を斬り捨てた。
「アギギギギィッ!!」
しかし僅かな隙を突いて、ゴブリンの群れがこちらに迫って来た。
やれやれ、まるで人海戦術だな。 だがそうはさせねえよ!
「――プル・ストライク!」
俺は身体を捻りながら、豪快に手にした翠玉色の戦斧を振り回した。
次の瞬間、斧刃でゴブリンが切り裂かれ、その小柄な身体が後方に吹っ飛んだ。
うむ、なんというかあの女吸血鬼と戦ったからか、こいつ等、下級兵が随分と弱く感じるぞ。 これぐらいならいくらでも相手に出来る気がする。
――よしならば!
「『ローリング・ブレイク』ッッ!!」
「ギョ、ギョアアアアアアァッ!?」
「なっ!? ……う、うぎゃあああぁっ!?」
俺は敵の群れに突っ込んで行って、戦斧をぐるんぐるんと力強く振り回した。 俺が一回転、二回転とする度に、周囲の雑魚モンスターが切り裂かれ、吹っ飛んだ。 そこから更に三回転、四回転、最終的には七回転までやった。 すると周囲の敵は一掃されて、俺の周りには敵の死骸だらけとなった。
「やべえ、少し目が回って来た」
「ほう、やるじゃねえか。 ライルの弟」
「ボバンさん、いい加減その呼び方やめてくださいよ?」
「ん? んじゃなんて呼べばいい? ラサミスの小僧か?」
あのなあ、そこは普通にラサミスでいいだろう?
でも言い返すのも面倒なので、俺は「お好きな呼び方でどうぞ」とだけ返した。
「お前等、くだらん話はそれぐらいにしろ! 敵のサキュバス部隊が攻めてきたぞ」
「あいあい、団長」
「……了解ッス」
アイザックの軽い叱責に俺とボバンは無駄口を叩くのを止めた。
というかそんな場合じゃない。
サキュバスの魅了攻撃はやはり警戒すべきだ。
まあ俺達『暁の大地』の面々やアイザックやボバン、そして山猫騎士団の猫騎士達などの主力部隊は、前回の戦い同様に、状態異常に強い耐性を持つレディスの首飾りを装着している状態だ。
だがこのレディスの首飾りはかなりの高級品。
故に全員分はとても用意できない。
だから対サキュバス戦では、自然と俺達の出番の機会が増える。
「サキュバス部隊が来たぞ! 狙撃部隊、準備はいいか?」
「はいっ!」
荒野の岩陰に身を潜めていたマリベーレを初めとした魔法銃士や弓兵が手にした魔法銃や弓を空に向けて、構えた。
「よし! 一斉に射撃せよ!」
「了解!!」
アイザックがそう号令を下すなり、後衛で岩陰に隠れていた狙撃部隊が一斉に空に向けて、銃弾や矢を放った。
銃弾や矢の命中率は正確だった。
上空のサキュバスが悲鳴を上げながら、次々と地面に落下していく。
だがこれで終わりではない。
アイザックは右手を大きく上げて、新たなる命令を下した。
「よし、次は魔法部隊だ! 魔力が枯渇しない程度に派手に魔法を撃て! そして魔法攻撃が終われば、再び狙撃部隊が銃や弓でサキュバスを狙え! これらの行動を時間差を置いて繰り返す! いいな!」
「はい! よし行くわよ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 炎殺!」
メイリンが素早く呪文を紡ぐなり、両手杖から激しく燃え盛る炎の塊が生み出された。 そして両杖の先端の赤い魔石から、緋色の炎の塊を連続して解き放たれた。
ドオオオン、ドオオオン、ドオオオンという爆音が空中に響き渡る。
放たれた緋色の炎がサキュバスの群れを呑み込んだ。
そして球形に膨れ上がった炎が、激しい爆発を引き起こす。
爆発音と共にサキュバス部隊が四方八方に飛散した。
流石はメイリンだ。
魔導士に転職した事によって、魔法の威力が前より増した気がする。 あ、でも今は魔導士のレベルは低いか。 まあ彼女は元々の魔力値と魔法の素養が高いのだろう。
「我々も続くぞ!」
「おう!」
メイリンに負けじと、他の魔法部隊も次々と魔法攻撃を開始。
基本は炎属性か、魔族の弱点の属性である光属性だ。
そして空中で炎属性と光属性が交わり、魔力反応『核熱』が発生して、更に激しい爆発が起こった。 これによってサキュバス部隊に更なる大打撃を与えた。
「よし、いいぞ! ん? どうやら新手が来たようだ!」
アイザックがそう言って、上空に視線を向けた。
俺も釣られるように、上空に視線を移した。
すると上空にグリフォンやコカトリス、ワイバーンの群れが現れた。
どうやらグリフォンとかに敵の魔族が騎乗しているようだ。
「あれは恐らく獣人か、魔族の部隊だな! だが基本方針は変えぬ! 魔法部隊、攻撃は可能か?」
「無理です! 魔力の蓄積が追いつきません!」
と、後方の魔法部隊の一人のヒューマンの男がそう叫んだ。
「そうか、なら魔力回復薬か、魔法戦士から魔力を受け取れ! 狙撃部隊はどうだ?」
「攻撃可能ですが、少し遠距離なので命中率は低いと思います」
マリベーレが控えめにそう言った。
「構わん! 少しは敵を食い止められるだろう! 弾切れや矢切れとかにならない程度に撃つんだ!」
「了解です! 『ホークアイ』発動ッ!!」
職業能力『ホークアイ』を一斉に発動せる狙撃部隊。 そしてマリベーレをはじめとした魔法銃士や銃士は、近くの岩に身を寄せて、魔法銃や狙撃銃のハンドガードの部分を岩の上に乗せて、 銃口を上空に漂う敵の飛行部隊に向けた。 その間にも弓兵達が上空に向けて、矢を放つが流石に距離が遠すぎて、ほとんど命中しなかった。
ん? なんかあの中央に居るグリフォンに乗ったボスっぽい感じの獣人がなんか両手で印を結んでいるぞ。 こ、これは……!?
「あ、アイザックさん! 敵のボスっぽい奴がなんか魔法を唱えてますよ!」
「何っ!? ああ……あいつか! 物凄い一撃が来そうだ! 魔法部隊! 攻撃を止めて、対魔結界を張る準備をしろ!」
「いやまだ魔力の蓄積が中途半端ッス!」
アイザックの命令にメイリンが軽く反論する。
「構わん! とにかく張れる者だけでもいい。 皆で力を合わせて、敵の魔法攻撃を防ぐんだ!」
「りょ、了解ッス」と、メイリン。
「ならば私もサポートするわ! ――アルケイン・ガード」
アイラが絶妙のタイミングで、職業能力『アルケイン・ガード』を発動。 これによって周囲の仲間の防御力や魔法防御が一時的に強化された。
これで何とかなる……なっ!?
次の瞬間、俺の背中に激しい悪寒が走った。
左翼に配置されていた味方部隊が突如、激しい竜巻に飲み込まれた。
なんだ、あの竜巻……急にこの場に発生したぞ。
も、もしかしてあれが敵の魔法攻撃の一種なのか。
ありゃ魔法攻撃というより、天候を操作した類の魔法だ。
と、俺が思っているうちに次々と左翼部隊の兵士が竜巻に飲み込まれて、乱暴にシェイクされた。
「や、ヤバい! まさかあのクラスの現象を起こすとは、想定外だ。 魔法部隊、直ちに左翼部隊を支援するのだ。 あれは多分風属性の魔法だから、土属性の対魔結界か、
あるいは土と水の混合対魔結界であの竜巻を抑え込むんだ」
「や、やれというならやりますけど、その分こちらの魔法部隊が手薄になりますよ? せめて最低でも三割は残さないと、危険ッス。 後、できれば聖騎士とかの防御役を護衛につけて欲しいっス!」
メイリンは危機的状況ながらも、正確に状況を把握してそう進言した。
するとアイザックもメイリンの進言を受け入れ、こう命令を下した。
「分かった! とりあえず対魔結界を張れる者は向こうへ行って支援してくるんだ。 こちらに残すのは三割程度の戦力でいい」
「了解ッス! アイラさん、護衛お願いします!」
「分かったわ」
これでなんとかなるか、と思った矢先にまた事態が急変した。
「おう、おう、おう! この間隙を突かんとばかりに前方から敵が攻めてきたぞ。 こいつはちとヤベえな……」
ボバンはそう言うなり、両手で緋色の魔剣を構えた。
どれどれ、と俺は双眸を細めて前方を見据えた。
うはっ! けっこうな数じゃねえか、こりゃ他人の心配している場合じゃねえな。
「大丈夫だ。 俺とお前が本気を出せばあれくらいなんともない」
「だよな~。 あの程度なら楽勝だぜ!」
と、ボバンが自信満々にそう言った。
「アイザックさん、敵の飛行部隊に竜騎士団が攻め込むようです」
と、兄貴が冷静な口調でそう告げた。
「そうか、レフならば相手の幹部クラスが相手でも戦えるだろう。 よし、とりあえず敵の飛行部隊は気にするな。 竜騎士団が全力で奴等を食い止めてくれるだろう。 俺達はまず眼前の敵を蹴散らすぞ、分かったか!?」
「はい」「了解!」「任せてくれ!」
俺達だけでなく、周囲の冒険者や傭兵も口々にそう答えた。
そうだな、とにかくこういう場合は焦った方が負けだ。
だからまずは自分のやれる役割を果たすべきだ。
そしてアイザックは手にした漆黒の魔剣を右手で振り上げた。
そこからやや間を置いてから、魔剣を軽く振り下ろしこう叫んだ。
「行くぞ! 前衛部隊! 眼前の敵の集団に目掛けて突撃せよ!」
「おお!!!」
俺もその言葉に釣られるように、手にした翠玉色の戦斧を構えながら、全身に闘志を滾らせて、全力で敵目掛けて、突撃を開始した。
――こりゃ少し厳しいな。
――だが逃げるわけにはいかねえ!
――ならば一体でも多く敵を倒してやる!
次回の更新は2021年1月9日(土)の予定です。




