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【天界編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第三十一章 上級職(ハイクラス)と独創的技(オリジナル・スキル)

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第百六十九話 安らぎの一時


「ふう、今日はけっこう買い物したわ」


「そうだな」



 買い物を終えたライルとアイラは、中立都市リアーナの商業区のテラス付きのカフェで一休憩していた。 二人はテラスのテーブル越しに向かい合う形で椅子に腰掛けている。


 ライルは黒いシャツと青いズボン、それに首に真っ赤なネッカチーフを巻くといういつものスタイル。 対するアイラはフリル付きの白いブラウスに、丈の短い黒のスカートという格好。


 二人は上層部との話し合いを終えて、久しぶりにリアーナに帰還した。

 ドラガンは芸人一座の絡みで、その関係者に挨拶回りに奔走している。

 残された二人は特にやることもなかったので、暇潰しがてらに久々にリアーナの商業区で買い物をしていた。



「しかしエリスとメイリンが上級職ハイクラス転職クラスチェンジを考えていたとはな。 気が付けばあの二人は、我が連合ユニオンに欠かせない戦力になっているな」


「まああの二人は優秀だからね」と、アイラ。


「ああ、だがこれから先の戦いは本当に厳しくなるだろう。 俺も生き残る為のすべを考えなければな」


「……そうね。 魔族やつらは本当に強い」


「ああ」


「でもこうして二人で、買い物するなんて本当に久しぶりね」


 アイラはやや意味ありげの視線をライルに送った。

 しかしライルは特に気にする素振りも見せずにこう続けた。


「そうだな、いつもは仕事で忙しいからな」


「ねえ、ライル」


「……何だ?」


「初めて私と会った時の事を覚えている?」


「ああ、覚えているぞ」


 やや間を置いて、そう答えるライル。

 するとアイラがやや懐かしむようにこう言った。


「あの頃の私は自分で言うのもあれだけど、嫌な女だったと思う。 自分では超然としているつもりでも、内心では他人の言葉や反応を気にしてばかり。 でもそれを他人に悟られたくないから、更に他人を寄せ付けないように超然とした振る舞いをする」


「……冒険者なら誰しもそういう部分はある」


「でもあなたは変わらないわね。 いや変わったわね」


「……どういう風に変わった?」


「なんとなくだけど、優しくなった気がする。 多分原因はラサミスでしょうね」


「そうかもしれん」


「ねえ、昔のあなたたちはどういう兄弟だったの?」


 するとライルはしばらく考え込んだ。 

 そして考えがまとまったのか、ぽつりぽつりと口を開き始めた。


「仲は良かったと思う。 あいつはいつも俺の後をついてきたからな。 あいつが冒険者になったのは、俺の影響だ。 これだけは間違いない」


「そうでしょうね。 あなた達は本当に良い兄弟よ」


「そうか、そう言われるとなんか照れ臭いな」


「ええ、私には家族と呼べる家族はいないから」


「……そうか」


「……ええ」


 そう言えばけっこう長い付き合いになるが、アイラの家族構成については、何も知らないな、と思うライル。 しかし安易に触れて良い問題ではないので、ライルはそれについては触れず、別の話題を振った。


「しかしこうして太陽の日を浴びながら、誰かと茶を飲むというのは、これはこれで悪くないな。 やはり時には休むことも必要だな」


「ええ、本当にそう思うわ。 ……ライルは私と居て楽しい?」


 アイラの問いに何やら考え込むライル。

 するとアイラが丁寧な口調でゆっくりとこう言った。


「無理に答えなくていいわ。 ただ聞いてみただけよ」


「……ああ、楽しいぞ」


「……本当に?」


「ああ、こんな嘘は言わないさ」


「……そう、嬉しいわ。 あなたは冒険や仕事以外何も興味ないと思ってた」


「そんなことはない。 俺も将来のことなど色々考えているぞ」


「そう、結婚についても考えたりするの?」


「ああ、考えなくもない。 だが今はやはり目の前の戦いに集中したい。 それらについて考えるのは、この戦いが終わってからだ」


 ライルはアイラの問いに毅然とした口調でそう返した。

 

「そうよね、あなたはそういう人間よね」


「……何だ? 何か俺に不服があるのか?」


「いえ、でも時々無性に寂しくなったりしない? 私はなるわ。 いえ子供の頃からずっとそうかもしれない」


 そう言って何処か遠い目をするアイラ。

 アイラの気持ちも分かるし、言わんとすることも理解できる。

 ライルとて一人の人間であり、若者だ。

 しかしライルという人間は、何処までも生真面目きまじめであった。

 故に彼としては、目の前にある難題から逃げて誰かと平和に静かに暮らすという真似はできなかった。


「俺もそういう気分になることはある。 これでも一応人間だ。 だがやはり目の前の難題から逃げるのは、なにか嫌だ」


「そう、あなたならそう言うと思ったわ」


「アイラ、どうした? 今日の君は少し変だぞ?」


「……そんなことはないわ。 これが素の私よ?」


「そうなのか?」


「そうよ」


「「……」」


 しばし無言で見つめ合う二人。

 傍から見えれば恋人同士に見えなくもない。

 しかし二人の間には、他人には見えない壁が確かに存在した。


「俺はこういう人間だ。 多分死ぬまで変わらないと思う。 いやそのうち嫌でも変わらなくては、いけない時が来るかもしれん。 しかし今の俺にそれは無理だ。 俺は生きたいように生きて、そして死にたい。 俺ももう少しで二十三歳。 まだ自分自身に夢を見られる年齢だ。 だが後、二、三年もすれば嫌でも夢から目が覚める」


「……ええ」


「その時は誰に隣に居て欲しいと思うかもしれない」


「……私にもその可能性あるかな?」


 アイラは静かにそう問うた。

 するとライルは小さく頷いて、こう言った。


「ああ、というか現時点ではお前以外の女性は考えられん」


「……本当?」



「ああ、こんな嘘を言う程、無神経じゃない」


「そ、そう……なんか嬉しいわ」


「アイラ」


「な、何?」


「俺はこの戦いで限界まで戦うつもりだ。 だがもしこの戦いに無事生き残れたら、俺は冒険者を引退するかもしれん」


「……そう」


「ああ、俺はカーマイン家の長男だ。 そろそろ腰を据える時期が来てるかもしれん。 だが今はまだ無理だ。 だからアイラ、共に生き残ろう。 その時が来たら、俺の口から言うべき台詞を言うよ」


「え、ええ」


「やはり人間、一人は寂しいからな」


「……本当にそう思うわ」


 そう言葉を交わして、二人はしばらく無言で見つめ合っていた。

 もう長い付き合いになるが、こういう話をしたのは初めてだ。

 それに対して驚きと嬉しさが混じった複雑な感情にやや戸惑うアイラ。

 しかし後から思い返せば、二人の距離がぐっと近づいた瞬間だったかもしれない。


次回の更新は2020年9月30日(水)の予定です。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 未来について考える時間。 なにげないようでいて、後々深い意味をもってきそうなひと時でしたね。 ふたりが無事に明るい未来をつかめますようにと願ってしまいます。 特にアイラさん、がんばれがんば…
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