第百二十三話「四大種族連合軍誕生!」
エルドリア城制圧から十日が過ぎた。
かつてこの城の住人だったエルフ族の大半が処刑され、隷属を望んだ者は奴隷及び性奴隷として生かされる事を許された。
かつて王であったグリニオン一世の頭蓋骨で作った酒杯を片手に玉座に深々と座りながら、ニヤニヤと笑う新たな城の主。 魔王軍総指揮官の魔将軍ザンバルドである。
彼の近くにはかつて王の従者であった者達が立っていた。
執事長のローレンは黒服姿だが、若い男女は半裸に近い格好だ。
他者に肌を見せる事を嫌うエルフ族にとっては、これ以上にない屈辱だ。
「いやあ絶景、絶景。 これぞ、王者の風景、ってか!! 実に気分が良いねえ~。 なあ、バルデロン。 お前もそう思うだろ?」
ザンバルドは玉座の傍に立つバルデロンに向かって、そう言った。
バルデロンは直立不動のまま、主の言葉に首肯する。
「まあそうですね。 ところで将軍」
「ん? 何だ?」
「エルフ領内の平定は順調に進んでいるようですが、問題も起きているようです」
「要するに平定すれば、するほど、戦力が分散されるという事だろう?」
「ええ、端的に言えばそうです」
ザンバルドとてそれくらいの事は分かる。
今回の作戦に参加した戦力の総数は二千前後。
決して少なくない戦力ではあるが、この数でエルフ領を全て平定するには無理があった。
なので港町アバラス、ギルレイク、古都エルバインを占拠した時と同じように、エンドラのサキュバス部隊で、男を魅了して傀儡化し、次々と文明派のエルフ領を平定していったが、それも限界に近づいてきた。 単純に資源と人員の絶対数が足りないのである。
戦争においては拠点の制圧後の資源と人員の確保が何よりも大切である。
本来ならばここで魔王レクサーに増援の要請をすべきだが、ザンバルドはあえてそれを拒否した。
どうせ後から来た連中がしゃしゃり出てきて、現場を描き回すに決まっている。
それにこういう風に頭を悩ませるのも戦争の醍醐味の一つだ。
ただ数に任せて敵を蹴散らしたのでは、面白くもない。
などと思案していたが、平定を終えたグリファムが戻って来た。
帰還するなり、グリファムは開口一番に――
「ザンバルド、無事平定を終えたがそろそろ人員の限界だ。 我等だけでこの広いエルフ領を統括するのは、最早限界だ。 早急に魔王陛下に増援を要請すべきだ」
「お前も言わんとする事は分かる。 だが増援の要請は拒否する」
「何故だ?」
やや怪訝な表情でそう問うグリファム。
「分からんか? 後から来た連中に好き放題にされたくないからな」
「それは私も同じだ。 だがこのままではいずれに限界に達する。 そうなる前に手を打つべきだ。 それにこれを見ろ?」
そう言ってグリファムは右手に持った白い書状をザンバルドに差し出した。
玉座から立ち上がり、その白い書状を受け取り、目を通すザンバルド。
「……猫共が和睦を望んでいるだと? おい、おい。 戦う前から怖気づいたのか? ったく根性のねえ連中だ」
「いや奴等とて馬鹿ではない。 恐らくこの書状は時間稼ぎだろう。 現に奴等は猫族の本城に他の種族を集めて会議中との事だ。 もう少しすれば、四大種族による連合軍が結成されるだろう。 そうなれば戦いは避けられん。 だからこそ増援を要請――」
「それこそ望むところよ! 奴等がその気なら叩き潰せばいいのさ! それにこの作戦の総指揮官は俺だ。 だからお前に命令される筋合いはない」
「命令ではない。 助言しているだけだ」
「それが余計なお世話なんだよ。 まあお前は糞真面目だからな。 とにかく抗戦だ。 連中がやる気なら真っ向勝負で叩き潰すまで! 占領した各拠点には最低限の人員だけ置いて、全軍を挙げて、敵と戦う。 これは総指揮官としての命令だ!」
高らかにそう宣言するザンバルド。
するとグリファムは力なく首を左右に振った。
「分かった。 ならば俺はもう何も言わん。 お前の好きにしろ」
「ああ、好きにするぜ! ちなみに俺も前線に出るからな!」
「おい、それじゃこの城は誰が護るんだ?」
「ん? エンドラに任せてりゃいいだろう。 何せこの城には若いエルフがたくさん居るからな。 奴も文句は言わんだろう」
「……分かった。 だがザンバルド。 あまり敵を侮るなよ? 我等はかつて四大種族連合軍に敗れた過去があるからな。 その不名誉をお前自身が背負わないように祈っておくよ」
「へっ。 それこそ余計なお世話だぜ。
んじゃ作戦会議をするから、お前は獣魔団を集めてくれ」
「ああ、先に行って待っておくよ」
グリファムはそう言って、踵を返した。
彼が居なくなるなり、バルデロンが心配そうにこう言った。
「将軍、よろしいのですか?」
「あ? 何がだ?」
「いえ、私も猫族や穏健派のエルフ族と戦いましたが、あまり奴等を侮らない方がいいと思います」
「やれやれ、お前もお説教かい?」
「説教ではありません。 ただ少し心配なだけです」
するとザンバルドは「ククク」と嗤った。
「敵が強ければ、それはそれで構いやしないさ! 俺は六百年もこの時を待っていたんだぜ?
小ずるい駆け引きなんか興味はねえ! 俺が望むのは、血が沸き立つような激しい戦いよ! それを望まなくして、何が魔族よ! 違うか?」
「……分かりました。 差し出口が過ぎたようです」
「分かればいいさ! んじゃ早速作戦会議と行こうじゃねえか。 バルデロン、お前もついて来い!」
「はっ!」
---------
第一回の円卓会議から四日後。
結局、円卓会議は計三回行われた。
二回、三回目の会議では、主に作戦内容と陣形について語られた。
四大種族による連合軍は、猫族領のガルフ砦を拠点にして、エルフ領のアスラ平原で魔王軍を迎え撃つ事となった。
参加する兵力は猫族の山猫騎士団。
ニャンドランド王国猫騎士団、ニャンドランド王国魔導猫騎士団から五百名程、エルフ族の穏健派はネイティブ・ガーディアンから五百人前後。 ヒューマンは、王国騎士団及び王国魔導騎士団から三百前後の戦力。
竜人族は傭兵隊長アイザックが竜人族のみで、構成された傭兵部隊三百人を率いる。 それに中立都市リアーナでフリーの冒険者や傭兵を高額の報奨金で釣り、百五十名程の戦力を確保。 全てあわせて千八百前後の戦力。 これ程の戦力が集結するのは、第一次ウェルガリア大戦以来だろう。 だが必ずしも数が多い方が有利とは限らない。
既に俺達の耳にも入っているが、魔王軍にはサキュバスの大部隊が居るとの話。
サキュバスといえばアレだ。 エロい感じの女悪魔が男を魅了するという種族。
まあ男として一度くらいは魅了されたいと思う面もなくはないが、現実問題として戦場の主力は基本男である。 全部とは言わないが、その半数でも魅了された全軍が一気に瓦解する。
よって過去の賢人の知恵に習って、女性のみで構成された対サキュバス部隊を結成する事が決定した。 しかし他種族と共闘すると、何処かで綻びが生じる可能性も考慮して、
基本ヒューマンはヒューマンのみ。 エルフはエルフのみでという感じで同種族のみでパーティを組み、サキュバス部隊と戦う。 数としては二十から三十くらいの戦力だが、この戦いの生命線となる部隊だ。 そして戦士や聖騎士など防御役が
彼女等を護り、僧侶などの回復役が治癒及び状態異常の解除を行う。
また各部隊の主力は、サキュバスの魅了を初めとした状態異常に強い耐性を持つレディスの首飾りを装着して、戦いに挑む。 この首飾りは名前からも分かるように、ヒューマンが信仰する
国教レディス教の女神レディスの強い加護を受けた首飾りを帝王級以上の術師によって更に強化された魔道具。
これさえ身につけていれば、サキュバスの魅了くらいなら完全に防げるらしい。
俺達『暁の大地』の八人は全員分揃えて貰ったが、他は各騎士団長や副団長、それと傭兵部隊の主力のみに配られた。
なんでもこれ一つで一千万グラン(約一千万円)ぐらいの価値があるらしい。
そう考えると凄いな。 俺達八人で八千万グラン(約八千万円)だもんな。
基本陣形は左翼がヒューマンで結成された部隊。
右翼が傭兵隊長アイザックが率いる傭兵部隊。
尚、俺達『暁の大地』やリアーナで雇われた冒険者と傭兵もこの右翼に属する。
そして中央に本陣となる猫族と穏健派のエルフ部隊。
基本的に左翼と右翼で攻撃して、両翼が疲弊したら後退して、中央の本陣が前に出るという戦術。 まあシンプルな戦術だが、このような大部隊で奇策を用いても、上手くいくとも思えない。 故にこういうシンプルな戦術で戦った方が安定感が増す。 とりあえずこれで戦いの準備は整った。 後はアスラ平原で魔王軍を迎え撃つだけだ。
三日後。
俺達『暁の大地』を含めた冒険者と傭兵は徒歩でガルフ砦に移動。
猫族はポニー、それ以外の種族も大半は騎兵。
そして竜人族の傭兵隊長アイザックと一部の傭兵は飛竜に騎乗して移動。
それから五時間後。
アスラ平原の上空と地上に魔王軍が現れた。
いよいよ、これから魔王軍との本格的な戦いが始まる。
絶対に負けられない戦いだ。
「皆、覚悟はいいな? 全員全力で戦え! それが我等の役目だ」
ドラガンの言葉に、皆が無言で頷いた。
そして今この瞬間に、四大種族と魔族による戦いの幕が上がろうとしていた。
次回の更新は2020年1月4日(土)の予定です。




