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side妹レガートリータ・カルテット視点?2 姉妹の絆


◆side妹レガートリータ・カルテット視点?2 姉妹の絆

 けれど体の傷は治っても、心の傷を治さないとまた同じことを繰り返すだろう。


 自殺未遂までしたことがショックで、綺麗でなんでもできる完璧な姉からアルト義兄さんを誘惑しようとしたことを猛反省し、心のケアのためにはわたしひとりだけでは限界があると考えた。


 そこで先ず最初は、姉と一番親しくて、姉のことを残念ながら家族のわたしより余程よく知っている、姉の親友だと聞いた子爵令嬢のクインティナさんあたりから相談するのはどうだろうかと思って、彼女に会うことになった。


 しかし隣国との戦争が始まり、女性兵士として入隊することが決まったクインティナさんは、後方支援ではあるが忙しくなり始めたため、彼女の都合に合わせて面会するのは大変だった。


 なんとか面会すると、姉のひどい噂のこと。それを信じた姉に近づく男が、姉を色眼鏡で見ながら近づいてきたこと。そういう男を姉から遠ざけ近づかせないように、ふるいにかけるためにわざと誘惑していたこと。


 それから婚約者だったアルト義兄さんを同じように誘惑したこと。そのせいで婚約解消になり、アルト義兄さんが戦地に行ってしまったこと。姉が病気になったことなどを、恥も外聞もかなぐり捨てて事細かに打ち明けたのだ。


 するとクインティナさんが、まだ新人兵士で雑用しか任せてもらわない身だから、非番の日や休日は訪問して扉越しでも話しかけてみる。それ以外は手の空いた時に励みになるような手紙を書くからフェリ……貴方のお姉さんに渡してもらえるかい? と、協力してくれることになった。







 また、事業で忙しくてなかなか捕まらない父親に、姉が死の境をさ迷ったことを報告した。するとその時は渋い顔を歪めて


 「……そう……か……」とそれきり口ごもったが、姉の経過が気になったので報告だけで早々に帰った。


 




 それからクインティナさんに姉の経過を報告したり相談しに子爵家を訪問したり、手紙を持ち込んだりするようになった。


 ある日クインティナさんがいない時に、13歳の弟さんのデクテット君に、わたしが姉とアルト義兄さんたちにした行為のせいで、クインティナさんと行き来したり手紙をやりとりする理由を知り、叱咤された。


 だからこそわたしは今こうしてクインティナさんに姉の心を癒すために協力してもらっている。自分のしたことを大いに後悔して苦しんでいるのだと……遂にわたしは癇癪を起して怒鳴りつけてしまった。


 するとデクテット君は次第に小さな子をあやすかのように頭や背中をなでて慰めてくれた。


 「ちょ……ちょっと! わたしは子供じゃないわよ!?」


 「はあ? それ本気で思ってるの? いいや違うね。僕なんかよりよっぽど君は子供だ。しかも大人の形したもっと質の悪い子供だ。

 他人の物を羨んで手に入れて。それでその人に成り代われると本気で思っていたの? そうじゃないだろ? 

 君には君の良さがあるはずなのに。それを卑下して物質的な物だけ手に入れて。形だけ真似しただけでは、憧れて尊敬している人には決してなれなかったでしょう?

 貴方なりの内面をもっとちゃんと磨いて努力すべきじゃないの?」


「あ……そんな……」


 わたしはその言葉通りだと思い知った。確かにわたしはわたしのままだ。お姉様にどれだけ憧れて尊敬していたとしても、お姉様と同じドレスを着て宝飾品を身に着けて、……でもお姉様には決してどんなに真似しようとしてもなり得なかったという事実に……衝撃を受けた。


 ああそうだ……前世でもわたしは同じようなことをして……でも結局周囲の人達を傷つけてしまっただけだったのに!?


 それをまた今世でも同じ行為をして、結果姉とアルト義兄さんをどれほど傷つけてしまったことか。……


 言われてみれば幼少の頃はわたしがどんなお転婆しても父母や姉が褒めてくれたな。父母が事業で苦労して社交や経営をしている時も。姉が勉強や社交で悩んでる時も。


 レガートリータが笑顔を見せてくれるだけで癒される。レガートリータは優しくて家族思いのいい子だと言われたはずなのに。


 それを忘れて奢り、自分の我が儘だけを育ててしまっていたんだ!


 「反省できるのなら、今からでも遅くないんじゃない? 大変だと思うけど貴方自身を成長させる努力してみたら?」


 けれど前世でも今世でも、努力なんてしなくても親や姉や友人たちが勧めてくれるものに縋りつくのが楽だった。


 誰かに寄りかかってその通りに進む方が努力する手間も面倒も必要なかったし。それで失敗しても、誰かのせいにしていれば自分だけは守られるし傷つかないと思い込んでいたから。


 だけど実際は違う。周囲の人たちが勧めてくれたものに不満はなかったかしら? いいや。彼らは必ず言っていた。


 『本当にそれでいいのか?』と。最後には結局自分自身で全て決めてきたことのはずなのに。それを勧めた人のせいにした。人に責任を押し付けて逃げた。


 けれどどれも全て自分自身が選んだ結果ではないか。


 「ご……ごめんなさい。確かに貴方の言う通りだわ。わたしは努力もなしに今の自分があると思ってたけどそうじゃあなかった。

 そのことに気づかせてくれてありがとう……」






 それから徐々に最初は扉越しから、次第に姉が部屋の中に入れてくれるようになり、わたしが姉の食事を作ったり、料理人たちに提案していたことを知ると、わたしのことも誤解していたと、ぽつぽつと話し合えるようになった。


 「── 私ね……今のままでは修道院に行くしかないと思ってるの。レガートリータも嫌っている私が居なくなった方が嬉しいでしょう?」


 「ええっ? 違うわお姉様! それは、……わたしがやってきたことはお姉様にとっては今となってはひどいことをしてきたと反省してるのよ、本当に。……

 でもだからってお姉さまが自殺してまでアルト義兄さんのこと好いていたとか、ましてや修道院に行ってほしいなんて思ってない!!」


 それで姉に怒られるか拒絶されるかもしれないけど、わたしの行いを勇気を振り絞って告白した。姉はびっくりし、また姉を虐めるような行為をしてきたわたしを誤解したことを恥じたり、悲しんだり、お互いに理解しようと努めた。


 それから恥ずかしながらも、本当は姉のこと大好きだと告白した。もちろん持ち物を奪ったり姉に近づく男性を誘惑したり母親の愛情を一人占めしているように思えるやり方は間違っていたのかもしれないが、前世のことは隠して姉を守りたかったと説明した。


 「まあ、レガートリータ! 貴方そんな危険なことしていたの? 一歩間違えたらあなた自身も傷つけられたかもしれないのよ?

 ……でも嬉しいわ。貴方とやっと本音でこうやって話せて。私も貴方もお互いにもっとちゃんと歩み寄って話し合うべきだったのね」


 「はい、そうかもしれませんねお姉様。家族だから全てわかっている理解してくれてるなんて思い込んでいたみたい」


 もちろん、姉が元気になるようにと介護をし続け、話しかけ、好きなことや趣味の話を聞いた。お互いにどういうものが好きなの? 父や母とどうしたかったの? と。


 そんな風に姉との誤解を解いていったある日、父は優秀な姉優先だけど、実はわたしももっと父親からも愛されたかったと、父親に対する気持ちを告白した。


 「……なるほどねえ。以前、お父様がぽろりとこぼしたのだけど、侯爵夫人によく似たレガートリータを相手にするのは、妻と娘とは全然違うのに気恥しく思ったみたいよ?

 それにレガートリータは侯爵夫人べったりというか、侯爵夫人が貴方を溺愛して見えたというか。そんな貴方たち二人を引き離すのはお父様にはできなかったみたい。」


 「う~ん……それについてはわたし自身のせいかも。お姉様は最初に生まれた可愛い子供だし、長女としても嫡子としてもお父さまに良く懐いていたし、頭もよくて領地経営にも話の合うお姉様ばかり連れているのだと思い込んでいたの。

 それにお姉様だから長女だから我慢しなさいと、お母さまはよくお姉様を叱っていたでしょう? 

 しかも小さい頃はお母さまはお姉様によく手を上げたり暴力振るってたから、お姉様を叩くお母さまを見たくなくて、わたしに気を反らせる為に甘えたりおねだりしてたせいかなあ?

 それと最近知ったけど、今でもお母さまはお姉様に手を上げてるのでしょう? だからわたくしがお母さまの相手をしてる間は暴力から守れると思って……

 そのせいでお姉様はお父さまの相手をするしかなかったのでしょう?」


 「まあ! レガートリータ。貴方もお父様と侯爵夫人への対応を逆にとはいえ、同じ様に考えていたのね?

 私はお父様が、多分私を跡継ぎに考えてるようだから、領地経営に興味を持った私ばかりやたらと褒めたり話しかけるので、だからレガートリータばかりを侯爵夫人は相手するようになったのかしら?

 代わりに私がお父様を相手にすればいいのかと思い込んでいたから。

 でもおかげで私は、確かに侯爵夫人から夫を奪ったと憎まれているみたいで、その暴力から貴方は守ってくれようとしてたのねえ」


 「そんなこといいのですわお姉様……では、わたしも正直にお父さまに普通に甘えればよかったのですね」


 「そうかもしれないわね。それにレガートリータは今、お父様が見てくれないって悲しい気持ちを教えてくれたけど、貴方が悩むほどではないみたいよ?

 お父様は不器用だけど実はちゃんとレガートリータのこともお父様なりに愛してるようだし。そうそう、レガートリータへの求婚者や婚約の申し込みが実は山の様に来ているのをお父様から相談されたこともあってね。

 レガートリータ、覚えてないかしら? 貴方が幼少の頃に書いた乗り物と線路とやらの絵が衝撃的で、お父様が貴方に

 『これは一体なんだ?』と聞くと、線路という道みたいなものの上を石炭を燃やして水を蒸発させた水蒸気を使って走る汽車という乗り物で人や物資を客車や貨物を連結して沢山運べると説明してくれたって。

 そのおかげで鉄道事業を考えつくことができた。だからこの知識の宝庫を持つ貴方には自由な発想をさせた方がいい。

 ただし貴方をお嫁さんに出すには、秘密を守れるような強者が相手でないと簡単には嫁に出せない。貴方の自由にさせておくのがいいと放置することが愛情だと思い込んでいるみたい。

 ただその愛情表現の仕方が不器用なだけなのよ、お父様は」と、姉は父の心情を教えてくれた。


 それで事業で忙しくてなかなか捕まらない父にも、姉が死の境をさ迷ったことを報告しに訪問した日以来、父に素直に、母親との交流はいろいろ理由があって張り付いていただけで、父にも甘えたい。抱きついたり、おねだりをしたい、と告げた。


 すると父からも、わたしが姉のために不適切な男性をよく相談して排除するように進言しに訪問することはあったけど、そんな用事以外でも甘えたいなら訪ねてきなさい。


 もちろん仕事で多忙な時以外ならいつでも父の下に来なさいと、紳士の表情をでれでれに崩してわたしも携わったお弁当を渡すと喜んで受け取ってくれた。


 そんな風に姉や父とは少しづつ誤解が解け、やがて姉はわたしのことを「レガート」と恥ずかしそうに愛称で呼んでくれるようになった。






 子爵家へも訪問して姉の様子を報告した。今日は何が食べられるようになったのよ。姉がね今日は久しぶりに言葉を発してくれたの。姉とね今日は好きな花やお菓子について、ぽつぽつとではあるが話し合えるようになったのよ。と。


 その度にクインティナさんの弟のデクテット君も同席してくれて、


 「君も最初はかなりやつれてたよね。

 でも最近は少し健康に戻ってきてるかな? だからって無理しないでね。君まで倒れてしまったら、お姉さんのことを誰が気にしてくれるの? 誰が様子を報告しに来てくれるの?」と私の手や頬をなでながら声をかけてくれた。


 うひゃぁっ! ……さわっ……触られてるうぅ~っ……


 わたしは前世のこともあり、邪な目的を持った人や、悪意があって近づく人にはすぐに嗅ぎ分けられた。


 だから異性の扱いは違う目的で接したりあしらってきたけど、色眼鏡を掛けず心からわたしのことを本当に気遣って優しい言葉をかけてきた人は初めてだったから、デクテット君のことがどんどん気になっていった。


 クインティナさんがそれに目敏く気付いて、子爵邸に報告しに訪問しにきているのかデクテット君に会いに来てるのかと、揶揄われるようになった。


 そんな風に子爵家と関わっていけば、やがてデクテット君からプロポーズされ、父から1つだけ条件を出されたけど、彼は難なくその条件を突破して、正式に子爵家からの縁談を受けることになった。


 父母も姉も、デクテット君のご両親もクインティナさんも喜んでお祝いしてくれた。


 「こうなると思ったのよねえ。で、何て言ってプロポーズしたのかしら?」


 「んんっ! いくら尊敬する姉上でも秘密にしておきたいことはあります。トリー、あちらへ行きましょう。ここは姉上がうるさいので」


 わたしの手を取って先を行くデクテット君が、耳を赤くして照れた姿が可愛くて、ますます好きだなあと思ってしまった。


 ── 僕は確かに貴方より年下ですが、子供みたいに危なっかしい貴方は、僕みたいなしっかり者が見張っていないと何処に行くか、またいつ無茶をするかと目を離せません。だから僕に捕まっておきなさい。


 確かに自分では精神年齢高いはずだと思ったのに、かなり子供っぽいなあと自覚はしてる。だから頼もしい素敵な年下君。これからもよろしくね。






 ただし、婚約を受け入れる前にわたしは前述の通り、努力せず人から勧められるものに縋りついたり、誰かに寄りかかってその通りに進む方が楽だったけど、子爵家に嫁ぐために何か役に立てれることはないかと考えた。


 前世の知識でズルができる程度で専門的な知識と言えるほどではなかったし。父に与えた鉄道や、侯爵家の料理人に与えた家庭料理は実際はたいした知識ではない。


 悩んでいると、姉との会話で、花や花言葉から食べれる草花の話になった。


 「お姉様の食欲が少しでも出るようにと使ったのも、食べれる草花からなんですよ。薬草って言えばいいのかな?」


 そうすると姉から、勉強や努力するのは本当に苦手なだけなの? あら好きになった物についてはまるっきり嫌いなわけじゃないのね? と質問された。

 

 「── なるほどねえ。根菜が使えると言うのもおかげで初めて知ったわ。……あら? じゃあレガートは、薬草学や農業には興味があるのね? 

 そういえば子爵家は医療や農地経営が盛んだから、婚約打診されているのなら、植物について調べたり、良ければお父様やお母様の伝手で教師か専門家を呼び寄せてもらいましょうか?

 貴方は小さい頃から草花を観察したり、虫に触るのを嫌がらなかったから、好きなものから学んでみるのはどうかしら?」


 と、姉の助言で、わたしが将来嫁ぎ先で役立てるための指針を示してくれた。この頃には姉の体形もふっくらと回復してきて、母とのぎくしゃくした仲も改善し出し、姉妹でお互いに色々な話をするようになっていた。







 こんな風に2年間お姉ちゃんの介護とリハビリを手伝いながら話し合い、姉妹や家族との絆を新たに築き上げていったの。


 ただお姉ちゃんは、まだ異性、……特に同い年からアルト義兄さんくらいの年齢の男性と接するのが不安で、やっと自室から出られるようになったばかり。今は侯爵邸からも出れないけど、外出できるくらい回復するのも時間の問題かな。


 だからお姉ちゃん。わたしのデビュタントの日には絶対出席してね? ──


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