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sideアルト・トリオ視点?2 婚約解消か!?


◆sideアルト・トリオ視点?2 婚約解消か!?

 それに侯爵閣下との約束で、フェリと向かい合ってお茶を飲むだけの時は距離的にともかく、庭を二人で連れ立って散策する時でさえも。フェリがおずおずと手を繋げたそうにして見えたが、好きな女性だからこそ俺は大切にしたくて我慢した。


 こんなに近くにいるはずなのに話しかける勇気が出ず、可愛い過ぎて少しでも触れたら俺の欲望を我慢できず壊してしまいそうで耐えられなかった。これは本当に拷問みたいじゃないか……なんだか苦しくて切ないと。


 しかしそんな俺の素っ気ない態度がフェリの顔を泣きそうにしているのに気が付いた。それなら俺はどうすればいいのだろう? 何が正解なんだ? 俺からの好きだという主張をもっと積極的にしないと足りないのか?


 そう言えば、弟のテナーは本当に上手に女性を褒め殺ししている。しかし口下手な俺には同じ技術は使えない。それでたまには母やテナーと社交場に付いていき女性の扱いを勉強した。


 それで訪問時の花束に、彼女への想いを綴った花言葉や色を選んでもらっては渡した。


 しかし、テナーたちと行った社交場で、フェリに関する不穏な噂を聞かされた。彼女が男漁りが好きで奔放な女だと言うのだ。だからそんな淫らしい女より、自分たちと付き合ってほしいと媚を売る派手な化粧と臭い香水の令嬢たちに囲まれて辟易した。


 俺といる時は温和しくて清楚で一歩下がって付いてくるフェリが? 花束を渡す時に指を触れ合わせただけで頬を薄っすらと染めて恥ずかしがるフェリが?


 そういうことを意識し出してから、フェリの装いが派手になってきているのに気が付いた。もしかしてフェリは本当に噂の通りの女性なのか? と疑いの目で見るようになってしまった……







 そんな風にもしかしてフェリは俺のことを幼馴染の義兄程度にしか思ってないのか? いつか捨てられたら諦めないといけないのか? ……もやもやとする喪失感を感じ始めた頃から、歯車が狂って行った。


 違和感を覚え始めたのは、俺が19歳、フェリが14歳の時。幾人もの死者を出すほどの流行り病で彼女の祖母の前公爵夫人のダルセーニャ様が亡くなり、葬儀に参加した時だ。


 フェリの母親の侯爵夫人に妹のレガートリータ嬢が生まれてから、侯爵夫人は妹君にべったりで溺愛し、逆にフェリを遠避けているようだった。


 それに前公爵閣下が亡くなってから、連れ合いをなくし生きる張り合いがなくなったダルセーニャ様を、優しいフェリが放っておくわけがない。特に男の孫は幾人か生まれていたが、その中でも最初に出来た孫娘であり、ダルセーニャ様譲りの髪色を持ったフェリをダルセーニャ様も溺愛していた。


 だから彼女はダルセーニャ様に半分育てられたようなものだ。彼女にとって祖母でありながら育ての母親でもあると話していたことを思い出し、その育ての母親を失くした彼女の喪失感は如何ばかりかと慮ると、ありきたりな慰めの言葉など陳腐で偽善のようで不用意な言葉をかけることができなかった。


 それに前公爵閣下が亡くなった時に泣きじゃくった時は未だ俺も義兄貴ぶって偉そうな言葉をかけたが、その時は彼女の悲しみを全然考慮できない浅はかな言葉がけだった。


 その日は朝から小雨で、流行り病で亡くなった者達の遺族たちがあちらこちらで葬儀を行う姿があった。


 彼女も悲しみ崩れ折れそうになりながらも凛として青白い顔を懸命に耐えている姿に、抱きしめてキスしたい衝動を抑えるために遠目に見ていた。……しかしそのそばにレガートリータ嬢がいたために、フェリに誤解されるとは思わなかった。……


 逆にフェリの隣に、辺境伯嫡子の従兄のバリストンがいて肩に手をかけて慰めている姿に嫉妬した。


 最後にみんなでダルセーニャ様に白い花を手向けると、少しだけ雨雲の間から光が差し、空を見上げたフェリの神々しく消え入りそうになっている姿を見て、まるで俺の場をわきまえない不埒な考えを見抜かれたようで、見守る事しかできなかった。……





 思えば、フェリの話や月に1度あるかないかの手紙にも、


 「そういえばバリストン従兄さんが──」と、家族のこと以外では俺以外の男の話をよくしていた。


 益々もやもやする嫉妬心を覚えながら、彼女が15歳になったデビュタントを披露するんだろうなと気が付いた。


 母を通して侯爵邸に確認を取ると、王城で開催された建国式典会場でデビュタントを迎えると教えてもらった。


 しかし伯爵領内での流行り病の事後対応や、さらに最近の大雨により領民が困っているためにその対応をしなければと親父から聞き、手伝おうかと申し出たら、


 「カルテット嬢の晴れ舞台のデビュタントだろう? お前がエスコートに行かなくてどうするんだ。

 領地のことなら心配せずとも優秀な家令と何とかなりそうだから、エスコートを申し込んできなさい」

 

 と親父に叱咤激励された。


 それで先ぶれを出して申し込みに行くと、侯爵夫人が対応してくれたが、


 「お疲れ様、アルトさん。伯爵領内での出来事は聞いておりますわ。そのような時にフェルマータのデビュタントのエスコートを申し込もうと? まあそうしていただけたらとても嬉しいのですが、あの娘ったら、婚約者以外にも親しい殿方がいるみたいで、既にその方にエスコートを頼んだみたいなのよ?

 婚約者がいると言うのに本当に勝手で申し訳ありませんわ。ですからご心配なさらず政に専念してくださいね?」 と残念そうに告げられた。


 「そうですか……いえ、既にお相手がいるのなら安心です。

 ではフェルマータ嬢には、伯爵領内での流行り病の事後対応や、さらに最近の大雨により領民が困っているためにその対応で父の伯爵とともに救援の為に手が離せない。

 フェリには申し訳ないが今回はどうしても駆け付けることができない、と伝言をお願いできますか?」


 「ええ、もちろんよろしくてよ。必ずお伝えしますわね」


 もちろん一体誰に頼んだのか。またあの従兄か? と邪推したが、俺は伯爵家出身なため、上位の貴族の令息から揶揄われ、侯爵家の婚約者に相応しくないと陰口をたたかれていた。


 だから俺はフェリの横に立つ男として本当に相応しいのか恥ずかしく思い、そんな思いを彼女にさせるくらいならまだましかと、安心して親父を手伝いに領民たちの元へ行った。






 しかし、俺とフェリとの時間はそれからも掛け違い続けた。


 一番の理由は、デビュタント時のフェリの姿を見初めたり、例の噂を信じた令息の貴族から、誘いや招待状が届くようになったらしい。もちろん、俺という婚約者がいるから、侯爵家に利益があるかないか、友人知人として、将来的にも付き合い続けられる関係を保てるかどうか吟味した上での付き合いを考慮したらしい。


 フェリはダルセーニャ様が生前時や、婆さんが亡き後では執事のセバスチャンさんに連れられ、おかげで隣接する領地で紹介されたり出会った貴族たちとの交流が増えようだ。


 フェリはそれからも新たな知人たちとの交流で、また俺自身は親父や侯爵閣下や男同士の付き合い、伯爵家での仕事が落ち着いてテナーが少しづつ関わってくるようになると、騎士団の仕事にも内勤だが多忙になり始め、お互いの時間が削られていった。……


 お互いに多忙な予定を変更することはできない。だからせめて手紙でもと、2・3日に一度毎週何通も手紙や、時には仕事先で購入した贈り物を送った。しかしフェリは本当に忙しいのか、返事は当たり障りのない無難な内容の物が2・3か月に一度あるかないか。


 しかも贈り物に関してのお礼も何もなく、気に入らない物を贈ってしまったのだろうか? 俺のことが嫌いになったのか? 噂通りもっと金持ちで上位の貴族の男と遊び歩いてるのか? と思い悩む度に俺の心は傷付いた。


 さらに侯爵夫人から、


 「アルトさん。フェルマータを気にかけてくださるのは婚約者として当たり前のことですけどね、あまりにもしつこいと、返って嫌われるかもしれませんわよ。ですからお付き合いはほどほどの距離がよろしいのでは?」 と忠告されてしまった。


 しかし何とか時間を作り少ない時間を割いて訪ねて行くと、先ぶれを出した時はいたはずなのですが、……急用が出来て、つい先程出掛けたと、侯爵夫人やメイドさんから告げられた。


 俺は会いたくないほど避けられているのか? 俺はフェリに嫌われてしまったのか? と心が壊れて行った。


 そんな様子の俺を気の毒に思ったのか侯爵夫人は、何ももてなさずに帰らせるのもどうかしらと、せめてフェリの代わりにとレガートリータ嬢の相手をするようにと勧められた。

 

 しかしたまに先ぶれを出す時間がなくて無礼かもしれないが、俺自身が直接訪問した時には、フェリになんとか会えるのだが、いつもの様にお互い目を合わせられず話しかけることもできないまま居たたまれない時間を過ごしていると、レガートリータ嬢が


 「お義兄様、ようこそいらっしゃいました。将来の義兄妹同士になるのですもの、わたしも参加させていただいてよろしいでしょう?」と、割って入ってくれて、その度によちよち歩きの彼女も大きくなったなと吹き出しそうになり、緊張を解いてくれた。


 それに18歳になった時に生まれた妹のファルセットのことがまた目に入れても痛くないくらい可愛いのだが、妹というのは本当に可愛いんだよなあとファルセットと接するのと同じ気持ちで相手できるおかげかもしれない。


 しかしこのままじゃダメだと思い、そう言えばフェリは観劇が好きなんだっけ? と思い出し、


 「たまには観劇や、孤児院への訪問を一緒に行こうか?」 と珍しくフェリを誘ったら、いつになく嬉しそうで、まだ俺にも希望があるかもと期待した。


 しかし当日迎えに行くと、風邪をひいて寝込んでいると言うので、見舞いに行きたいと申し出ると、酷い風邪だから感染すといけないし、弱っている姿を見せたくないから合わない方がいいと忠告されたら無碍にもできなかった。


 しかし侯爵夫人が


 「アルトさん。代わりに妹のレガートを連れて行ってくれないかしら」 と勧められた。


 「年下で、弟妹たちの世話はテナーやファルセットで慣れているからね」とそばにいたメイドさんに言った。


 フェリとは手も繋げないのに、レガートリータ嬢に腕を絡められてびっくりしたが、幼馴染で義妹だから気楽でいいかと思った。それにしても腕に縋りつく姿で思い出すのが、幼い時のレガートリータ嬢やテナーが体の大きい俺を樹に見立ててよくぶらさがってきたよな。今はファルセットがそれに変わったけどと思うと、可笑しかった。






 それからも、俺がフェリのために購入した贈り物を、侯爵夫人やメイドさんが渡しておくわと預かってくれたが、ある日、侯爵家を訪問した時にメイドさんが俺を見かけて申し訳なさそうな顔をして隠れた。


 妖しく思い、そっと跡を付けると、壊されたオルゴールや破かれた本やハンカチや手袋など、裏庭に半分埋められていた俺の贈り物だったはずの包装と中身を発見して、そこまで嫌われていたのかと情けなくなった。


 知らぬふりをしてフェリに会いに行くと、これまた俺がフェリにと贈ったはずの髪飾りやブローチなどを身に着けたレガートリータ嬢を見て、さすがに身に着けたくないくらい嫌いなのかと厭な気分になった。


 しかしフェリが、


 「……せっかくの贈り物でしたが……可愛い妹に似合うから渡してしまったの。いけなかったかしら……」と本当に申し訳なさそうに訴えるので、それを信じてみようと思った。


 「そうか……妹君のことを本当に大事にしているんだな」と返事したが、フェリに身に着けてほしくて選んだのにレガートリータ嬢には失礼だが、無駄になったなと苦笑するしかなかった。







 こんな風に俺とフェリとのすれ違いの日々が増え、フェリからの手紙は2・3か月に1度のそっけない文。贈り物は壊されているか、妹君に譲っているという、釈然としない日々が過ぎていった。


 しかし花束だけは邸内のあちらこちらに飾られているので、テナーの言う通りだったな。花を嫌いな女性はいないらしいと変な納得をした。


 そんなある日、フェリ達のそば付きのメイドさんから、


 「トリオ卿、これからあたしが告げる話にしっかり気を持ってショックを受けないでくださいませ。

 実は……フェルマータお嬢様が、この前男性とキスしているところを見てしまって……ご婚約者様のいる身でなんて破廉恥なと思いましたが、黙っているわけにいかず……申し訳ございません。お嬢様を諫めることができないあたしの責任ですわ!」とか、


 「お嬢様が男性と抱き合ってました!」とか、


 「どうやらお嬢様はお従兄様のことを親戚の付き合いで出会ってから好きになったらしく、ご婚約者であるトリオ卿を裏切って浮気しているようなのです……あたしも協力しないと解雇すると脅迫されて……隠していて申し訳ございません!」とか、知られたらひどく怒られるかもしれないと怯えながらも、勇気を出して告白してくれた。


 「フェリが……俺以外の男と?……いや、君は悪くない。だが教えてくれてすまないね。仕事に戻っててくれ……」


 事実、またフェリに居留守を使われて、レガートリータ嬢を伴って街に出かけると、フェリの従兄が仲睦まじく彼女の頭をなでつけて、彼女も満更でもないように屈託な笑顔を向けていて、衝撃を受けた。俺といる時は、あんな笑顔を向けてくれたことなどないのに。……


 俺は嫉妬で怒り狂う気持ちを抑え、レガートリータ嬢を連れて離れようとした。


 「従兄殿との交流を邪魔してしまったようだな。レガートリータ嬢、あちらへ参りましょうか」


 「あら、バリストンお従兄様はわたしに対しても優しくて素敵なお従兄様ですよ?

 そうだ! 問題なければこのままご一緒しましょうよ」


 「その通りだよレガート。フェリもレガートもオレには可愛い従妹たちだからね。同じ場所に行くなら一緒に行かないかい?」


 彼はフェリの気持ちに鈍いのか? だとしたら不誠実だろう? いや、それなら婚約者である俺はまだ有利か? それとも、この男の余裕か?


 「いえ。侯爵夫人があまり遅くなるとご心配されるから、我々は先においとまいたします」


 もしかして、フェリは本当はこの男と婚約したかったのでは? 俺はそれを横取りしてしまったのか? 侯爵閣下に気に入られたと思って高を括っていたが、閣下も本当はこの男をフェリにと考えていたのかもしれない? 俺が先に申し込んだために引っ込みがつかなくなっただけかもしれない? とぐるぐると答えの出ない迷路に入り込んだ気分だった。


 「残念。お母さまの言いつけなら仕方ないわね。お母さまがいない時だから、たまにはお姉様と一緒に行きたかったのになあ……。お姉様、それではわたしたちはお先に失礼するわね」


 「ええ、レガート。また次回時間の合う時に一緒に参りましょうね」


 「本当ですか、お姉様。約束ですよ?」


 「トリオ卿、レガート、またね」


 「お従兄様、お姉様、ではまた」


 フェリが居留守を使い続けるのは、従兄との逢瀬を優先したのかと俺は思い知った。……


 またある時は、フェリと従兄がキスしている姿を目撃してしまい、嫉妬で殴りたくなり、俺が見ているのをフェリが気付きびっくりして困ったような顔を見ると息苦しくなり、くるりときびすを返して俺は逃げ出してしまった。


 またある時は、フェリと、恐らく従兄とが抱きつき合ってる姿を見てしまった。


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