試験総監督の"特別権限"
「……………………は?」
エーメリッヒの中で、時が止まった瞬間だった。
「馬鹿なことを言うなローゼル。一般受験組は5、60人は参加者がいたはずだ。それに、5つペンダントを破壊すれば十分なのだぞ?」
聴こえた内容があまりに耳を疑うものだったため、むっとしてエーメリッヒは言い返す。
そんなことがありえるものか、からかうのもいい加減にしろと、エーメリッヒは厳しい視線を送る。
――だが。
「それが……その【呪術師】に受験生の全員で一斉に挑んだため、不可抗力的に……」
それでも表情を変えないローゼルに対して、冗談ではなく本気で言っているのだとエーメリッヒはついに認識する。
「……完全に1対50だったとでもいうのか?」
「その通りです……。そして、彼らはことごとく"精霊加護のペンダント"を破壊されました……」
「受験生の中には、あの"メドルフ=ミュンゲン"もいたはずだが……?」
「それが……」
そこでローゼルは一旦言葉を区切る。
それから「私自身もいまだ信じられていないのですが」と一言断ってから、再度報告した。
「彼は真っ先に挑んで、あっさりと火達磨にされて返り討ちにあいました……」
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「……了解した。予定では一般受験組から10名は本選にあがるはずだったのだがな……」
「どういたしますか……?」
そこまで取り乱すことなく報告を聴いて、しみじみと呟くエーメリッヒ。
先ほどまで眼前に広がった異常事態を、いまだ飲み込めずにいるローゼル。
――だが。
「私は私に与えられた"特別権限"で、その【呪術師】と戦おう」
「なっ……!?」
ローゼルはエーメリッヒの発言で更に驚いてしまった。
"特別権限"――それは宮廷魔術師採用試験において、総監督のみが特別に行使できる権限である。
滅多に行使されるものではないが、受験生のなかでも一際優秀な者がいた場合、総監督自らが対戦相手となることで、合否の判断を下すことのできる権利だ。
この権限は、その受験生を本選にあげてしまうと、他の優秀な受験生をことごとく脱落させてしまう恐れがある場合に行使されるのだ。
「なぁに、当然私に負けたとて不合格にはせんよ。あくまで力を見るだけだ。その【呪術師】には話を通しておいてくれ」
かつてエーメリッヒが宮廷魔術師採用試験を受けた際にも、当時の総監督から"特別権限"を行使された。
当時エーメリッヒは総監督相手に善戦はしたものの、"精霊加護のペンダント"を破壊されてしまい敗北となってしまったが、結果は合格となった。
これは勝つことが目的ではなく、力を見ることが目的だからだ。
そして実際に、いままで"特別権限"が行使されて、総監督に勝てた受験生はいなかった。
――のだが。
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ベルスタルージュ帝国 闘技場入口
「名を聴こうか」
「……ルミラ=アルカディアです」
それから闘技場入口まで移動したエーメリッヒは、ルミラと対峙した。
(見た目通りの【呪術師】スキル持ちなのだな……。しかし彼は、【大聖魔術師】のメドルフまでもあっさりと倒したという。何か秘密があるのだろう……)
そこまで考えたエーメリッヒは、部下に手渡された受付表に目を通す。
「……なるほど。受付のマイ君の記載によると、君は今日から【呪術師】なんだね」
「いや……違」
「スキルを与えられた初日から一般受験組をことごとく倒すとは、末恐ろしい男だよ君は。だが正真正銘の"第一階級位"、最高宮廷魔術師であるこのエーメリッヒには敵わない」
「いやですから」
「あぁ、先に言っておこう。私の与えられたスキルは【神聖魔術師】だ。知っているだろうが、【聖魔術師】系統のスキルで最高峰のスキルだ。勿論、私に負けても不合格ということはない。力を見るためだからな」
「あの……ッ!」
「いい試合にしよう、ルミラ君」
そこまで一方的に言い切ったエーメリッヒは、闘技場へと足早に向かった。
(なんでこうも、話を聴いてくれない人達ばかりなんだよ……)
ルミラは心の中で悪態をついてから、渋々と闘技場へ向かった。
次回、最高峰の戦いが繰り広げられる……ッ!(盛大な前振り)
次回は今日明日中にはアップします!
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