5-31 閉ざされし空の覇者
気をつけて進んでいたところでもこの大きな図体は目立つ。そして大きな食糧を得ようと襲い掛かってくるモンスターもまた存在する。雷槍を振るい叩き落とし、尚向かってくるようなら突き刺す。フィアやミケミケを狙うモンスターも同様だ。ただ、こちらに追撃の意思がないと見れば捨て身になってまで襲ってくるモンスターもおらず大体は力の差を感じた時点で逃げ出す。
別に驚くべき光景でもないのだが、ミケミケにとってみれば驚愕する光景だったらしい。そもそも牙付きの姿が見えた時点で恐怖の表情をしていた。牙付きが逃げた後聞いたが、本来は慎重に慎重を重ねてこのような事態にならないようこっそりと食料を調達するらしい。それもまた当然のことではある。食糧は果物や、モンスターでは無い野生の動物のようだ。
野生の動物、モンスターばかり見てきて虫以外に禄に見たことが無い。地上ではほぼ絶滅したのだろうか。小型で臆病な種類が多く巣穴を掘ったり木の上でこっそりと生活しているらしい。その点に関しては獣人も似たようなものだとミケミケが言った。
このように比較的順調に進んでいたところであるが、急にぞわりとした感覚が背筋に走る。周りの状況を確認、響いていた動物やモンスターの鳴き声が見る見る間に小さくなっていく。
「おじ様!デッカイ反応がきたヨ!何でかナ?さっきまでは分からなかったケド!」
「!?ッ!あっちへ、あっちへ向かってください!すぐに!!」
「分かった」
ミケミケが指を指す方向へと急いで移動する。その間にもぞわりとした感覚がどんどん近づいてくる―――速い。
とある大木の根元、根が大きく盛り上がっている空間を利用した縦穴があった。枝葉で入り口は偽装されていたがミケミケの声に従い取り除くと中の空間に身を投げ、そして入り口を内側から枝葉で隠す。呼吸を整え息を殺して様子を伺う。
「ヒソヒソ~・・・おじ様、上、上だヨ。空から来るヨ」
フィアが小声で囁いてくる。僅かな隙間から空を覗き様子を見る。だが、この感覚は間違いない―――魔王獣だ。
空を舞う全長5m程はあるシルエット、腕と一体化した皮膜をもつ翼、大きく裂けた口、鋭い鉤爪をもつ後ろ足に空中でバランスを取る為であろう長めの尻尾。その姿を見たとき『ワイバーン』という単語が頭に浮かんだ、以後この魔王獣をそう呼称することにしよう。
引き連れるのは1m程のサイズのバット、蝙蝠に似た本来はかなり小型のモンスターで敵対することは無かったのだが・・・それが10体、そして普通のバットが100体はいるか。下から見るとそれらが連なりあたかも巨大な一つの生物にも見える。この大きな凶悪そうなバット、悪魔にも見えるそれを『デビル』と呼ぶことにした。
空を舞う集団は何かに気がついたのか集団で下降してくる、いや近づいてくる。大盾を構え身構えるが狙いはこちらではなく遠目に見える隠れ損なったファングの群れであった。
途端、地面から幾つもの炸裂音が響き砂煙が舞う。それはあたかも機関銃のようであり、ファングの集団を上から襲い悉くを戦闘不能にしていく。驚嘆すべきはその持続時間であり本来魔法は一度使えばクールタイムが必要のはずだがそれが見えない。『ワイバーン』達が地上付近まで下降した時にはすでにファング達は息絶えており、『ワイバーン』はその亡骸を丸ごと口に入れ食べていた。デビルもバットも死体に群がりその肉に噛り付いていた。
しばらく後、ファング達の群れはその血痕以外は完全に消失していた。
「アレが、この場所のヌシです・・・一度狙われたら最後、逃げることも出来ずに殺されてしまいます。私たちの仲間も何人かが犠牲になりました。そして、かつて『フーリル・ユーキー』を発したモンスター討伐隊が壊滅させられた大きな要因であり、エルフ達がこちらまで私たちを追いかけてこない理由の一つにもなっています。」
「ナルホドね~・・・おじ様、やるのカナ?」
「・・・いや、別にいいだろう。リスクを負ってまで倒す理由はなさそうだ」
宝具も持って居ないようであるし、こちらが襲われている訳でもない。この地下空間の一つで勝手に暴れている分には別に勝手にしていればいい。『テンタクル』のようにアーススターを生産してこちらの活動を妨げるモノでも無い。戦う理由が無いばかりかむしろ回避すべき存在であった。
『ワイバーン』達の群れは腹を膨らませ飛び去っていった。周囲で徐々に生物の気配が活発になってくる、皆息を潜めていたようだ。その様子を確認すると隠れていた場所から這い出しミケミケを小脇に抱える。再びミケミケの属するコミュニティへの移動を再開することにした。




