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伝説のシャベル  作者: KY
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5-20 獣の夢

 ここは、地上だろうか?青い空が見える、だが突き抜けるほど青く澄んでいる筈のその青空が何故だか極めて異質で不快なものに思えた。緑に覆われた大地、立ち並ぶ木々、そのどれもが恐ろしいものに思えた。周囲には様々な黒い獣達、常日頃殺し殺される関係であったものではあるが今はそのどれもが唯一心を落ち着かせるものであった。


 振り返る、しかし下がる場所は存在しないと本能的に分かっていた。混乱、困惑、恐怖、しかしそれらが何をするわけでもない。ならば動くしか無い、この異界を自分たちの物に塗り替える為に―――。




 衝撃で目が覚める。どうやら意識を失い地面に倒れたらしい―――幻覚か。地面に倒れ仰ぎ見ることが出来るのは光を放つクリスタルの天井、思い返してみるが・・・今現在は青空に対し特に悪い感情も無い。薄々分かっていたことではあるが、あの幻覚はモンスター視点の風景なのだろう。なぜそのような幻覚を見せるのかは分からないが、かつてこのセカイに急に現れたモンスターにとってもそれは不本意で不幸な事であったのか。


「おじ様!大丈夫カナ?」


「ああ、問題無い」



 ただ倒れただけだ、怪我も無い。それよりもむしろ問題なのはこの耐え難い空腹だった。体が焼けるように熱い、もう何度か目の衝動である為にある程度自制は聞いているが、体の内面から肉体が作り変えられ莫大なカロリーが消費されている感覚がある。むしろ食わねば衰弱死してしまうほどの飢餓感。



「フィア、どいていろ」


「アチャー、お食事の時間のようだネ」


 返事をするのも億劫だ。目の前には力尽きた巨体、『テンタクル』。周囲にはアーススターの死体も多く転がっている、足元のアーススターの死体に噛り付く。噛み千切る、咀嚼。顎の力も歯の強度までも強化されているのか。一体全体この自分がオーラと呼びこのセカイの住人がオドと呼ぶ不可思議な存在は一体何なのだろうか?そう考えているうちにも口は止まらずあっさりと完食、だが空腹は満たされるどころか多少の食事のせいで余計炊きついてしまったようだ。


 『テンタクル』に食いつく。その固い表皮をシャベルを振るい引き千切り傷口を抉じ開ける。まず見えたのは分厚い脂肪、いやワックスと言ってもいい。これが、とても、不味い。臭く、脂っこく、食感が最悪だ。それを差し置いても身体が拒否している、これは食べるべきものでは無いと。


 自傷行為で傷ついた部分へと移動しいまは地面に転がっている宝玉の鎮座していた周辺に噛り付く。脂肪の層の下側のようで多少不快な脂っこさは残ってはいるものの、食える。コリコリした歯ごたえで仄かに甘みがある。醤油が欲しいと唐突に思ったが無いものはしょうがない。口に入れ食道を通り、胃に達した次の瞬間にはもう消えてしまっているかのようだ。自分の胃酸は只の塩酸であると思っていたがそれすらももう怪しい。腸を待たずに吸収してしまっているとすれば最早人間かどうかすら怪しい、いや今更か。


 染み出す脂は不味いが生臭い体液は予想より美味い、濃いだし汁のような味だが喉を潤してもくれる。余計なことを考えるのを止め、今は只本能の求めるままに淡々と食事を続けるのみだった。




「ふぅ・・・」


 食事が終わる頃にはすでに湖面の氷さえ解けていた。身体が軽い、これは一時的なものでは無いだろう、変質は終わったようだ。フィアが遠くでひらひらと飛んでいる様子が見える。退屈しのぎの散歩、いや散飛とでもいうのか。




 パチパチ、と手を鳴らしながら近づく姿がある。


「ははは、お疲れ様。ありがとう、面白いものを見せてもらったよ!」


 ミレイ、妖精と契約し旅をする女エルフ。その表情に浮かぶのは興奮と喜悦。一方で寄り添う赤い髪の妖精は多少怯えた様子でこちらを見ていた。


「それにしても貴方は随分と大食漢なのだな・・・この山のような巨体が溶けるように消えていくのは壮観だったよ!一体どこに消えたのやら・・・」


「・・・ああ自分でもそう思う。だが消えた先は分かる、この体だ」


「サイズは特に変わったようには見えないが」


「サイズの問題ではない、エネルギーの問題だ」


「エネルギー?聞きなれないがどういうことなのだ?」


「筋力も、炎も、重量も、全て力だ。目に見えるものも見えぬものも」


「成る程、成る程!あの巨体は貴方の力と変化したということだな!」


「然り」


 殺し、喰らい、奪った力。右手を握れば力強くその感触を返してくれる。


「いい、実にいい!不謹慎だが、面白い世界になったものだ!・・・だが1ついいかな?」


「なんだ?」


「顔を拭ったほうがいいと思う。ルヴィも怯えている」


 そう言われて見れば体中が『テンタクル』の体液で黒く、ドロドロに汚れている。確かにひどい格好だ。しかしこの女エルフ、どうにも常人とはずれた思考をしているようだ。いや、それでも平和ボケの集団に比べれば随分とマシなのかもしれない。


 

とりあえず、まだ冷気の残る地底湖に飛び込み汚れと火照りと収めることにした。 


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