5-7 交易都市の探索
『ヒージーエ交易都市』、この目的地までの旅路は拍子の抜けるほど平穏であった。このミルキーフォグの領域も三次元的に考えればかなりの規模の空間であるし目的地までの一本道であれば遭遇する率もそう高くない。勿論接近すればドリルワームも気がついて襲ってくるのかもしれないが、こちらには生体レーダーが存在している。そのフィアのレーダーがそれなりの数の動きの無い生体反応と動きのある生体反応をこの先に捕らえた。後者はモンスターらしい、戦闘準備を行う。装備確認、良し。覚悟、常に良し。
境界線を掘り抜き城壁を破壊して目視にて様子を伺う。中々の規模の、多少風化はしているがそれでも立派な建物群が目に映る。随分と栄えていたことがこれだけでも分かる。大きく破損した建物は無いので時の止まる以前はモンスターの侵入を城壁で防げていたようだ。もっとも、それが今も機能しているかといわれれば、否だ。
都市内にはそれなりにクリスタルが存在し、生存者もまたそれなりの数に上るだろう。いや、もしかすると今まででも最大規模の生存者が見込めるのかもしれない。フィアのレーダーであまり近くにはモンスターがいないことが判明している、そのような場所を侵入地点に選んだから当然では有る。通路にナコナコと護衛としてキグルミを残し、余計な荷物も置いて身軽になり都市へと突入する。
「おじ様!あっちダヨ!」
フィアの尻尾が示す方向に向かい素早く、しかしなるべく音を立てないように移動する。ヒトの生命反応のすぐ傍にモンスターの反応があるとフィアが言う。この建物の角を曲がれば直ぐだろう。
見えた光景、周辺にはクリスタルが多く残っており、時が止まったままのヒトや道具が多く見えた。そして、音。
ゴリュッゴリュッという音が聞こえる。アーススターが地面の一点に群がっている。目を凝らしてみてみれば、それは頭部と四肢を失ったヒトの死体だ。大分腐敗が進んでいるらしく皮膚は紫色を呈している。その全身にアーススターが群がりゆっくりと食事をしているのだった。その死体の脇に存在するクリスタル、これがどうにも奇妙であった。人為的に削られているかのようであり、ヒト一人分より少し大きな空洞ができていた。
安全の確保も含め食事に夢中のアーススターに接近、電流の魔法を篭手から放つ。悶えるアーススター、そしてえも言えぬ不快な、腐臭と生焼けの肉が合わさったかのような臭い。顔をゆがませながらも動きは止めずにアーススターを叩き潰して周った。ここに到達する前に戦い、そして酒の肴として喰らったアーススターも人肉を食っていたのか?そうだとすれば間接的に人肉を食ったことになる―――別に気分も悪くならなかった、これもまた食物連鎖の一環に過ぎないだけだ。ただ、できればアーススターが脂ぎったおっさんは食っていないことを祈るばかりだ。
ぽっかりとクリスタルに開いたヒトの大きさの空洞、その脇には女性がその何も無い空洞に抱きつくかのようなポーズでクリスタルに埋もれていた。
とりあえず、ヒトビトを引っ張り出すのは後にして一通り『ヒージーエ交易都市』を一巡する。ヒューマンが一番多いが、エルフも中々の数が生存しているようだ。少し少ないが獣人、ドワーフの姿もちらほら見えた。アーススターの姿もまた、確認できた。彼らはクリスタルを掘り抜き、時の楔から開放されたヒトや動物に取り付き食糧としているようだ。頑張ってドリルの形状になりクリスタルを削っている姿が確認できた。時が止まったままのモノは、一切の物理的攻撃が通用しないため掘り返して捕食する必要があるのだろう。また、かなりの数が取り付いていても極めて腐敗の進んだ死体があったことからそこまで大食漢ではない、むしろかなりの少食であろうことも予測できた。
それでも、助けられるヒトは多そうであったが中々に凄惨な光景もあった。我が子を抱きかかえたポーズのまま時が止まっていた女性、しかし腕の中に子供の姿は無く、ただ何か汚らしい跡が地面に残るだけだった。一家とみられるヒトビト、しかしそのうちの幾人かとは二度と会う機会はあるまい。このような光景は珍しくも無かった、アーススターは只食べやすいところを狙って掘り返していたに過ぎないのであろうが・・・目を覚ましたときに待つ地獄を考えればこのまま眠らせておくのも慈悲のような気もする。
広い都市内を探索しつつ巡っていると。フィアが急に弾けるように顔を上げた。
「ン?ンン~?何か、懐かしい感じがするヨ・・・あっちあっち」
髪を引っ張ってくるフィアにデコピンをかましつつ示す方向へと進んでやる。そこにも、クリスタルに覆われたヒトの姿。アーススターが数匹取り付いて僅かずつではあるがクリスタルを削っているのが見えた。いや、しかしそれよりも。
「・・・妖精か?」
若い女のエルフと、寄り添うように存在する深紅のポニーテールの妖精の姿がクリスタル内に見えたのだった。




