5-2 奇妙なるゴーストタウン
周囲を包み込む白い靄、まったく周囲が見えないというわけではないが少し遠くの風景となるとこれはもう無理だった。掘り進むに当たってはクリスタルが劣化しており手ごたえが軽くなってはいるものの、これは崩落や水脈に落ちてしまう危険性もはらんでいる。短く曲がりくねった道よりも広くて長い道の方がむしろ早く目的地に着いたりすることもままあるものだ。
そんな神経をすり減らすような作業の中、差し込んだシャベルの抵抗が妙に軽くバランスを崩しそうになる。例えるなら重いと思っていた物が予想に反し軽かったときの感覚。流石に大きな空洞があるのであればうっすらとでも見えたはずなのだが・・・慎重に周囲を掘っていくと不思議な現象と遭遇した。
トンネル、らしきものか。直径30cm程の細い穴が地面に掘られているようだ。先程は丁度この穴にシャベルの先端を差し入れてしまったらしい。いったいどうしてこんなものが存在するのか?興味を覚えたのでその細いトンネルに沿うように穴を掘って進んでみることにする。細いトンネルは時に真っ直ぐに、時に曲がりくねりながらゆるやかに下っていく。
そうするうちに、ぼんやりとした靄の先に建物の影が見えた。
「フィア」
「全滅みたいだヨー」
「そうか」
どうやら、最早息のある者はいないゴーストタウンのようだ。マチというよりはムラ程度の規模か。ムラを覆うような大きく劣化したクリスタルの壁を掘りぬき内部へと突入する。
石造りの小奇麗な建物が多いムラであった。
「タナド村、か」
看板に書かれた文字にはそう書いてあった。
「ああ、ヒューマンの住む領域の辺境にあったムラだね」
「し、知っているんですか先生?」
「まあ、大体の地理は覚えているよ。ヒューマンは平原に適していたから広い範囲にムラやマチが散らばっていたんだよ、ここはどちらかといえば獣人やエルフが住む森林に近い場所に位置していたはずだよ」
「流石『学園』の教師の方ですね・・・恥ずかしながら、私は名前を聞いても場所が分かりませんでした・・・」
感心するロッカーや元王女、もちろん自分とてそれらの知識には敬意を払う。ドワーフの領域を超え、再びヒューマンの領域にまで戻っていたらしい。領域といってもドワーフの住む山の周囲に広がる平野にヒューマンがムラやマチを造っていただけのようだが、領土争いなど存在しなかったのでただの住み分けと適正の結果なのだろう。
しかし、何か違和感を感じる。住民が全滅しているのは、まあ分からなくも無いのだが・・・一通り、探索をすることにした。注意深く歩く。違和感を感じるということは気のせいで片付けるには楽天的すぎる。そんなに大きなムラでは無かった為、そう時間はかからなかった。
おかしな点を複数発見した。まず第一に、住民が全滅している割には骨が少なさ過ぎるという事だ。モンスターの骨は殆ど発見できず全てが食べられたとは考えにくい。第二に、建物の風化具合だ。かつて発見した住民が全滅していたムラに比べれば随分と綺麗な形で建物が残っている。木造の建物や生活用品等は殆ど残っていなかった、これは他の廃村ではもう少しばかし見られたのだが。さらにムラ内部に残っているクリスタルの量がいやに少ない、たまたまこのムラではクリスタルが早く劣化したのか?それでは建物が綺麗な説明がつかない。第三に、崩れかけてはいたが入ってきた場所以外にも細いトンネルがムラの外縁部で数本発見できた。これらは一体何を意味しているのだろうか?
「旦那、ちょいといいかい?」
「何だ?」
「少し計算してみたんだけど、ここがタナド村ならある程度あっちの方向まで進めば『さかえマチ』付近まででる筈だよ」
さかえ?随分と和風な名前だが。
「ああ、『さかえマチ』っていうのは、他の種族との交易や交流の為に種族同士の住む境目につくられたマチの総称だよ。かなり活気があって下手な大都市よりかは遥かに多くのヒトが出入りしていたし、違う種族同士が暮らしている割合も多いところだったんだ。境と栄えの両方からとって『さかえマチ』って言ったんだよ」
へ~っ、と頭の上のフィアが声を漏らす。他の面々も同様の表情をしていた。
「成る程。で、これから目指す場所の名は?」
「えーっと、確か『ヒージーエ交易都市』だったと思うよ」
そうか、ならば次はそのヒージーエとやらまで行くとしよう。それだけ大きな都市であれば何かしらの情報が得られるかもしれない。面白いことが待っていてくれればいいのだが。
ゴーストタウンを背に、シャベルを振るいだした。




