4-18 恨まず
最早地下都市の名残すらなくなった荒野に立つ。周囲を見渡せば森は延焼が続き衝撃は空間全てを襲ったようだ。完全にここで成立していた生態系を破壊しつくしたといっても過言では無い。
「おじ様出てくるヨ!ちょっと左前の方!」
フィアのレーダーが『ゴブリンロード』の位置を捉えている、今おそらく必死で土を掻き地上へと向かっているのだろう。
目の前の土が盛り上がりを見せ、そこから右腕が突き出る。次に左腕、そして頭。その手にはあの巨大な黄色い宝玉は見られない、あんなものを持って地上に這い出る余裕など無かっただろう。ゆっくりと歩きながらその正面に立つ。
「よう」
「!?ッガアアアアア!!」
モンスターの表情というものは判断がつかないが、ゴブリンロードはこちらを憎んでいるように感じた。さもあらん。彼の王国は今や土の下、率いた配下も財産も既に無く・・・その元凶は目の前にいるのだから。
対して、こちらはゴブリンロードに対する恨みなどは特に無い。勿論、傷を付けられたのは不快ではあるがそれは恨みつらみとは異なるものだ。こちらが侵入者だった、勝手に人の家に入れば敵対されても文句は言えない。仮に殺されたとしてもそれはそれで仕方の無い事だ。平穏な彼らの生活を引っ掻き回したのは他ならぬ自分、正面からその怨嗟は受け止めよう。その上で敵対者を容赦なく潰させてもらう。
理不尽、相手にとってはまさに理不尽だ。かつて、このセカイに堕ちてきてすぐに牙付きに襲われた自分もその理不尽さを感じていた。嗚呼!思えばこの世界は理不尽だらけ、いやそれすらも許容されるほどの平等。せめて自由になる心だけは縛られたくない、それが血と恨みの道を造ろうとも―――結局は自分勝手に自分が満足できる事しかできない。
右手が酷く痛む、だがその手に力を入れシャベルを高く掲げる。ゴブリンロードは怒号を上げつつ下半身を地面から抜こうとしている。その頭部にシャベルを力一杯叩きつけた。
地面より突き出た上半身を激しく痙攣させ、やがてゴブリンロードは動かなくなった。今自分が立っている地面の下にはどれほどの死があるのだろうか。一つの社会を破壊したその身に大量のオーラが流れ込んでくる。魔王獣程では無いものの、かなりの数が犠牲になったと見られ総量は中々のものだ。体が熱くなる、傷ついた部分が更に熱を帯びる。体が作り変えられていくような感覚。
―――嗚呼、腹が減った。理性を失う程では無いものの気持ちが悪くなるほどの空腹感。目の前にはゴブリンロードの死体、2足で歩み、社会を、文明を持ち、高い頭脳を持っていて姿は人型―――それが食べない理由には一切ならない。シャベルで骨を断ち切りナイフで肉を抉り喰らう、少しばかし申し訳ない気持ちとなるのは地面に埋もれてしまったままの死体を食べれない事だ。敵対されたため反撃したに過ぎないが喰らう為に殺すという自然の理論はシンプルで好きなのだ。
ゴブリンロードの肉は、正直不味い。雑食の為なのか肉に臭みが強く筋肉質で旨みが無い。それでも肉は肉、最後まで立ち向かってきたその気概に敬意を示しつつ一口一口自分の肉体の一部にしていった。




