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後四話か五話で異世界編に入ります。
ちなみにタグでも嘘をつくことになりそうです。
フルカネルリだ。氷雨が遅い新年の挨拶に何故か熊肉を持ってきた。
《熊肉って右掌が一番美味しいんだってサー》
ほう、そうなのか。ならば確かめてみるとしよう。
氷雨は挨拶だけしてすぐに帰っていってしまった。どうもこの熊は寿命で死んでいた所を冷凍保存していたために少々鮮度が落ちているらしいが、まあ私にはあまり関係のない話だ。
……そう、たとえそのせいで氷雨が治めている山の主の座を動物達が争っていようが、私には全く関係ないことだ。
『……酷いわねぇ……』
そうか? 邪魔しない分だけましだと思うが?
《……そう言えばフルカネルリって邪魔されるの大嫌いだったよネー》
ああ。邪魔されるとそいつを徹底的に潰したくなって仕方がなくなる。前世でとある国の王が邪魔してきたが……そう言えばそれからあの国に妙な疫病が発生し始めたのだったか? そう、まるで水銀中毒の症状のような‘疫病’が。
……私はなにもしていないぞ? そう、全ては‘偶然’起きたことだ。
《……嘘臭いナー……》
五月蝿い、腹の中にドライアイスを大量に詰め込まれて気化した二酸化炭素の圧力で爆発して死ね。
《長い上に痛々しすぎるよそれハー!?》
さて、熊料理でも作るとするか。
《無視しないでヨー!》
料理に集中していたら、あっという間に時間が過ぎた。
……まあ、丁度いい時間だし……昼食にするか。
《ボクも食べていいかナー?》
好きにしろ。
《やっター!》
熊肉料理を食べ終わってから、ふと、今年はまだ神社で抱負を語っていないことを思い出す。
……氷雨が新年の挨拶に来てくれたお陰で思い出すことができた。
そこで、近くの神社まで軽く散歩に出ることにした。
神社には全くと言って良いほどに人がいなかった。
そんな神社の鳥居をくぐり、道の左側を通って社に近付く。
賽銭箱に五円玉を放り込み、二回頭を下げ、柏手を二回打ち、心中で今年の抱負と願いを語る。
まずは抱負。去年と同じく研究者として恥ずかしくない一年にする。
そして願いの方だが、今年は女物の服を着ないで済むようにと願う。
《無・理♪》
いつも銃でやっているように術式を組む。銃が無いので少々荒いが、今使うには十分。狙うは社の中で嫌らしく笑いながら私を見ている名も知らぬ神の額。
《ふ、フルカネルリー?》
……消え失せろ。
私はその術式にありったけの霊気と害意を込めて、的に向かって打ち出した。
目の前ですごいことが起きた。なんとフルカネルリが自作の術式で、弱々しい木端神とはいえ神を殺してしまったのだ。
……その代わりにフルカネルリは気を失っている。いきなりあんな量の霊気を放出したんだから、当然と言えば当然なんだけどネー。
……それにしても、きれいな良い術式だったナー。あれを人間が組み上げたなんて、ちょっと信じられないヤー。
『……すごかったわねぇ……♪』
アザギもそう言っているし、やっぱりフルカネルリに目をつけて正解だったナー。
……そんなことを考えながら、倒れていたフルカネルリの体を立たせて汚れを払わせる。
そして何事もなかったかのように、フルカネルリの体は神社の敷地から出ていった。
………さーてと。ここからはボク達の仕事だヨー?
『……えぇ、そうねぇ……大丈夫よぉ…………あはははっ……♪』
フルカネルリに殺された木端神の欠片を集める。逃げようとするそれも向かってくるそれも、みんな一纏めにして固めてやる。
『……ぐ……ぞおぉ……あの……ガキめぇ……』
今、フルカネルリに殺されて意識を散らされた神の怨嗟の声が響く。
ほっとけばよっぽどの事が無い限り復活しなかっただろうけど、ボクが力任せにその存在を弱々しくも取り戻させた。
それはボク達の事を無視してフルカネルリを追いかけようとしている。
……………まあ、やらせないけどネー。
「アザギ。よろしくネー」
『……うふふ……いただきまぁす……♪』
ぱくり、とアザギが死にかけの神を頬張った。
そしてそのまま、咀嚼するように口を動かす。
時折悲鳴や何かが砕けて潰れる音がするが、そんなのはボクもアザギももう慣れっこだ。
そして弱った神は、そのままあっけなくアザギに呑まれて消えた。
『……けぷ……ごちそうさまぁ………でもぉ……美味しくなかったわぁ………』
アザギは不満そうだけど、その力はちゃんと大きくなっている。
「まあまあ。明日フルカネルリに美味しいご飯でも作ってもらえば良いじゃないカー」
『……そうねぇ……それも良いわねぇ……♪』
そんな軽口を叩き合いながら、ボクとアザギはフルカネルリのいる家まで戻っていった。
後始末と言う名のアフターサービスまで万全なナイアのある日の行動。
フルカネルリは‘神殺し’の称号を手にいれた。
その効果により神属性に対して有利になりました。
スキル:‘邪神の加護’を手にいれた。
自分が力及ばないときに邪神が手助けしてくれます。
《……って言ってもあんまりたいした効果は無いヨー。精々神気とかそんなのが少しだけ使えるようになる程度サー》




