異世界編 5-18
フルカネルリだ。英雄達は完成し、いくつかの国の私の実験体に宿った。赤子の時に殺されることの無いように、中流階級程度の者に限定してある。
魔法があるお陰で私がこの世界に来たときからあまり文明が発達していないので、中流階級と言えば農民の中で力あるものと言うことになるのだが、ちゃんとそれなりに心優しい者が親となるように最低限の注意は払っておいた。
……まあ、英雄としての知識と能力があれば例え捨てられたとしても全く問題なく生活し、問題なく私の実験を進めることができるだろうが……今回は歪んだ英雄よりも真っ直ぐな英雄を望んでいるのでな。残念だが意識して歪んだ英雄を作るのはまたいつかと言うことになりそうだ。
《……いヤー、別にそれはそれで構わないんだけどサー》
どうした? まるで出番のなくなってきたメタ発言キャラのような表情をしているぞ?
《それはどんな顔サー……ちょっと長くなりそうだナー……って思っただけだヨー》
ああ、長くなるだろうな。何しろ成長速度の凄まじい赤子が二人分だ。何ができるようになった、と言うことを羅列するだけでずいぶんな長さになることは確定事項と言っていい。
それこそディオとナギの一年に満たない程度の旅とは比べ物にならないほど長くなることも考えられるが、あまり長くなりすぎないように短くまとめておけば記録用の情報媒体のメモリも無駄にしないですむだろう。
いつまでも同じようなことばかり続いていればその部分を飛ばし、特異な部分を集めていけばそれなりに見れたものになるはずだ。
《……フルカネルリー。実はもう結果は見えてるんでショー?》
ああ。見えているな。それがどうした。
《記録だけして飛ばしちゃえバー? どうせ全部同時進行で見てるんでショー? 無駄に見えても無駄じゃない可能性を考えてどこもかしこも記録しておくつもりなんだろうシー、記録は記録として残してフルカネルリの興味深いところだけ見ちゃえばいいじゃないカー》
……それも道の一つではあるのだがな。世界全体を理解していなければ現代のことは隅々まで理解できないのだよ。
一々わからない部分が出てくる度に記録を見直すのも馬鹿らしいし、それなら一応記録と編集ついでに一通り覚えておく方が楽なのだよ。
私は特に無駄なことが嫌いなわけではないが、その無駄で私にとって有益ななにかが潰れていくのは許せない。無駄は無駄で価値があるが、それより遥かに価値がある物事も多々存在するからな。
……そう言うわけで、私はちゃんと私の作った英雄達が足掻く様を見ておくことにする。英雄はいったいどのように迷宮をクリアするのか……できるならば私の想像を越えた何かが起きてくれるとありがたいのだがな。
想像を越えられると言うことは、視界が広がると言うこと。視界の外から起きたことに合わせて視界が広がり、そしてそれを視界に納められるようになれば……の話だが、私にとって悪いことではない。
異世界では半ば人間を越えてきている私にとって、人間に想像を越えられることはほとんど無くなってしまった珍しいことだ。珍しいが故に、可能性がありそうならばそれがかなり低いことを自覚しながらもついつい期待してしまう。
だから私はできるだけ物事にしっかりと向き合うようにしているし、期待が外れたら多少残念がる。その思いを引きずることは無いが、残念なものは残念だ。
……さて、それでは英雄達の生誕から、ゆっくりと見ていくとしようか。
実験再開。




