異世界編 5-12
フルカネルリだ。突然時間が過ぎて悪いとは思うが、漸く私が対象としていた人間種の保有する常識の収集と解析が終了した。この中から他種族への偏見や必要以上の殺意などを除いてから用意していた素体に貼り付けることによって作り出された実験体は、一部は赤子のまま孤児院に預け、また一部は言語や体の動かし方などの常識的な部分以外は何も知らないまま服と武器と僅かな食料を持たせて適当な町の近くに放り出し、一部は人里離れた山奥などに15程度まで成長させてから放り出す。
これで実験体は様々な場所で様々な経験をして、そして死んだ時には私にそれまでの経験や感情を残して逝くだろう。そも、今回の実験は私に理解できない感情を理解させるために行なっているうものだ。魔力や経験値などは正直に言ってあまり気にしてはいないが、無いよりはあったほうがいいものなのでとりあえず受け取る術式を組んでいる。
ちなみに、私の目的はあくまでもその感情を理解することであってその感情を自らのものとすることではないことを明記しておく。つまり、送られてきた感情に振り回されるようなことにはならないと言うことであり、送られてきたその感情はすべて私としての記憶野から独立した場所に封印されることになる。
……そうそう、放り出した奴らには色々と特典が付いている。それは主に、子を作った場合のその子についての事だ。
最大限簡単に言えば、放り出した作品が自分の意志で行動し、そしていつかこの世界の何かしらと子を成した場合。その子供も私の監視対象となって死後は私に吸収されることになると言うことと、その子の子や孫……つまり子々孫々に渡って同じ効果を受けるようになるということ。これで性別年齢時代場所等々関係ない感情のサンプルが取れるな。
《さすがフルカネルリだネー、普通もうちょっと躊躇わなイー?》
全く。
『……ふふふふ……瑠璃……らしいわねぇ…………』
《そうだネー。これでこそフルカネルリだヨー》
褒められていると取るぞ?
……さて、それでは私は私で色々と暗躍するとしようか。私のダンジョンはあれからさらに広く深くなっているが、潜ってこようとする者は誰一人として存在していない。精々が知識のない野生動物が時折入ってくる程度で、あれ以降一切進んでいない。
私なりに色々と考えて行動してみたのだが、裏目になることはなくとも効果が出ることもほぼ無かった。やはり問題点は立地条件だろうな。流石に立地をどうにかするのは難しいのだが……まあ、何とかして見せよう。
こうなると、最も手っ取り早いのはすぐ近くに存在している魔王領の領主に話をつけて『迷宮を使った商売』を提案して共生関係を築く事なんだが、そう簡単に事は進まない。
なにしろ魔王は暫くすると代替わりするし、代替わりした魔王が救いようのないほどの馬鹿であったり、自らの身の程を知らないほどの強欲をその身に秘めていたりしたら面倒な事になってくるしな。
《そうなったらそうなったで叩き潰せばいいんじゃないかナー?》
『……それが一番楽よねぇ…………うふふふふふふ……♪』
楽だからといってそれに甘えていたら駄目になる。今回は必要でない限り世界全てを敵に回すようなことはしたくはないんだ。確かに私は他の世界で世界を裏から操って大規模な実験をしたこともあるが、毎回毎回そんな事をやっていては準備が大変すぎる。精々世界を騙さずに秘密を作る程度が限度だ。
……まあ、とにかく今回はあまり動かないことにする。実は放り出した者達には色々と仕込みをしてあるからな。実験をするなら最低一つ、できることならばそれ以上の結果を得ることを求めるべきだし、そのための仕込みも終わっている。
血縁を鍵に、死後に魂を私に吸収されるようになっていることが最たるものだが……この私がそれだけで満足するはずがないだろう?
内容はまだ秘密だが、この世界において私の悩みを解決へと向かわせることも出来るかもしれない内容であることだけは間違いない。できなくとも、それぞれの主な任務のついでとして行わせているものだ。失敗しようがどうなろうが一切問題はない。
何しろ私はそうして実験体が死んだところで一切問題がでないことを確認してからこの実験を実行しているわけだし、人の命が金貨よりも軽いこの世界でたかが1000ほど人間が増えたところで影響は最小限に抑えられることだろう。たとえ抑えられなかったとしても、それならそれで一つの実験結果として受け入れてしまえばいい。
例えこの世界の全ての生物が息絶えようと、例えこの世界そのものが芥子粒どころかその存在のほんの僅かな欠片の欠片程度すら残さず消滅しても……私はその事実のみを背負ってそれまで通りに生きていくのみだ。
《なんていうカー……フルカネルリ節だネー?》
『……らしいじゃないのぉ……うふふふふふふ……♪』
それもまた褒め言葉として受け取っておくとしよう。
……さて、それではこれより私は私の作品達が紡ぐ人生録を眺めさせてもらおうか。
数多の命の紡ぐ歴史は、いったい私にどんな感情を教えてくれるのか、いったいこの世界はどのように変わっていくのか……そして、もしも失敗したときはその失敗への対策も考えておかなければならんし、やるべきことは山のようにある。
不幸に生きるか、理不尽に翻弄されたまま生きるか、その他にも様々な生き方があるだろう。
お前達の生態は、いつでも私が見守っておいてやろう。だからお前達は好きなように生き、好きなように死んでいってくれ。
実験再開、激動の幕開け




