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フルカネルリだ。アバターは作ったがあまりゲームはやっていない。ほとんどクローンに任せっきりで、私はいつものように研究三昧の日々を送っている。
ちなみにその記憶はしっかりと私の頭の中に入っているので、学校で白兎達と話を合わせることもできる。その辺りは対策済みだ。
それと、体が動かないでいると筋肉が衰えるので多少の負荷をかけるようにもしてある。歩けなくなったりするのは困るしな。
ゲーム内で食事をしての満腹中枢への刺激も弱くしてあるし、痛みの量もかなり減らしてある。
勿論痛いのが好きと言う特殊な人の為に、ある程度まではそのリミッターを外せるようになってはいるが……一応それをするには本人確認が必要になるし、基準値からずれていた場合は毎回開始時に警告が入るようになっている。
倫理云々はこの国では全く問題ないが、それでも赤字は困るのでフィルターをつけている。斬られたり射られたりしても血はでないし、性的な欲求には応えられないように作っている。
……やろうとすればそんなものをつけないでゲームを楽しめるがな。そのためのパッチは裏から流したし。
《ちょっトー!?》
安心しろ。本人以外には使えないようになっている。
例えば、人から借りて勝手に組み込んだとしてもそれは組み込んだ本人にしか効果がでないようになっているし、それ以前に脳波を記録した者以外には動かせない。
そのためにいくつも記録用のスロットがあるわけだから、貸し借りは一応できるし問題はないはずだ。
あっても知らん。説明書に色々と考えられる限りの事は書いたつもりだから、それで何かあればほぼ確実に当人の責任だろう。
《それでももしかしたら何かあるかも知れないヨー?》
そうだな。確かに可能性は皆無と言うわけではない。万が一と言うこともあるが、早々無いだろう。そういう風に作ったからな。
さて、それじゃあ私は新しい研究に取り掛かるとするか。
世界初のVRMMORPG『Another World online』は、世界中で爆発的に広まろうとしていた。
その原因となったのは、ゲームに当然のように実装されていた自動翻訳システムだ。
その存在のお陰で、Another World onlineは世界中のあらゆる国で愛されるようになった。
中国やアメリカ等ではゲームの機体を分解しようとした者がなぜか爆発したかのように髪型をアフロに変えているのだが、なんらかの関係があったのかもしれない。
明らかに犯罪行為をしているのは被害者だったので問題にはならなかったが、それでも愛用する者も爆発する者も後を断たない。
この少女も、愛用者にしてゲームの世界にどっぷりと浸かった一人であった。
「せいやぁっ!」
掛け声と共に巨大な剣が振り下ろされ、獣型モンスターの一種であるラクウルフが両断される。
しかし、両断されたはずのラクウルフはその姿をポリゴンに変え、そして再び別のものに構築される。
少女は脳裏の索敵範囲内にモンスターが存在しない事を確認し、それから剣を背中に戻した。
そして親指と人差し指、中指の三本を立てた状態の右手をくるりと回せば、少女の目の前に半透明のステータスウィンドウが開く。
そこには、つい先程ラクウルフと戦うまでは存在しなかったアイテムがいくつかと、少女のステータスが映し出されていた。彼女は自分のステータスを見て、笑顔を浮かべる。今の戦闘でようやくレベルが上がったようだ。
レベルアップに合わせて、増えたスキルポイントを振ってスキルのレベルをあげていく。スキルを使うことで経験値を溜めてレベルをあげることもできるが、こうしてレベルアップの度にスキルポイントが別に供給されていく。
スキルを使ってスキルのレベルを上げていくのも、レベルアップのスキルポイントを使うのも自由。それがこのゲームの魅力の一つでもある。
なお、経験値がレベルに直結している訳ではなく、経験値を一時的に溜めてスキルのレベルを上げると言うことも出来るが……あまり知られてはいないらしい。
暫くしてスキルポイントを振り終えたのか、少女はステータスウィンドウを閉じて歩き出す。その目は広がる草原に向けられており、同時に未知に対する好奇心に溢れていた。
「……それじゃ、私も頑張ろっかな。瑠璃や白兎や……機乃には負けられないしね」
少女……【筍の里】は、リアルでの友人達を思い出しながらくすりと笑って歩き出したのだった。
ゲーマー少女のゲーム道




