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フルカネルリだ。霜が降りる月の名にふさわしく、寒い日が続いている。
白兎はモコモコとした白いコートを着ていて、まるで本当に兎になったかのようだ。
フードの上から頭を撫でると、柔らかな毛皮に指が沈み込む。その下が頭だからある一定以上押し込もうとすると急激に硬くなるのだが、そこまでやる必要も無いため表層だけを優しく撫でる。
……少し前までは私の白衣の中に潜り込んできたりもしたのだが、今年からはそれがなくなるようだ。
それでも白兎は私の腕にぴたりとくっついてきている。白い手袋に包まれた手も、膝より下まである白いコートも、本当に兎のようだな。
「……瑠璃はそれで寒くないの?」
白兎は私の着ている白衣を指差す。まあ、確かに見た目からはこの白衣がどれ程暖かいかはわからないな。
だが、白兎はよくこの中に入っていたのだからどれ程暖かいのかはよくわかっているだろうに。
それに、私自身もこの程度ではあまり寒くないしな。魔力が相当少なくなろうとも、無いわけではないのだからこのくらいはできる。
量は少なくなっていても、技術はそのままなのだから。
《技術の無駄遣いだよネー……》
何を言うか。必要だという想いこそが発明の母。温暖術式はこうして寒い日に使ったり、冷めた食事を温めたりするのに使うのが一番だ。
……平和利用という言葉は耳障りがいいよな。
《その一言でなにか黒いことを考えてるような気がしてきたヨー……》
気のせいかもしれん。
『……気のせいじゃぁ……無いかもしれないけどねぇ………? …………くすくすくすくす………♪』
《気のせいじゃないことを祈ってるヨー》
そうか。
……さて、11月なのにやけに寒々しいとなると、見ないでもいくつかの出来事を予想することができる。
一つ目は、クトについて。
これほど寒ければ雨のかわりに雪が降り、クトがはしゃいで小学校の低学年に混じって雪合戦をしているだろうこと。
……その際、転んだり雪玉をぶつけられながらもはしゃいでいるクトを見て、クトゥグアが生徒を相手に怒り狂ってアブホースに鎮圧されるだろうところまでが一つ目だ。
二つ目は、寒いのが苦手なクトゥグアが厚着をしながら苛々するだろうということ。梅雨と同じように毎年のことなので、ほとんど気にしている者はいない。
それに、クトゥグアの反応はただ寒いときよりも雨の時の方が遥かに大きいので、気にする意味がない。
恐らく、寒いだけならばいくらでもやりようがあるからなのだろう。炎の神らしく、自分の周囲だけ暖めるとか。
それには多少力を使うだろうが、クトゥグアはシスコンでも愛妻家でもおちょくられていることが多くても馬鹿でも直情型でもアブホースの尻に敷かれていたとしても最高位の邪神。その程度の消費は大したことは無いだろう。
……と言うか、今まで誰も気づかなかった訳じゃあ無いだろうに、何故クトゥグアはここまで不機嫌そうにしているのだ?
《誰もが気付いてたけドー、クトゥグアが自分で気付くまで放置することにしたんだヨー》
そうか。放置を始めてどの程度になる?
《……280年くらいかナー?》
クトゥグアは馬鹿なのか? ……ああ、馬鹿だったな。
《知っている奴は『クトゥグア』って書いて『馬鹿』って読むくらいに馬鹿だヨー》
それも仕方無いことだな。まさかここまで馬鹿だったとは……。
まあ、その事は適当などこかに放置するとして……三つ目。恐らくだがハスターがなにかしら関わっていること。
ハスターは天災だ。気ままに行動し、そして気ままに周囲に被害をばらまいて行く。
幸いと言うかなんと言うか、しっかりとこの世界のことを考えて被害を少なくするのまではいいが、それで結局クトゥグアの方に行くのだから狙ってやっているとしか思えない。
その上、被害が大きくなりそうになると自分でさっさと火消しをしてしまえるのだから質が悪い。
……完全に放置して自分の手に余るようなことにはしないのだから、性格が悪いにも程がある。
私が言えることではないがな。世界一つを裏から操り、手の中で転がして遊んだ私には。
人間はやはり面白いな。基点の人間に関わるだけで、その後の人生も世界もがらりと変わる。
まあ、私としてはその人生の全てを解析して一つの人生を記した本を私の中の図書館に永久保存しておくだけで構わないがな。
そうしておけば、およそ全ての実験を行うことができる訳だし。
他者の人生の収集か。なかなかいい趣味だと思わないか?
《いい趣味してると思うヨー》
誉め言葉として受け取っておこう。
《元々誉めてるからネー》
そうか。
今日と言う日の考察。




