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フルカネルリだ。帰還して一番初めに行ったことは、行く前の約束通りに私のクローンの一体に私の記憶を見せてやることだった。
「…………なんともまあ、短い上に密度の薄い異世界旅行だったな」
「まあ、たまには外れが出てもおかしくはあるまい。もしかしたら18禁鬼畜凌辱系エロゲ世界にでも飛ばされる日が来るかもしれんぞ?」
「あり得ないとは言えないネー」
どうやらそんな可能性もあるらしい。怖い怖い。そんな世界に放りだされたら、私は恐怖のあまり錯乱して世界をまるごと芥子粒すら残さず消し去ってしまうかも知れないな。
私も人並みに羞恥心というものを持ち合わせているし、人前でそんなことをされては恥ずかしさで死んでしまうかもしれん。
「無いと思うけどナー?」
『……無いとぉ……思うわよぉ………?』
可能性の話だ。可能性ならば人間の想像できる範囲の事象は存在するからな。
例え、どれだけ可能性が低くても、無いというわけではないのだ。
……まあ、私自身もかなり可能性は低いとは思っているがな。
学校では、あいかわらず邪神達が闊歩している。騒がしく、五月蝿く、それでいて中々に楽しい、私の日常だ。
いつも通りに白兎の姿を探すが……何故か白兎の姿がどこにも見えない。
仕方無く風を使って白兎を探すが………見付かったものは白兎ではなく、白兎の席の真下に存在する乱雑極まりない転移痕。そして白兎の姿はこの町のどこにも存在しなかった。
「……ナイア。どう言うことかわかるか?」
《……今聞いたんだけドー、白兎ちゃんってばフルカネルリがこの世界からいなくなってた三分の間にどこかに召喚されたみたいだヨー? クトちゃん達も手をだそうとしたけドー、なんか白兎ちゃんの行った世界に力を抑えないで行ったら世界ごと消えちゃう可能性が馬鹿高いんだってサー》
「……私ならばどうだ?」
《それでフルカネルリが帰ってくるのを待ってたんだっテー。………いつでも行けるように、準備はできてるみたいだヨー》
……そうか。私は久し振りに怒ったぞ? 某サイヤの戦士ならば髪が金色になっていてもおかしくないほどに。
『……くくくくくく……怖い怖ぃ………♪』
《ボクはついていけないけドー、フルカネルリのことを応援してるヨー》
ああ、ありがたい。
「フルカネルリちゃん。白兎ちゃんをよろしくね」
「ああ、勿論だ」
そうして、私は即座に白兎が飛ばされたと言う世界に転移した。
ちなみに、クトからは報酬として大学の地下図書室にある禁書の類いの閲覧許可を得た。
そんなものが無くとも白兎は助けに行くつもりだったが、私に害がないものならば、貰える時に貰っておく主義だ。
「……それでは、行ってくる」
《白兎ちゃんと一緒に、元気に帰ってきてね》
《向こうの時間は俺達がほぼ停止状態にしておいたから、あのガキが拐われた直後に出られるはずだ》
《自分の生徒をガキ扱いするんじゃない!……それから、貴方が向こうに行っている間はこちらから逆に加速させるわ。こっちの時間でもすぐに帰ってこられるはずよ》
……ふむ。実にありがたいな。
《……そんなに強い相手はいないけドー……ボクらの手助けはこれが限界だからネー?》
ああ、わかっているとも。
……えっと……春原白兎です。さっきまで自分の部屋に居たのに、いつの間にかなんだか変なところにいます。
周りには人が数人居て、私を指差してなにかを言っています。
その怪しい人達の中から、一人が私の目の前に進み出てきました。その人が真っ黒いフードを脱ぐと、きらきらと光っているように見えなくもない金色の髪が流れます。
……綺麗だとは思うけど、瑠璃の髪の方が綺麗かな。ツヤとかそのあたりが。
私のそんな思いを無視して、その人は私に頭を下げます。
「お呼び立てして申し訳ありません。勇者様」
…………え?
召喚された白兎とありきたりなその理由。




