異世界編 4-8
初めの時間に自己紹介を終わらせて、それでその日は寮に戻ることになった。寮は基本二人部屋だから、相手が嫌いなやつだと本当に悪夢の日々なんだよね。
その点、僕は恵まれていると言っていい。なぜなら、同室の相手が中学生の頃からの友達である緑丘浩二だったからだ。
浩二はどちらかと言うと成績は悪い方だ。けれどそれは魔法が使えないという訳じゃなく、理論は完全に無視して感覚だけで魔法を使うタイプだから、ペーパーテストがすっごく悪いっていうだけだし。
その代わりに使う魔法式はすごく細かく、魔力もかなりあるっていうんだから凄い。
なんてったって僕にはその才能は全くって言っても問題ないほど無いからね!
「よ。一年間よろしく」
「こっちこそ」
そんな僕と浩二は、部屋の真ん中で握手を交わした。
朝になって教室に行く。食事はもう済んだし、授業の準備もバッチリだ。
……って言っても、授業に杖なんて必要ない。必要なものは教科書と筆記用具くらいなものだ。
あとはいつも通りに普通に授業を受けて、普通に過ごすだけ………。
中学生の頃となにも変わらない一日。突然僕の魔力操作が上手くなったり、突然学校ぐるみの苛めが始まったり、そんなことは全く無い、僕の日常。
こんな日が続けばいいのに、と僕は思った。
毎日僕が疲れはてるまで魔力操作の練習をして、美保や浩二が僕のそばで勉強してて、笑って怒って喧嘩して……。
そんな毎日の中で、少しずつ僕の魔力量の操作も上手になって行って………。
いつか、ヒーローズの一員になりたいな。
……そのためにも、もっともっと頑張らないとね。
フルカネルリだ。毎日のように保健室に運ばれてくる少年がいる。名前は白崎と言うらしい。
この少年だが、毎日毎日魔力の制御を自分が倒れるまでやっているそうだが、毎回自分の力を抑えきれずに放出させてしまい、魔力切れで気絶して保健室に運ばれてくるようだ。
ただ、この少年の魔力量はかなりのもので、一つ前の世界の数値に直してやると、およそ2300。前の世界の学園長のMPがおよそ2800ということを思えば、この年でこの魔力量は破格だろう。
しかし、解析してわかったのだがこの少年にはどうやら魔力放出量を調節するためのバルブのようなものが無いらしい。これも保健医として多くの人間を見てきたためにわかったのだがな。
例えるならば人間を貯水タンク、中の水を魔力、魔法の術式を水車とすると、魔法はタンクに直結している蛇口から出た水で水車を回して動力を得ることだ。
その蛇口から出る水が多く、また勢いが強ければ魔法の効果もまた強く、効率よく出るだろう。
しかし、あまりに水が多すぎたり、勢いが強すぎたりすれば水車は当然壊れてしまう。
普通はそれを見越してちょうどいい量にするためのバルブがあるのだが、この少年にはそれがない。
するとどうなるか。バルブの無い蛇口は完全に閉じるか、もしくは完全に開くかのどちらかしかできないわけだ。
そしてあの魔力量から来る水圧で、蛇口からは膨大な量の水が勢いよく流れ出る。すると当然、水車は壊れて動力を得ることはできなくなる。
そこでこの少年は、なんと蛇口からではなくタンクの水を自分の手で水車にかけ、水車を動かすことで魔法を発動させるという荒業をやってのけている。
当然そんなやり方で動かせる水車は小さいものでしかなく、効率も相当悪い。
しかし、それでも使えているのだから面白い。
長く生きていると、考えもしなかったやり方が出てくるものだ。これだから若い者との付き合いはやめられないな。
《ボクも若いヨー?》
『…………』
…………。
《……なにか言ってヨー。寂しくなってくるじゃないカー》
……すまんな。あまりにもあり得ない言葉を聞いて、一瞬フリーズしてしまった。
まあ、ナイアが若いというのは恐らく邪神の中での話だろうし、あまりおかしくはない……のか?
……そういうことにしておこう。
『……それがいいわねぇ……』
《なんだよなんだヨー。ボクはまだまだ若いヨー? ぴちぴちだヨー?》
まあ、そうなのかもしれないが、私にとってはナイアは相当年上だ。確かナイアの年齢が最低でも18桁はあったはずだが。
《18桁は僕らの中じゃあ若い方だヨー。それにボクたちの時間の流れは人間とはかなり違うからネー。加速したりゆっくりになったりたまに戻ったりもするんだヨー?》
年齢がか?
《年齢がだヨー》
そうか。それは……面白そうだな。研究していいか?
《……優しくしてネー?》
もちろんだとも。
フルカネルリの楽しい邪神研究その1。




