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異世界編 4-6 Another side (しばらく続きます)

 

この世界に魔法が現れてから、来年で早くも250年。現在では魔法と科学は一部一緒になり、魔法科学という学問が出来上がっているほど、この世界に魔法は馴染んできている。

初めは魔法と科学の相性は悪かったのだが、とある人物の発見によってその常識は覆された。

……のだけれど、今はその話は置いておこう。


……申し遅れました。僕の名前は白崎しらさき琢実たくみ。今年から魔法学校高等部に入学することになった、16歳男子です。

今では八割を越える人間が当然のように魔法を使えるようになった中でも、かなり多い魔力を持っていることが、僕のちょっとした自慢です。

この魔力のお陰で僕は小学生の頃に魔法学校に入るのにあまり苦労はしなかったし、今まで進級するのにも苦労はしなかった。

けれど、僕には一つ、欠点がありました。


僕は、魔法を使うのが下手だったのです。


原因は、自慢にしていた大きすぎる魔力。上手に術式を作ってもそこに流し込む魔力が多くなりすぎて術式が壊れてしまうし、かといって少なくしすぎるとまともに発動しなくなる。

初めのうちは術式を強くすることよりも魔力の量を調整することを頑張っていたけれど、全く出さないか、ほんの僅かだけ出すか、全開に近い量を出すか、全開かの極端な調整しかできません。

それを見ていた人達は、僕のことを『魔力だけのできそこない』と呼びます。


悔しくなって、魔力の調節だけでなく術式の強化にも手を出し、自分にできることは大体やって来たけれど、ほんの僅かな魔力をつかって発火や風を動かすことができるようになった程度でした。

いまでもずっと努力は続けていますが、いまだに魔力の調整は大雑把で、僕の魔力に耐えられるほど強い術式は作ることができません。

副産物としてできた術式を発表していなかったら、きっと僕は途中で魔法学校を辞めることになっていたと思います。


けれど僕はまだ諦めません。不可能だと思われていたことをやりとげた人、それまでの常識を覆した人なんて、歴史を紐解けば沢山居ます。

例えば、初めて人力で空を飛んだライト兄弟。例えば、西周りの航路で東に行くことを考え付いたコロンブス。例えば、地動説を説いたコペルニクス。最近では、魔法と科学の合成を成功させ、近代魔法科学の祖となったカザーネラ。

これらの人のやったことに比べれば、僕の望みなんて大したことのないことのはず。

いつの日にか、僕の思い描いた通りに魔法を扱う事を夢見て、僕は今日も魔力の放出量の調整と術式の構成を頑張ります。






フルカネルリだ。色々と研究を続けていく過程で必要になったので、研究の一部を偽名で学会に発表した。

カザーネラという名前はそこそこ気に入っているので、また何か隠したいことをやる時には使うことにしよう。


ちなみに発表した内容は、魔法科学の基礎を少しと、その少しの基礎から導き出せる少しの基礎、そして少しの応用だけ。

たったそれだけのことでカザーネラは祭り上げられ、魔法科学の祖という扱いを受けることになった。

取り入ろうとしてくる者、弟子入りしようとする者、拐って組織のために働かせようとする者、護衛と言って私の技術を盗みに来る者。様々な者が居たが、その全てを私は受け流して、今こうして保険医をやっている。


そもそも、この世界で私がカザーネラだと言うことを知る者はアザギとナイアのみであり、そこまでたいした隠蔽をする必要は無いのだが………まあ、やっておいて損は無いだろう。

女は謎を着飾って美しくなると聞くが、それが本当かどうかを確かめる絶好の機会だ。


《謎を着飾るって言うなラー、前の世界の占い師の時に十分やってたと思うんだけドー?》


あれは客商売だったからな。わざわざ客とそこまで仲良くなることはなかっただろう?

今回は相手が生徒というところは変わるが、多少は仲良くしておくつもりだ。


……あくまでも多少だが。実験動物に向ける興味程度はいつでも全体に向けることにしておこう。

他の教師との繋がりは強くもなく弱くもなく。悪意は持たれないが好意も持たれにくい程度の距離を保つことにしておこう。飲み会などは面倒だからな。


……さて、それでは今日も始めるか。フルカネルリ改め、フルリ=カーネルの保健医の時間を。






  主人公と、真・主人公と。




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