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フルカネルリだ。ディオとナギとウルシフィの居る世界を覗いてみると、中々面白いことになっていた。
まず、ナギは既に大学生になっていて、ディオによって覚えさせられた記憶術で成績は悪くはないようだ。
悪かったら私がスパルタ方式で叩き込んでやるつもりだったが、そんなことがなくてよかったな。
ディオの方は偽造した戸籍を使って仕事を始め、清濁併せ持つ実業家として働き始め、次々に実績を上げていっているようだ。
ウルシフィの力で風から情報を正確に読み取りながら、時に清く時に汚く、そしてそれを感づかせないようにしているらしい。成長したな。ディオ。
そしてウルシフィはウルシフィで、猫としての生活をしている。
ナギに餌をもらい、ディオに撫でてもらい、時に押さえ付けられて苛められることに喜びを感じながら元気に頬を朱に染めている。
ディオとナギが一つになっているときもそのそばに居て、たまに混ぜてもらっているようだ。
ナギ公認の愛人のようなものか。人ではないが。
ただ、踏まれ、叩かれ、胸を握りつぶされそうなほど強く捕まれて恍惚としているウルシフィを見ていると、これはどうなのだろうか? と意味もなく問いかけてしまいたくなる。
……まあ、好みは人それぞれだ。ウルシフィは人ではないが、恐らく精霊も同じだろう。
《原因はフルカネルリだけどネー》
そうらしいが、知ったことではない。ウルシフィが勝手に扉を開いてしまっただけだ。
本人にも(人間ではないので本‘人’ではないが)そういった資質があったというだけの話だろう。
……さて、息子夫婦と愛玩動物の爛れた生活も見終わったことだし、私はいつもの通りに図書館に行くとしよう。
こちらの世界に来てから、早くも二年が過ぎた。私もウルシフィもこの世界に慣れてきて、充実した日々を送っている。
「あ……あぁぅぅ……♪」
……ん? ウルシフィか? ウルシフィなら私の足の下で背中を踏まれてもがいているが?
だが、最近はナギ殿にずっと相手をしてもらっていたせいか、多少不満げだ。
私は進化したナギ殿ほど相手をいじめることが好きなわけではないので、ナギ殿のように精神を削り取り、矜持をへし折り、屈辱の極みを味あわせ、踏みにじるような責め方は………できないこともないが、加減が利かないから殺してしまいそうなのでやめている。
私はウルシフィの体を。ナギ殿は精神を責めるように役割分担というわけではないが、似たようなことをしている。
わざわざそうしてウルシフィを苛めている理由は、ウルシフィがそれを望むからであり、その分の苦労は仕事をさせて返させている。
風に混じったこの世界のありとあらゆる情報を精錬してこの場に持ってくるだけの、ウルシフィにとっては簡単な仕事だ。頑張れば頑張るほどにご褒美(精霊の頑丈な体に後々まで残る深い傷や傷跡。もしくは拘束具や鞭。時には現物支給でスパンキングを求められることもある)をやっているので、中々よくやってくれている。
ちなみに、ウルシフィの首輪コレクションは既にその数を百まで増やしているそうだ。猫用と人型用を合わせた数だそうだが、それでも十分だろうと思うのは私だけだろうか?
……まあ、ウルシフィの好きにさせてやるべきだな。なんぞ不利益なことをやっているわけでも無し。
……ナギ殿だったら、そのコレクションを提出させて、自分の口で望む状況を言わせて、途中まで完全にその通りにしてから後半を自分がしたいように変えるのだろうな。
私は私でウルシフィから頼まれれば大体のことはやっているが、なにも言わなければなにもしないということを続けている。
ウルシフィ曰く、その放置が最高、自分から言わないとどんなこともしてもらえないから恥ずかしい言葉でおねだりするしかなくて、そんなことを求めているって確認させられるだけで五~六回はイケるそうだ。
……そこまで行くと、もはや病気だな。
「ぁ……はぁ……♪ あ、ははは……病気でも、いいよぉ……♪ だから……ディオさん……っ!私の顔を踏みにじって、ボロボロになるまで……虐待し《め》て……下さい………っ」
…………な? 手遅れだろう? 魔力さえ流せば傷跡ひとつ残さず治る体を持っているからこそ言える台詞だな。
「お邪魔します、ディオさん」
そこで、ちょうどよくナギ殿が遊びに来た。
私はウルシフィを蹴り上げて、ナギ殿に向けて飛ばした。
「あぎっ!ぐぅぅ……っ」
「……はぁ………またですか? ……で、ウルシフィはどうして欲しいって?」
「できる限り屈辱的に、虐待して欲しいとさ」
「そうですか」
ナギ殿は、鳩尾を蹴り抜かれて悶絶しているウルシフィの太股に足を置き、ゆっくりゆっくりと自分の体に重力をかけて重くして行く。
ウルシフィはギシギシと軋みをあげる自分の脚の痛みに悲鳴を上げ、同時に嬌声をあげる。
「あっ!あぁっ!!いぎぃっ!? ナギ殿ぉっ!折れちゃうよぉぉっ!!」
「折れる直前で辞めるから大丈夫」
……やれやれ。これではまるで私達がウルシフィに逆調教されているかのようだな。
向こうの世界の日常。




