異世界編 3-18
フルカネルリだ。私が求めるのは‘勇者’や‘救世主’による英雄譚だと言うのに、始めに動いたものは国家による軍だった。
まあ、軍でも倒せない魔王を倒すと言う話を作るには、こうした対軍戦闘もしなければならないか。
「将軍検体二号、三号。五百ずつ率いて潰してこい。何を連れていくかは任せる」
「はい、我らが魔王様」
「一人たりとも欠けさせずに戻って参ります」
私の言葉に深々と礼をしながら返した二人の男達は、私の検体の中ではそこそこ強い程度の者達。
レベルは89と103で、片方は数百から数千程度の小規模な軍を操るに長け、もう片方は数十から百程度のさらに小さな集団を率いるに長けた者だ。
特技はゲリラ戦法や、罠や不意打ち等の騎士道精神に反した技で、恐らく連れていく兵も大多数が工兵だろう。
まあ、八万近い軍を千で散らせと言っているのだから、そう言った手段は当然使うだろう。
工兵と言っても私の訓練を潜り抜けた者だけだし、戦えと言われれば十分戦える。
「源魔の森に入られる前に仕留めろ」
「魔獣の使用は……」
「幻獣騎獣のみ許可する。竜は却下だ」
「了解いたしました。それでは失礼いたします」
そう言って検体二号と三号は消えた。どうやら連れていこうとする者達を呼びにいったらしい。
まあ、精々頑張って潰してくれ。うまくやれば褒美をとらせてやる。
私が名前をつけてやろう。検体二号、検体三号以外の名を。
私を楽しませろよ? モルモット。
結界の外に出て、すぐさま敵の通るだろう道に罠を仕掛ける。
踏まれた瞬間巨大な爆発を起こす地雷を数百ほど埋め、大きな穴を作って蓋を閉めて爆薬を仕掛けて落とし穴を作り、外身だけの城を工兵の魔導を駆使して作り上げてそこを囮に火計を張る。
更に敵軍に噂を流す。この進軍は今の王が不老不死を欲しがるがために作られた遠征軍で、魔王カザーネラを殺さずに捕らえる理由は殺した者にのみ不老不死が与えられるからだ、と。
それのお陰で敵軍の意気は下がり、我々が付け入る隙も増える。
一兵たりとも減らさず帰れば、魔王様―――母上にお誉めの言葉を頂けるだろう。あの御方は、認めるべき物は認め、誉めるべきところでは誉め、叱るべきところでは叱ることのできる御方だ。
そして、捨て子であった私に力を与え、育て上げてくれた。その恩のほんの一部かもしれないが、ここで少しでも返そう。
……例え、母上の愛情が私に向けられる事が無いとわかっていても。
「三号。先行させた偵察隊からの連絡だ。『敵軍進路は予想通り。罠を仕掛けながら徐々に撤退を開始する』だそうだ」
「そうか。わかった……ならば最後の仕掛けはまだ置いておかない方がいいな」
地雷源より数段深いところに埋められた巨大爆弾の遠隔爆破用スイッチをちらりと見て、それから手を離す。
母上の所まで攻めてきたくないと思わせるためには、わざと敵を逃がさなければならない。数は始めの百分の一程度でいいだろう。
それを、私達が潰した後に『明らかにわざと』見逃せば、よほどの馬鹿でない限り自重するだろう。
さあ、狩と蹂躙と虐殺の始まりだ。それなりに手加減はしてやるから、運がかなり良いか、もしくは母上ほどとは言わないが大将軍役の検体3885号程度に強ければ生き残れるだろう。
爆発音が響き、また数多くの仲間達が死んでいく。
いくつもの火柱が天を突き、竜巻がそれを煽り威力を増す。
炎を巻き込んだ竜巻に数千人が引きずり込まれ、あっという間に八万三千もの軍勢が見る影もなく潰された。
生き残ったのは数百人程度。それもたいした能力もない私のような雑兵と、上を目指す欲のない凡将が一人残るだけだ。
「……さて、お前たちにはしっかりとこの事を伝えてもらわなければならないからな。ここで逃がしてやろう」
私達の仲間を虐殺した男の一人が、ニタリと笑いながら言った。
「ただし、報告に嘘を交えられては困るのでな……。真実しか話せないように呪いをかけて、だ」
「カザーネラ様は軍ではなく、最強の英雄を求めておられる」
「時間は貴様等が死に絶えるまで。それまでは毎年全ての知性ある生物の1‰を殺して行こう。ドラゴンもエルフもドワーフも妖精も、全てだ」
「確りと伝えろ。最強の軍ではなく、最強の個体を向かわせろ」
「そうでなければ我々は、王都にてこの地獄を再現することになる」
そう言い残して、その男たちは瞬きの間にその場から消えた。
私達は命があったことを感謝しながら、王国へと帰還していくのだった。
生き延びた一人の兵士の調書より。




