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フルカネルリだ。約束通りに新しい力をもらったのだが、死にそうだ。主に頭の痛みで。
《ボクはちゃんとめちゃくちゃ痛いって言ったヨー?》
わかっている。わかっているから今は話しかけないでくれ。
痛みは十数時間も続き、ようやく痛みが止んだときにはもう朝日が上っていた。始めが前日の14時半だったことから考えると、ずいぶん長い間痛みを堪えていたんだと驚きの気持ちが沸き上がってくる。
今となってはなんともないし、見えないように抑えることもできるようにはなったが、私は抑えることはしない。むしろ痛みを伴ってでもそれ以上を引き出そうとしている。
《……よく耐えたネー。正直に言うと発狂ぐらいはしちゃうんじゃないかと思ってたんだけど、ってフルカネルリ!? なにやろうとしてルのサー!?》
なに、少々訓練をな。
《バカ!いいからすぐやめて休んで!こんな状態で次の扉開いたら――》
ナイアがなにかを言い切る前に、私の意識は一瞬にして焼き切れそうになった。
今受けた痛みなどお遊びだったと言わんばかりの激痛。
あまりの痛みの量に今まで抑え続けていた悲鳴が喉から溢れ、垂れ流される。
しかし私は狂えないし壊れたくない。
狂った瞬間私は私ではなくなり、壊れた途端に私の意思が歪んできえてしまうからだ。
私はそれを許さない。何故なら私は私であるうちに世界を知りたいからだ。
私を見送った弟子たちに私は
「見聞を深めてくる」
と言った。
これは私が私でなければできないことだ。
だから私は狂わないし壊れない。それこそが私が決めた、私にとっての最高法規。これを守れぬのなら、いっそ私は消滅すべきだ。
しかし私は消滅しない。私は私で在り続けるから。
気付いたときには痛みはおさまっていた。
その代わりに私に与えられたものは、無限と言っても良いほどに沸き上がってくる情報と、その全てに解を出す事ができる知識の数々。これだけでもあの激痛に耐えた意味はあった。
しかし、科学者/私/フルカネルリにとってこれほどつまらないことはない。
だから私は答えを出す知識の流入を停止する。
そして一息つくと、ナイアがありえないものを見たマッドサイエンティストのような雰囲気を醸し出していた。
《…………………フルカネルリってサー》
ん? 私がなんだ?
《…………………実は元々人外だったりしない?》
何をいきなり。それについては私よりナイアの方が詳しいだろう。
だが、一応言っておく。
私は、『私/フルカネルリ』という人間以外にはなりたくない。
《…………ふーん、そっカー》
ああ、そうだ。
……いや、少し訂正だ。
『私』であれば人外でも一向に構わん。
《いいノー!?》
ああ。
時計を見ると、すでに短針が7を指し示している。
ああ、ちょうどよく起きる時間だな。
いつもより段違い――どころか次元違いで頭が回る。
《そりゃそうでショー。あんだけ無茶苦茶やったんだからそのぐらい出来るようになるサー》
無茶苦茶なのか?
《例えで言うと、イカサマ無しでサイコロで一を八十回連続で出ることを予言して一発で当てるぐらい無茶苦茶だヨー》
それはかなりの無茶苦茶だな。
《しかも使うサイコロは24面体で1から24まで規則正しく並んでるやつネー》
訂正しよう。かなりを通り越した無茶苦茶だったな。
まあ、これもひとえに慣れか。
《……もうなんかフルカネルリだからでいいヨー…………》
そうか?
……まあ、ナイアがそう言うならそうなのだろう。
フルカネルリはそう言ったけど、実はそれはボクのせいでもあったりするんだよネー。
具体的には、下限値固定と成長速度上昇のせいでネー。
実はボクもこんなことになるとは思ってなかったんだけど、下限値固定ってネー
上昇速度まで下限値固定されるみたいなんダー。
簡単に言っちゃうと、一日で3成長した事があったとすると、その日以降も必ず3は成長するようになるみたいなんだよネー。
もちろんそのあと3より多く成長すればそれだけ多く成長するし。
で、何が言いたいかというと…………赤ちゃんから小学生になるまでにどれだけ筋力が上がると思ウー? 赤ちゃんの時にはどれだけの速さで脳の神経が繋がっていくか知ってるかナー? ついさっき、たった数十分でどれだけフルカネルリの脳が強くなったか知ってるかナー?
…………これからフルカネルリはどんどんと成長していくはずなんだけど、人間ならみんな持ってる上限もなくなっちゃったし、どこまでいくか、ボクもちょっと楽しみだったりしてネー。
いつの日にか行かせてあげる異世界の中で、フルカネルリが何をして、どんな風に生きて行くのか。
今回フルカネルリにあげたもうひとつの能力に、フルカネルリはいつ気が付くのか。
気が付いたとしてどうするのか。否定するのか肯定するのか。受け入れるのか拒絶するのか。
フルカネルリがどれを選んでも、ボクはそれを楽しむだけだし、ここにない選択肢を作っちゃうかもしれないからボクはフルカネルリから目を離せない。
……まあ、離す気なんて初めっからこれっぽっちもないんだけどネー。
ついでにボクの想像では、フルカネルリなら素直に受け入れてそれについての研究を始めると思うヨー。もしかしたら違う反応をするかもしれないけドー。
……………想像するだけでも、とっても楽しみだヨー?
楽しいことが大好きなナイアの考えた未来の話。




