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フルカネルリだ。七月に入り、ようやく梅雨が終わったことでクトゥグアの機嫌が一気に良い方向に向かうようになった。……やれやれ、現金な奴だ。
《神って言うのは大体みんなそんなものサー。特にボクやクトゥグアみたいな邪神だとネー》
そうか。
《そうサー》
七月と言えば七夕祭りだと母が急に言い出し、父がそれにノリよく笹を買ってきたために急遽私の家で七夕祭りが行われることになった。
……私は折紙に鋏を入れていくつも飾りを作り、それを使って笹をそれなりに飾るように言われたのだが、これがなかなか難しい。
具体的に何が難しいかと言うと、どうしても手が笹の上の方にまで届かないのだ。
仕方がないので紙を細く切って繋げて作った紙の鎖を投げて周回させるようにしたのだが………やはり少々不満だ。
『……十分だとぉ……思うんだけどねぇ……?』
いやいや、確かに普通ならばそうかもしれないが、私は外見はともかく中身は爺だ。それも欲望まみれの上ばかり見ている爺だ。ならばこんなもので満足するはずがないだろう?
『……ふふふ……そうねぇ………瑠璃だものねぇ……♪』
《でも外見は可愛い女の子なんだけどサー》
五月蝿い、大八車に轢かれて死ね。
《何で大八車なノー!? ただでさえわかりづらいフルカネルリの思考回路がどこに繋がってるかさらにわかりづらくなっちゃったヨー!》
『……元々、簡単にわかるような考えはぁ………持ってないけどねぇ……?』
ナイアがその気になればわかると思うのだがな。
《アー、それは無理だヨー。フルカネルリの事を予測しても未来を覗き見てモー、フルカネルリはその未来からさっさと離れていっちゃうからネー》
……ほう、なるほどな。
私の他にもそういった者はいるか?
《ンー……ボクたちくらいの上位神になると、大体そんな感じかナー?》
…………なるほどな。
よし、決めたぞ。私の現在の目標は、ナイア達のような上位神の未来を読んで見せることにする。今のところの最終目標だな。
『……ふふふふ……頑張りましょうねぇ……?』
ああ。私が消滅するまでには突き止めたい。無理だった時は……まあ、死後の世界で考えるさ。
七夕飾りに短冊を吊るす。願い事を書いておくと叶うと言うので、一応書いておくことにした。
母が書いたのは『家内安全』。父が書いたのは『家内安全』。私が書いたのも『家内安全』というなかなか無いことになってしまったが、それは家族仲が良いということで構わないだろう。
母と父はくすりと笑い合って、それから私に手を伸ばしてきた。
私は久し振りにその手をゆっくりと握った。
それだけのことでまた父と母は笑い声をあげた。何故笑っているのかはわからないが、やはり人間と言うものはとてもわかりづらいものだということがわかった。
……そう言えば前世ではよく人の事を理解できないとか化物とかいわれたな。そして私をそう呼んだ者が勝手に倒れていったため、貴族連中にはあまり好かれてはいなかったな。
……ああ、実に懐かしい。もはや思い出すこともないと思っていたんだが…………。
フルカネルリは変わらない。何千年もこの世界から離れていても、何万年も生きていても、この世界を離れる前と全く変わっていない。
確かに知識や経験は増えているし、やることはだんだん大きくなって来てる。
それでも、フルカネルリの根っこは変わってない。知識欲の塊。フルカネルリはそう呼ばれるにふさわしい思考をしている。
前世から今生まで、全く変わらないその生きざまは………神には無い情熱を感じさせてくれる。
ボクとアザギは、そんなフルカネルリが大好きサー。
『……えぇ……大好きよぉ……』
《そうか》
帰ってくる言葉は素っ気ないけど、それもフルカネルリの魅力のひとつ。
……ああもう、本当に可愛いなぁ……♪
《可愛いと言われても嬉しくないぞ》
「ごめんネー」
ナイアのフルカネルリ考察。




