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フルカネルリだ。そういえばこちらでは6月。梅雨の時期だ。
毎日毎日しとしとしとしとと降り続けていて、そろそろ飽きる。
《飽きるって……そういう問題なノー?》
『……いいじゃなぃ……だって、瑠璃なんだものぉ………♪』
そうだな。
ただ、飽きが来るとは言ったがそれは今ではなく、もう少し後になりそうだ。
この世界には魔力や気、霊力、妖力を含むあらゆる異能の力が存在しない。そのせいでこの世界では魔法も魔術も使えないのだが、それについての抜け道を見つけた。
確かにこの世界では魔力が回復しないため、また精霊が居ないため、つい最近まで行っていた世界の魔法はそのままでは使えない。
だが、私の見つけた魔力はそれだけではなく、自分自身で生み出している魔力で同じように魔法を使うことはできるのだ。
……実のところ、あまりにも使っていなかったためにこちらの魔力の存在を忘れていた。魔法を使うことができず、何か無いかと探していたところでこの魔力のことを思い出し、使ってみたら使えたと言うことだ。
……やれやれ。私もまだまだだな。
《人間だもノー。間違えることだってあれば忘れちゃうことだってあるサー》
『……そうよぉ………亡霊だって、忘れちゃうことがあるんだからぁ………人だって忘れちゃうわよぉ…………?』
そう言ってもらえると、救われるな。
「……あー雨むかつく。とりあえずてめえら七十二ページから七十九ページまで読め。一分で」
クトゥグアが授業をしているのだが、いつもに比べて明らかにかつ圧倒的にテンションが低い。その上不機嫌らしく普通なら無理なことを要求してきた。
『ピンポンパンポーン♪ ――クトゥグア!いくら雨が嫌いだからって生徒に八つ当たりするんじゃないっ!――ピンポンパンポーン♪』
「……アブホースの野郎……」
……どうやら教頭はクトゥグアが雨の日にどのようなことをするかがわかっていたようだな。
《まあ、ボクたちは付き合い長いからネー。そのくらいのことは理解してるサー》
そうか。友情と言って良いのだろうな。
《あはははハー……そうだネー。たぶん本神達も渋々認めると思うヨー》
私が言うと、ナイアはクスクスと笑いながら肯定した。
……だが、渋々なんだな。
雨が降るとクトゥグアはイライラするが、それと同時に元気がなくなる。炎の神性であることを考えれば仕方無いのかもしれないが、なぜか同じ炎の神性であるはずのクトはそのような様子を全く見せない。
「……雨っていいですよね………こんなに簡単に水琴窟みたいな音が聞けるんですから……」
むしろ喜んでいるようだ。炎の神性としては異常なのだろうが、悪いことでは無いだろう。
『……そう言えばぁ……クトゥグアの子は、あらゆる物を凍らせることができたそうねぇ………?』
《あレー? なんでアザギがアフーム=ザーのこと知ってるノー?》
実在するのか?
《するヨー。ただ、ボクたちにとってはクトゥグアに近い上位神の一族みたいな扱いなんだけどネー》
『……ふぅん……? ………けっこぅ……違うのねぇ……?』
《一応クトゥグアの一族との繋がりはあるシー、間違ってはないんだけどネー》
そうか。成程、神にも色々あるのだな。
……となると、クトは少々そちらに近かったりするのか? 凍らせるなら雨も水も平気だろうし、熱いものが苦手と言うのも頷ける。
《そうだネー、ちょっとだけそっちの方に近いんじゃないかナー? ただ基本はクトゥグアの一族だからそんなに凍らせたりとかはできないと思うヨー》
少しはできるのか?
《少しならネー》
そうか。まあ、熱量を燃やせばクトゥグアでも物質を凍らせることはできると思うがな。温度とは科学的に簡単に言えば構成する原子または分子の振動であるわけだし、振動のためのエネルギーや運動ベクトルのみを焼き尽くせば絶対零度近くまでは行くだろう。
《多分やらないと思うけどネー? あいつ冷たいの苦手だシー》
そうか。私の魔法で作った炎は物質または魔法、霊体などしか燃やせないからな。実験したくともできないのだが……。
……クトに頼んでみるか。それでダメならいつか出来るようになったら自分でやるか。
『……ふふふふ……そこで、諦めないのがぁ……瑠璃よねぇ………♪』
《欲望に忠実な人間らしい人間だよネー。そんなフルカネルリが大好きだヨー?》
私もお前たちのことは好きだぞ?
日常に戻ったフルカネルリ達。




