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異世界編 2-82

 

フルリさんに案内されて来たのは……多分食卓。何で多分なのかと言うと、こんなに高級そうな食卓をただの食卓と言っていいのかどうかわからなかったからです。


「食卓で構わん、と言うより何でも構わん。本人がそこだとわかればそれでいい」

「あ、はい、わかりました」


……フルリさんって、心が読めたりするんでしょうか? ディオさんもやっていましたし、フルリさんができてもおかしくないとは思いますけど………。


フルリさんを見つめてみる。視線が合った。


「……早く席に着くと良い。料理が冷めてしまうぞ」

「む? 今日は母さんが作ったのか? それは楽しみだ」


ディオさんはフルリさんの言葉を聞くと、すぐに自分用の椅子がおいてあるらしいところに座ってしまいました。

そして、私の方を見て自分の隣の席を指差します。ここに座れと言うことなんでしょうか……?


無色透明な結晶でできている椅子に座ってみる。……意外と冷たくないんですね。元の世界で触ってみた水晶みたいにひんやりすると思っていたんですけど……。


それからすぐにさっきのハヴィラックと呼ばれていた人と、私達にフルリさんが待っていると教えてくれた人が食卓を囲むようにして座った。ハヴィラックさんは私のことを少し睨んでいたけれど、フルリさんにでこぴんされておとなしくなった。


……でこぴんの音が‘キュボッ!’で、当たったときの音が‘ドムッ!’だったと言うのは、少し恐ろしいですが。絶対あれすっごく痛いですよね?


「……揃ったな。では……いただきます」

「「「「いただきます」」」」


こうして、私にとっては凄く緊張する食事会が始まりました。




「……さて、ナギには質問があるのだが………欲しいか?」


そう言ってフルリさんが指差した先に居るのはディオさん。まあ確かに、ディオさんのことは好きですよ? もし可能なら子供がほしいくらい。


「そうか。その辺りは別に構わんぞ。ディオにお願いして合意の上ならな」


……私って顔に出やすいんでしょうか? ぺたぺたと頬を触ってみますが、特にいつもと違っている様子はありません。


「母さん。頼みがある」

「言ってみろ」


その間にディオさんがフルリさんに何かお願いをするようです。いったい何を


「ナギ殿を、元の世界に帰してやってほしい」


―――へ?


私の頭の中に雷が落ちたような衝撃が走りました。

だってディオさん、アリバシーヤに頼むしか方法はなく、しかも望み薄だって言っていたじゃありませんか。私はそれを信じて、帰りたいと思いながらもこの世界に骨を埋める覚悟もしていたんですよ?


「……できるか?」


ディオさんは少し不安そうに言う。どうやらディオさんもあまりできるとは思っていないようだ。

確かに、いくらフルリさんが理不尽でも、術式も見ていない、どこから来たのかもわからない、いつ来てどれだけの時間この世界で暮らしていて、元の世界でどれくらい時間が過ぎているかもわからない状態じゃあ、無理かもしれない。


しかし、やはりフルリさんは理不尽だった。


「構わんぞ。既にナギがいつ、どこの世界から来て、どの程度暮らしてきたかもわかっているのでな。今すぐにでも帰還させる事もできる」


私の頭の中が、真っ白になった。




そのあと、何があったのかはよく覚えていない。前にもこんなことがあったよいな気がするけれど、多分そのとき以上に私は呆然としているはず。

気が付いたときには私はフルリさんにあてがわれた部屋で、布団に顔を押し付けて声を殺して泣いていた。


『……ナギ殿。どうしてナギ殿は泣いているんだい? ナギ殿はあんなに帰りたがっていたじゃないか』


このときばかりは流石のウルシフィも口数が少なくなっている。けれどその言葉には、いつも以上に優しさが込められているのがわかった。


「……だめ、なの」

『駄目? 何がだい?』

「私……ディオさんがいないと、駄目なの……」


私がそう言うと、ウルシフィは優しく微笑んだまま私の頭を撫でてくれた。


『……そっか。ナギ殿は、ディオさんが大好きなんだね』


私は泣きながら、無言で頷いて肯定する。今声を出したら、きっとすごくみっともない声になってしまうと思ったから。


『……でも、ナギ殿は帰りたいんだろう?』


また頷く。涙と一緒にぼろぼろと、色々な我慢をしていた私が剥がれ落ちていく。


『ナギ殿は、どうしたいんだい? もとの世界に帰って、ディオさんに会えないまま暮らす? それともこの世界に残って、ずっと帰りたいって思いながら過ごす?』


ウルシフィの言葉に考え込む。

きっと私は、どっちを選んでも後悔しながら生きていくことになるんだろう。それはわかる。嫌でもわかる。

どちらかを選ばなければならない、と言うこともわかっている。


でも、どっちを選んでも後悔するんなら………


「……どっちも………」

『…………』

「……どっちも選ぶ。ディオさんと一緒に居たい。帰りたい。だから私は。どっちも選ぶ!」


ウルシフィは何も言わない。けれど私は目をそらさない。

しばらく見つめあっていると、ウルシフィが呆れたように溜め息をついた。


『……だってさ。どうするんだい? ディオさん』


…………へ?


くるりと振り向くと同時に扉が開き、やはり呆れたような表情のディオさんが私を見ていた。


「ナギ殿。ナギ殿がそう言うのなら、私はナギ殿について行きたいと思っているぞ? 母さんにも許可をとってきたし、母さんも初めから私とナギ殿を同時にナギ殿の世界に行かせるつもりであったらしい」

「…………え………………えぇ、と……?」

『……つまり、全員ナギ殿がどっちもって言う選択肢を選んで当然だと思ってた、ってことだよ』


……ぎぎぎぎ……とウルシフィのことを見てみると、さっきまでの優しそうな目はどこかに消えて、どちらかと言うといたずら好きそうな目に変わっていた。


『……それじゃあ、私はこのへんで外に出てるよ……ごゆっくり……くすくすくすくす…………』


この後の事は、秘密です。

ただ、全部が終わった後にウルシフィのことを二十ほど殴ってしまいましたが、これくらいは許されますよね?

確かにディオさんと結ばれ……けふけふ、まあ、感謝していますが、あれだけからかわれたんですから。






フルカネルリだ。やれやれ、実に初々しいな。


《そうだネー。かわいいよネー》

『……ふふふふ……♪』


ああ、可愛らしいな。驚いたときの顔がまた秀逸だ。

ディオはナギのことを好きだと自覚していなかったし、今回のことはちょうどいい発破になった。しばらくは時間を与えて、婚前旅行でもさせてやるとするか。


……ああ、だがその前にディオに向こうの常識や法を学ばせてやらなければな。

言語の方はナギと同じようにしてやればいいし心配していないが、そればかりはしっかりと学ばせても不安が残ってしまう。

なにしろ今までの常識とはかなり違う常識を教えられるのだから、かなり勝手が違ってくるだろうし………ああ、向こうに戸籍も作ってやらねばナギと正式に結婚もできん。


やれやれ、やることは山積みだな。ディオ自身がやらない社会的なことは、計二時間で終わらせるが。


《頑張ってネー!応援してるヨー!》

『……わたしはぁ……手伝えないからねぇ……?』





  アフターサービスも万全、フルカネルリ運送(ナギとディオを送る的な意味で)。




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