異世界編 2-58
サノカッキに到着。ただしいきなり町中に降りるわけにもいかないので町が見えた所からは歩く。
……ふむ。やはり大会のせいか、良くも悪くも活気があるな。
周囲は腕自慢の冒険者達がひしめき合い、商人達が声を張り上げている。
空気はぴりぴりと張りつめていて、今ここで爆発音でも響かせれば暴動が起きてもおかしくはないだろう。
私はそんなことをする気はないが、もしかしたらそういうことが起きるかもしれないので一応注意だけはしておくことにする。
…………何故かは知らないが、今回は妙に嫌な予感がするんだ。私の嫌な予感はあまり外れない。いい予感は十回に四回は外れるのに、嫌な予感は千回に一回外れるかどうかと言うレベル。
例えば母さんに修行中に失敗したらまず死ぬような物をいきなりされたときも嫌な予感がしたし、母さんから渡された厄介事の臭いのする蛍光緑色の薬(しかもよく見ると周囲の空気が歪んでいた)を渡されたときも、母さんに腹を刺されて治癒魔術の練習をさせられたときも、同じ魔術同士を正面からぶつけて威力が弱かったり失敗したら死ぬような魔術の実習訓練をしたときも、毒があるか無いかの判断に失敗すると泡を吹いて死ぬといった訓練のときも(この時ばかりはこの予感で助かった)、母さんがわざと見せた隙に打ち込もうとしたらそこに爆雷型の設置魔術が置いてあったときも、すべて嫌な予感がした。
…………原因は皆母さんである気が……。
「ど、どうしたんですかいきなり?」
「……いや、気にするな。世の中の無情を意味もなく悟ってしまっただけだ」
……本当に、なんの意味も無い物をな。
大会に出場するための登録をしておく。それなりに大きな大会で、うまくいけば王の御前試合への出場資格を手に入れることができるので既に多くのものが参加しようとしているらしい。
ただ、私達は御前試合に出るためにここに居るわけではないので気にはならないし、負けたら負けたで問題ない。ただし死ななければ。
「わぁ……久し振りの人混みだ……」
「……そうだな。私はあまり人混みは好きではないが」
「好きな人っているんですか?」
「さてな。もしかしたら居るかもしれんが、少なくとも私は知らん」
母さんなら………いや、嫌いそうだな。本気で嫌になったら周囲ごと消し飛ばしそうだ。母さんならできるだろうし、本当にやると決めれば躊躇わずにやるだろう。
………ああ、大魔術で町を消し飛ばしている母さんを簡単に想像できる。おそらく神も魔王も止められないのだろうな…………。
「ディオさん? なんで遠い目をしているんですか?」
「………いや、気にするな」
頼むから気にしないでくれ、ナギ殿。
フルカネルリだ。ディオとナギとやらを見付けた。しかし話しかけることはしない。何故ならそれは野暮だから。
《ほんとは自分が関わることで興味の対象になにか起こったらつまんないからでショー?》
その通りだが、どうかしたか?
『……ふふふ……瑠璃は、ぶれないわねぇ……?』
《そうだよネー》
そうか? 私はかなり変わったと思っているのだがな。
宿はいらない。何故なら私はここで何度か悪質な者に騙されそうになったからだ。私が解析で相手の思考を読むことができなかったら、奴隷の首輪をつけられて調教されて売り飛ばされるところだった。
………まてよ? それも経験か……?
《やめとこうネー?》
『……ダメよぉ……?』
……そうか。ならばやめておくとしようか。
ところで、ちょっとした興味からの質問なのだが、私に洗脳はともかく暗示は効果があるのか?
《……………都合の悪いのだけ無くしといたヨー。と言っても健康の呪いにちょっと手を加えるだけだから簡単だったけどネー》
そうなのか?
《そうだヨー》
そうか。
……まあ、効果があるか無いかが知りたかっただけだったのだが、意外に気を使わせてしまったらしいな。少しばかり反省しよう。
《…………あのフルカネルリが、反省……?》
『………ふふふ……きっと、疲れてるのよぉ……今日は、いっぱい寝ましょぉ…………』
…………私が反省するのはそこまでおかしいことか?……まあ、確かに中々無いことだと自覚はしているが。
……さて、そろそろ私も大会出場に向けて動くとするか。
ダークホース、行動開始。




