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異世界編 2-29

 

さて、始めようか。






大陸最強を決める大会。およそこの場に居る全員がこの大会をそう言うものだと考えている。

それだけではなくこの大会で優勝すれば白金貨で二十枚というかなりの金も入ってくるし、優勝できなかったとしても本戦に参加できたと言うだけで確実に評判は上がる。上手く行けば王国の騎士団への道も開けて来るというだけあって、その本戦に参加する者達は皆何かしらの強さを持っているし、大体は元々高い実力と評価を持っていることが多い。

例えばそれはギルドに登録されている冒険者の中でも高いランクを持っている。者だったり、騎士団の中でも隊を一つ任されているものだったりと様々だが、ここで頭角を表し始めるものがいないわけではない。

そしてそんな見付けられていなかった才能を持つ者達は、今までに知られていた者達以上に注目されるものだ。

今も、参加者の控室ではピリピリとした緊張感が張りつめている。その緊張感の中心にいるのは、いまだに成人すらしていないような少年だった。

一人、また一人と名前を呼ばれて控室から会場へと移動して行く。それでも少年は全く緊張の色を見せてはいない。

そして、少年の名前が呼ばれ、少年は会場へと歩いていった。

「……あのガキ、かなり強えな」

残ったうちの一人。Aランクギルド‘バロネッツ’の副団長、イザック=ネルゲイがもう二人残ったうちの一人に声をかける。

「……ああ、そうだな、イザック」

話しかけられた一人、王国騎士団長アルフレッド=ハーウェスが、まるで旧友に対するように言葉を返す。

それもそのはず。この二人は元は同じギルドの構成員同士だったのだから。

「……しかし、負けるつもりは無いのでしょう?」

最後の一人、この大会で唯一の魔術師であるアクトリウス=ニューロメルトが二人に声をかける。

「当然だ。この国の騎士団の長は、最強であらねばならん」

「やれやれ、やっぱアルフレッドはお堅いねえ。もう少し力抜いてこうぜ?」

「……とか言いながら、一番本気なのはイザックじゃないですか」

「あ、バレた?」

けらけらけら、と笑っているイザックだったが、その目はどう見ても笑っておらず、いかにして勝ち抜いて行くかを考えているようだった。


「……お、呼ばれたみてえだな?」

「そうみたいですね」

イザックの名が呼ばれ、イザックは控室の扉に手を伸ばす。

「……んじゃ、お互い当たるまでは生き残ろうぜ?」

「安心しろ。お前に言われずとも手は抜かん」

軽口を叩き合い、二人は獰猛な笑顔を浮かべた。

「……うーん、僕はどこで口を出せば良いのかな?」

ぽつりと呟いたアクトリウスの姿を確認し、片方はやや大袈裟に、もう片方は心底そう思っていたとわかる口調で言った。

「お、そういや居たんだったな」

「済まない、完全に忘れていた」

「あ、やっぱり? うん別に良いよ? 忘れられるのにはもう慣れてるしね? でもあんまり忘れられちゃうと、僕も君達が怪我をしたときについうっかり回復魔法を使うのを忘れちゃうかも知れないけど、別に良いよね? 何でかは知らないけれど君達がいつもこうやって僕を忘れる事があるんだから、僕が明らかに大怪我をしている君達を偶然忘れちゃったとしても不思議はないよね?」

「……いや、ホントすまん」

にこにこと笑いながらひたすら呟くことを続けるアクトリウスは、妙に怖かったらしい。




  優勝候補、イザック=ネルゲイの遅刻の理由。




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