異世界編 2-5
フルカネルリだ。ハヴィラックとプロトをこの世界に作り上げた。体を作った後に記憶をインストールするだけだったのでとても楽だった。
《二人ともまだまだ子供だけどネー》
そうだな。
ハヴィラックは前の世界でもやっていたように私の世話を焼く。私より身長が低いのに背伸びをして私の世話をしようとしているのは、見ていてほほえましい。
ちなみにプロトは今回は始めから女として作ってみたのだが、今までも何度か女になっていたこともあって平然としていた。
《なんというカー、二人とも苦労してるネー?》
私と同じようにな。
そして二人に魔法を教えているのだが、その際に常識を破壊することに一番苦労している。
今まで科学が異常に発達していた世界で育ってきたのでそんなものがあるわけがないという下らない固定観念が二人のなかにあった。
そこで目の前で魔法を使い、それについて説明を繰り返し、何度も何度も固定観念と常識と偏見を破壊しつくしてようやく二人は魔法を使えるようになった。
魔法の存在を受け入れてしまえば二人の成長は早く、次々と魔法を覚えて行く。
私はそんなとても優秀な二人に分かりやすく魔法を教えることができるよう、魔法についての研究を続けていた。
この世界の魔法は世界に満ちる魔力のうち、自分に相性の良い属性の魔力のみを体に溜め込み、その属性に合った魔法を使うことができる。
しかし、あまりに溜め込む量が多すぎると体を壊したり、精神を病んだりすることが多いらしく、あまりまともなものはいないようだ。
そして溜め込んだ魔力を使いきり、自分の体に最低限必要な魔力まで使ってしまうと……まあ、死ぬ。
……と言っても大抵は使いきる前に頭に激痛が走り、使いきらないように体が勝手にセーブするようだが。
《ちなみにこの世界の魔力はそうだって言うだけの話デー、他の世界の魔力や魔法は違うかもしれないヨー》
そうか。
……まあ、魔法についてはそんなところだ。
ハヴィラックとプロトが魔法を使えるようになってからしばらくして、家の周囲の樹海で起きている獣達の縄張り争いに参加することにした。
このままでは私の住むところもどこかの獣の縄張りに入ってしまうような気がしたからだ。
獣達は大きく分けて七種。
火の属性の赤いもの、水の属性の青いもの、土の属性の灰色のもの、風の属性の緑のもの、闇の属性の黒いもの、光の属性の白いもの、そして純粋な魔力そのものである無属性のもの。
ちなみに見守の神は島の中心を支配する無属性の一番大きなものであったりする。それに合わせて無属性の獣は島の中心に集まっている。
まあ、このまま放っておいても見守の力で手は出されないだろうが、気分が悪い。
と、言うことで六種の獣の中でも強力で大きな領域を持っている六体を………ふむ……………調教して支配下に置き、そのあとはそれぞれ支配領域を決めて放置する。
青は湖の沿岸、赤は中心と外側を除いた部分を五等分した北側、灰色は同じく東側、白は西側、黒が南東、緑が南西でその境界に少しずつ中立の部分が存在するように分けた。
今ではとても平和に弱肉強食の野生的な状態が罷り通っている。
《……それは平和なのかナー?》
平和じゃないか。とても普通で当たり前の状態だよ。
『……そうよねぇ……♪』
ソレはいきなりやって来て、私達の中で一番強いものを叩き伏せた。
私達、白い結晶獣は体に光の力を宿し、高速で移動することによって相手の反応できる速度を越えて行動できるはずなのに、ソレはそんなことは関係無いと私達の中で一番速く、一番強かったものを更なる高速で追い詰め、あっという間に地に這いつくばらせた。
その瞬間から、私達の群れはソレの支配下になった。
ソレはそれまでにも私達の同族を纏めていたようで、ソレについて行くと私達と同じ、白の体を持つ結晶獣が大勢いた。
そこでソレは私をこの大きな群れの頂点として、一ヶ所に纏まった巨大な縄張りを用意してくれた。
ソレは私達にその中から出ないようにと言い、姿を消した。
それ以来、私はこの大きな群れの中で頂点として君臨している。
ただ、他の色の獣達も居るのであまり大きな顔はできないし、私より上にはあの存在がいる。
この島のすべてを掌握しているのに、私達に自由を与えているあの存在が。
…………しかし、なぜだろうか? 私は……いや、私達は、あの存在に出会うと、確かに安心感を覚えるのだ。
白い結晶獣の長、白く長い尾を持つ鳥の姿の‘白尾’の独白。
その御方が現れた時、我々は本能的に悟った。
この御方こそ、我々がお仕えする方だと。
私を初めとするすべての赤い結晶獣は、全く同時にそれを理解し、そしてその御方に頭を垂れた。
その御方は我々を率い、ばらばらになっていた小さな同族の群れを集めて、一つの広大な土地を与えた。
そこには我々の好む赤い樹が多く、我々が宿す炎の力を強くした。
しかし、その力で何をするかと思えば、何もせずに生きることを望む。
あの御方からは、炎以外にも様々な臭いが残っている。
それは我々と相性の良い緑の臭いもあれば、あまり良くはないと言える青の臭いもある。
恐らくあの御方は、我々以外にもこのように広い縄張りと、自由をお与えになっているのだろう。何をお考えになっているかはわからないが、我々はあの御方について行こう。
……この世界が滅び、我々が死に絶えるその時まで。
赤い結晶獣の長、赤く長い牙を持つ‘赤牙’の独白。
《……まあ、こんな感じでフルカネルリはこの島を実質的に支配してるのサー。白い子が安心感を覚えてるのは、体の大半を形作る結晶の殆どがフルカネルリの魔力でできているからだヨー。つまりお母さんみたいに思われているのサー》
『……赤い子はぁ……炎神の加護の効力が強くってぇ……勝手に従属してるのよぉ……♪』
《わかったかナー?》




