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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第5章 光の海と闇の海

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第83話 安心できる場所のかたち

本日から第5章がスタートします!

 宴の余韻が、まだ身体のどこかに残っている。


 けれど目を覚ますと、朝の光はいつも通り静かで。

 波の音も、昨日までと変わらず、穏やかだった。


(ナナミ、今日は潮騒の宴に加入する日ね)


「うん、アストラル。今日は皆でギルドに申請に行って、その後クランホームを見に行くよ」


 ――今日は、海には潜らない予定だ。

 

 クランホームに移住は検討しているが宿の期間は今日までだ。

 

 しかし引越しするとしても当日では無い。

 そのためダイアンさんに事情を話し1泊分の延泊を行い、銀貨2枚を支払った。

 


 ♢

 


 支度を整え、宿を出ると。

 すでに潮騒の宴の皆が、待ち合わせの場所に揃っていた。


「おはよう、ナナミちゃん」


 グレイスさんが、いつもの柔らかな笑顔で手を振る。


「おはようございます……!」


 胸の奥が、少しだけきゅっとする。

 昨日、確かに“言葉にした”決意が、今日になって現実として形を持ち始めている。


「緊張してる?」


 ニーナさんが、そっと覗き込んでくる。


「……はい、ちょっとだけ」


「ふふ、大丈夫だよ」


 そう言って、背中を軽く叩いてくれた。


「今日は潜らないし、書類書いて、見学するだけだから」


「そうそう!」


 ホープさんが、元気よく頷く。


「初日は肩の力抜いてこー!」


 その言葉に、少しだけ息が楽になる。


 ――そうだ。

 今日は、始まりの日。


 私たちは連れ立って、ギルドへと向かった。

 


 ♢

 


 ギルドの建物は、朝から人の出入りが多かった。


 装備を整えたダイヴァー。

 納品袋を抱えた人。

 掲示板の前で依頼を睨みつける者。


 その喧騒の中で。


「いらっしゃいませ」


 カウンターの向こうから、聞き覚えのある声がした。


「……あ」


 受付嬢のミストさんだった。


 私の顔を見て、一瞬だけ目を瞬かせてから――

 すぐに、やわらかく微笑む。


「ナナミさん……潮騒の宴に、入られるんですね」


「……はい」


 そう答えると。


 ミストさんは、少しだけ声のトーンを落とした。


「ナナミさん、良かった……いままでお辛いことも、あったと思います」


 その一言で。

 胸の奥に、過去の影が、かすかに揺れる。


 けれど。


「グレイスさんたち、潮騒の宴なら……安心ですよ」


 まっすぐな視線と柔らかい笑顔で、そう言ってくれた。


 その言葉に。

 私は、深く頭を下げた。


「……心配してくれてありがとう、ミストさん」

 


 ♢

 


 入団申請の手続きは、思ったよりもあっさりしていた。


 書類に名前を書き、所属クランの欄に「潮騒の宴」と記す。


 それだけで。

 胸の奥が、少しだけ、くすぐったい。


「クランに所属するとですね」


 手続きを進めながら、ミストさんが説明してくれる。


「ダイヴァーの皆さんが依頼をこなしたり、納品を行うと

 その実績に応じた“貢献ポイント”が、ギルドに記録されます」


「そのポイントが、毎月集計されて

 クランの総貢献度に応じた支援金が、クランへ支給される仕組みなんです」


「……支援金……」


「はい。使い道は、クランの自由です」


 ちらりと、グレイスさんを見る。


「潮騒の宴さんは、その支援金をクランホームの維持や設備に充てていらっしゃいますね」


「ええ」


 グレイスさんが、穏やかに頷く。


「皆が安心して休める場所は、大切だから」


 その言葉に、胸がじんわり温かくなる。


 

 ♢

 


「ナナミちゃん!こっちこっち!」


 手続きが終わると。

 ニーナさんは、私をクランホームへと案内してくれた。


 ギルドを出て

 閑静な住宅を通り、少し静かな通路を抜けた先に――


「ここが、わたしたち潮騒の宴のクランホームだよ」


 ニーナさんが指し示す向こうには。

 整えられた建物と、そして生活の気配があった。


 扉を開けて中に入る。

 

 中でまず目に入るのは掲示板。

 また壁にはアクア・ヘイヴン周辺の海図があり沢山の印が書いてある。

 

 近くにあるのは簡素だけれど使い込まれた机。

 その机の上には誰かが飲み物を飲んでたのだろうか……カップがちょこんと置いてある。


「もー!ホープったら、またカップ置きっぱなし!」

「おっとゴメンゴメン!」


 ホープさんは舌を出しながら、反省してなさそうに笑っている。


(……ここが……)


 胸の奥が、ふっと緩む。

 


 ――けれど。


 同時に、思い浮かぶのは。


 丸っこい子ブタが波に乗って笑っている看板。

 温かいけれど、静かな宿の一室。

 

 帰ったらいつでも和やかな笑顔を向けてくれるダイアンさん。

 そして無骨だけれど、内面は優しいスコットさん。

 ふわふわ浮かび、泡で遊ぶフロート・カニにいつも夢中になっているフレデリカちゃんとテリィくん。


 深海から生きて帰ったとき食べた、あの料理の美味しさ。

 ダイン達から辛い目にあって泣きそうだった時、励まされた想いがよぎる。


(ナナミはココに住むのかしら?)


 そうだ。アストラルも居る。

 誰にも話していないアストラルの存在、彼らに話すべきだろうか?

 

 私は、そっと息を吸った。


 ――続く


【ナナミのお財布】

金貨39枚

銀貨51枚

銅貨22枚

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