第79話 銀鉱マリモ
調査対象マリモの周囲に、私たちは陣取った。
巨大な球体は、根を張るように鎮座していて、
表面には岩と藻と鉱物が複雑に絡み合っている。
その内部から、確かに感じる。
――鉱脈の気配。
「よし」
グレイスさんが、周囲を見渡す。
「私は索敵を続ける。三人は採掘を」
「了解!」
ホープが元気よく返事をして、
ニーナさんと私も、それぞれ工具を構える。
(……銀鉱石……)
意識を集中し、鉱物の流れを探る。
ほどなくして。
「……あ、あった……」
銀色に鈍く光る鉱石。
――銀鉱石。
思ったよりも、浅い部分に点在している。
「見つかったよ!」
ニーナさんの声。
「こっちにもある!」
ホープも続く。
作業は、順調──
……の、はずだった。
* * *
「……来る!」
グレイスさんの声が、鋭く響く。
次の瞬間、岩陰から影が飛び出した。
「オーガ・カサゴ!」
「数は少ない、対処する!」
採掘を中断し、迎撃。
すぐに片付ける。
……だが。
間を置かず、別方向から。
「シェード・フィッシュ!」
また、戦闘。
採掘再開。
……数分後。
「サージ・オッター、中型!」
再び、中断。
――そんな繰り返し。
(……多い……)
海魔の数も、
現れる頻度も。
明らかに、落ち着いて作業できる環境じゃない。
銀鉱石は、確実に増えていく。
でも、集中が続かない。
「……これは……」
ふと、思う。
「……一人だと、来れないね……」
(来ること自体は、出来なくはないと思うけれど……)
アストラルの声が、静かに返す。
(さすがにこの深さだと海魔の出現が多いわ。一人では危険だし、オススメしないわね)
「……ですよね……」
納得しかない。
索敵、迎撃、採掘。
全部を一人でやるのは、
流石に無理がある。
* * *
それでも。
「……魔力は……」
内側を確認する。
思ったよりも、余裕がある。
「……減ってはいるけど……大丈夫……」
(ミラージュ・コアと、これまでの訓練の効果ね)
アストラルが、はっきり言った。
(間違いなく、努力の成果よ)
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
「……えへへ……」
嬉しさを噛みしめながら、
私は、再び採掘に戻った。
* * *
その後も、断続的な戦闘は続いたけれど。
時間をかけて、
銀鉱石は一行のカバンを満たした。
十分すぎる成果。
……ただ。
「……白銀鉱……」
どこにも、見当たらなかった。
マリモの表層。
少し深い層。
それでも。
“白銀”の輝きは、現れない。
「……今日は、ここまでかな」
グレイスさんが、そう告げる。
「これ以上は、深度と滞在時間が危険」
「……はい……」
分かっている。
分かっているけど。
* * *
帰路につく。
ゆっくりと、上昇。
……なのに。
私は、何度も。
何度も。
振り返ってしまう。
調査対象マリモ。
静かに、そこに在り続ける巨大な球体。
(……次は……)
(……必ず……)
胸の奥で、
小さな決意が芽生える。
この場所は、
一人で来る場所じゃない。
でも──
いつか、必ず。
白銀鉱を、見つけるために。
アクア・ヘイヴンへ向かう水路の中で、
私は、名残惜しそうに最後の一瞥を送った。
──続く。




