第73話 丁寧な仕事のその先で
ギルドの受付前。
ナナミは、少し緊張しながらカウンターに立っていた。
採取カバンの中身は、ずっしりと重い。
今日一日の成果が、そこに詰まっている。
「では……順番に確認しますね」
ミストはそう言って、まず網に包まれた素材へと手を伸ばした。
「これは……シェード・フィッシュですね。三体分」
刃物で手早く状態を確認しながら、頷く。
「ヒレと身は食材として使えます。鮮度も悪くありません」
次に、少し大きめの死骸。
「こちらは……オーガ・カサゴ」
ミストの指先が、慎重に毒腺の位置をなぞる。
「素晴らしい……毒のある部位、きちんと分けてありますね
危険な部位も実は錬金素材や、中和剤としても使えます」
「……よかった……」
ナナミは、ほっと息を吐いた。
ちなみに毒の仕分けはアストラルの入れ知恵だ。
「これらの買取ですが……」
ミストは計算板を叩きながら告げる。
「一体につき、銅貨五枚」
「合計で……銅貨二十枚ですね」
「……うん」
大金ではない。
それでも、無駄にならなかったことが嬉しい。
続いて、海晶核。
「光海帯ランクDが……三つ」
「こちらは……銀貨七枚と、銅貨五枚」
コトリ、と硬貨が置かれる。
さらに──
「光海帯ランクCが……一つですね」
「こちらは、銀貨三枚です」
ナナミは、思わず目を瞬かせた。
「……こんなに……?」
「いつも通りの妥当な査定ですよ」
ミストは穏やかに微笑む。
「そして……」
最後に取り出されたのは、
丁寧に包まれたサージ・オッターの素材と、マリモ産の貴金属だった。
ミストは、一つ一つを慎重に確認する。
「……綺麗ですね」
「え……?」
「不純物が、ほとんど取り除かれています。付着物もなく、損傷も最小限……」
ミストは、少し感心したように続けた。
「正直に言うと……この場所、もう取り尽くされたと思っていました」
「……」
「それなのに……こんなに、まだ残っていたなんて」
ナナミは、少しだけ視線を逸らす。
「……運良く……見つけられて……」
それ以上は、言えなかった。
アストラルの存在を、説明するわけにはいかない。
「そうですか、でも良かったです」
ミストは、深くは追及しなかった。
計算板を叩き、少し考えてから、顔を上げる。
「本来の報酬は、金貨一枚でしたが……今回の納品物は、非常に優秀です」
硬貨が、追加で置かれる。
「……金貨二枚、上乗せします」
「……えっ!?」
思わず声が出た。
「こ、こんなに……!」
ミストは、はっきりと言った。
「丁寧作業だったのでしょう。状態と質が良いです。これだけ出しても、ギルドとしてはまったく黒字で……ナナミさんの手腕のおかげですよ」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
「……ありがとうございます……!」
最終的な報酬。
金貨三枚。
銀貨十枚。
銅貨二十五枚。
ナナミは、硬貨の重みを確かめるように受け取った。
(……ちゃんと、評価された)
その事実が、何より嬉しかった。
「では……お疲れさまでした」
「ナナミさん気をつけて」
「はい……!ありがとうございました!」
ナナミは深く頭を下げ、ギルドを後にした。
* * *
夕暮れ前の通りを歩き、
ナナミは〈グリーンリーフ堂〉の扉を押す。
チリン、と鈴が鳴った。
「あら、いらっしゃい」
すぐに、フィアスの柔らかな声。
「待ってたわよ、可愛い子。朝に約束してた装備のお預かりね?」
「……お願いします……」
潜海スーツとアームガードを、丁寧に差し出す。
「うん、問題ないわ……明朝には仕上げておくわ」
「……ありがとうございます……!」
装備を預け、身軽になったナナミは、一礼して店を出た。
「また明日ね」
その言葉に、小さく手を振り返す。
夕暮れの街を歩きながら、ナナミは胸元の袋をそっと押さえた。
(……今日も、頑張った)
静かな達成感が、心を満たしていく。
明日もまた、海へ。
その一歩を支える確かな手応えを胸に──
ナナミは、宿への道を進んだ。
──続く。
【ナナミのお財布】
金貨30枚
銀貨53枚
銅貨22枚




