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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第4章 居場所

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第72話 帰路の深度、拾われるもの

 採掘が終わったマリモの群生地を後にして、ナナミはゆっくりと浮上を始めた。


 深度は、130。

 少しずつ、110へ。


 急がず、焦らず。

 一定の速度で、魔力を循環させながら進む。


(吸って……巡らせて……吐く)


 身体の内側を流れる魔力は、乱れがない。

 深度が浅くなるにつれ、水圧も穏やかになっていく。


(いいわね。このまま帰りましょう)


 アストラルの声は、いつも通り落ち着いていた。


「……うん」


 ナナミは小さく頷きながら、前を見据える。


 その時──


(……来る)


 アストラルの声が、僅かに低くなった。


 同時に、ナナミも感じ取る。

 水の流れに混じる、異質な気配。


「……海魔……?」


 視界の端が、ゆらりと歪む。


 影が、三つ。

 そして──一つ、ひときわ大きな影。


(シェード・フィッシュが三体)

(それから……オーガ・カサゴが一体ね)


 深度は、およそ110。


 帰路での遭遇。

 だが、ナナミの心に焦りはなかった。


「……やるしか、ないよね」


(ええ。落ち着いて)


 ナナミは、深く息を吸う。


 魔力を巡らせ、身体の感覚を研ぎ澄ませる。


 最初に動いたのは、シェード・フィッシュだった。

 影のように揺らめきながら、三方向から迫ってくる。


「……!」


 ナナミは身体を捻り、一本をかわす。

 そのまま反転し、ブルーランスで突く。


 水を裂く感触。

 シェード・フィッシュの身体を貫いた。


(左、来るわ!)


 アストラルの声に従い、身を沈める。

 すれ違いざまに、もう一体を叩き伏せる。


 だが──


 海底側から、重い圧が迫った。


「……っ!」


 オーガ・カサゴ。

 岩のような体躯が、口を大きく開く。


 ナナミは一歩引き、魔力を集中させる。


(今よ)


「……はっ!」


 魔力を込めた一撃が、顎の下を正確に捉えた。

 鈍い衝撃とともに、巨体が大きく揺れる。


 残る一体のシェード・フィッシュが、背後から迫る。


 ナナミは振り返りざまに、迷いなく槍を振った。


 ──静寂。


 水中に、微かな残滓だけが漂う。


「……終わった……」


(お疲れさま。よく対応できたわ)


 胸の鼓動を整えながら、ナナミは周囲を確認する。


 漂う、淡い光。


「……海晶核……!」


 シェード・フィッシュと、オーガ・カサゴ。

 それぞれから、海晶核を回収する。


 そして──


 沈んでいく、海魔の死骸。


「……これって……」


 ナナミは、少し首を傾げた。


「今まで持って帰ってないけど……何かに使える、かなあ……?」


(うーん……)


 アストラルが、少し考える。


(とりあえず、持ち帰って聞いてみたらどう?)


「……そっか」


 採取カバンから、網と紐を取り出す。

 死骸を丁寧に包み、しっかりと固定する。


「……少し重たいけど……大丈夫」


(ナナミ、無理はしないでね)


「うん」


 ナナミは再び、帰路についた。


* * *


 やがて、水面の向こうに光が差す。


 アクア・ヘイヴン。


 港の輪郭が、はっきりと見えてきた。


「……帰ってきた……」


 浮上し、大きく息を吸う。

 潮の匂いと、街のざわめきが胸に広がる。


 そのまま、ナナミは〈ダイヴァーズギルド〉へ向かった。


* * *


 ギルドの扉を開けると、

 聞き慣れた喧騒と、木の床の音。


「……あ」


 受付に立つ、ミストの姿が目に入る。


 ナナミは、少しだけ背筋を伸ばした。


「ミストさん……依頼、完了しました」


 ミストは顔を上げ、微笑む。


「おかえりなさい、ナナミさん。トラブルありませんでしたか?」


 その声は、いつも通り優しかった。


 ナナミは、採取した素材と海晶核、

 そして網に包んだ海魔の死骸を差し出す。


「大丈夫だよ……!あの……これも……」


 ミストの視線が、少しだけ驚いたように動く。


「確認しますね」


 そう言って、丁寧に受け取った。


 ナナミは、ほっと息を吐く。


(……ちゃんと、帰ってこれた)


 その実感が、胸に静かに広がっていく。


 今日もまた、一歩。


 確かに──前へ。


──続く。

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