第68話 精算とお祝い
カウンターに荷物を広げると、
ブレイカー副長は一つ一つ、手慣れた動きで確認していった。
「まずは鉱石だな」
採取カバンから出された鉱石は、
淡く銀を帯び、ずっしりとした存在感がある。
「……ずいぶん採ってきたな」
「助かる。最近この辺、需要が高くてな」
ナナミは、少しだけ胸を張った。
「鉱石の依頼報酬は──」
「金貨2枚、銀貨5枚だ」
カウンターに、硬貨が置かれる。
ちゃり、と心地よい音。
「わあ……!ありがとうございます……」
「次は海晶核だ」
ブレイカーは、光を帯びた核を手に取る。
「光海帯ランクDが、10個」
「1つ、銀貨2枚と銅貨5枚──」
素早く計算して、頷く。
「合わせて、金貨2枚と銀貨5枚だな」
「……はい……」
そして、少し色の濃い核を示す。
「サージ・オッターか。光海帯ランクBが、1つ」
「これは……銀貨4枚だ」
並べられていく硬貨。
ナナミの視線は、自然とそこに吸い寄せられる。
最も色が濃い核をブレイカーは持つ。
「スケイル・フィッシュのだな。光海帯ランクAが1つ」
「これは……銀貨6枚だ」
最後に、ブレイカーは網の方を見た。
「で──スケイル・フィッシュだが」
「死骸ごと、ギルドで買取できる」
「それでいいか?」
「……あ、あの……」
ナナミは、少しだけ緊張しながら言った。
「その……防具の補強に使いたくて……」
「鱗を、いくつか……分けてもらうことは……できますか……?」
ブレイカーは一瞬、ナナミを見て──
すぐに、豪快に笑った。
「ははっ、いい判断だ。当然できるぞ!」
「解体と手数料は貰うがな」
網に包まれた巨体を見ながら、顎に手を当てる。
「……そうだな」
「この大きさなら鱗は半分くらいあれば、十分だろう」
「……半分……!」
「残りの鱗、骨、肉はギルド買取でいいか?」
「……はい……!」
「お願いします……!」
「よし、決まりだ」
「スケイル・フィッシュの素材と買取金額は、明日以降の支払いになる」
「それ以外は、今日中に渡そう」
そう言って、副長は硬貨をまとめた。
「今回の即日分──」
「合計、金貨4枚と銀貨20枚だ」
ずしり、と重みのある袋。
ナナミは、思わず息を呑んだ。
「……それからだ、ナナミ」
ブレイカーは、にやりと笑う。
「初のブロンズ級依頼で、深度165クリア」
「もう立派な、一人前のダイヴァーだな」
「……っ」
「よく頑張った」
その一言が、胸に深く染みた。
「……はい……!」
「ありがとうございます……!」
思わず、声が弾む。
(やったわね、ナナミ)
アストラルの声も、どこか誇らしげだった。
* * *
夜。
海辺の子ブタ亭に戻ると、
扉の向こうから、温かな匂いが流れてくる。
「ナナミちゃん、夕食できてるよ」
女主人ダイアンの明るい声。
店内では、
スコットが無言でテーブルに皿を並べていた。
焼きたてのパン。
表面は香ばしく、割れば湯気が立つ。
瑞々しい海藻サラダ。
潮の香りと、爽やかな酸味。
皮目がこんがり焼かれた魚。
脂がじゅっと光っている。
そして──
野菜がたっぷり入った、温かいスープ。
根菜の甘さが、湯気と一緒に立ち上る。
「……わぁ……」
自然と、顔が緩む。
ナナミは、一口一口を大事に食べた。
パンはふんわり。
魚は香ばしく、身がほろりと崩れる。
スープは、体の奥まで染み渡る。
「……スコットさんの料理、今日もとてもおいしい……」
(ふふ、今日は特別おいしく感じるわね)
アストラルが、やさしく言う。
食べ終わり、ほっと息をついた──その時。
スコットが、もう一皿を持ってきた。
白い皿の上には、
ナナミの大好きなケーキ。
「……え……?」
スコットは短く言う。
「ブロンズ級、なったんだな」
「おめでとう」
「祝いだ。食べろ」
それだけ言って、厨房へ戻っていった。
「……っ」
胸が、きゅっとなる。
「……ありがとうございます……!」
ケーキは甘くて、
どこか懐かしい味がした。
(良かったわね、ナナミ)
アストラルの声は、心から穏やかだった。
(頑張った分、ちゃんと返ってきてる)
ナナミは、小さく頷いた。
今日一日を思い返しながら──
ゆっくりと、幸せを噛みしめる。
この街で、
この場所で、
ダイヴァーとして生きていける。
そう、はっきり感じられる夜だった。
──続く。
【ナナミのお財布】
金貨28枚
銀貨43枚




