第63話 蒼の槍、その応え
サージ・オッターが、水を爆ぜさせた。
太い尾で一気に水を蹴り、
弾丸のような速度でナナミへ突進してくる。
「──来る!」
(今よ、ナナミ)
アストラルの声と同時に、
ナナミは半歩、身体を捻った。
真正面ではない。
左へ、わずかに角度をつける。
ドンッ!!
鈍い衝撃が、左腕に走った。
「……っ!」
だが、弾かれない。
アームガードに当たった衝撃は、
水と一緒に“流されて”いく。
(そう、そのまま)
ナナミは、衝撃の流れに逆らわず、
身体を回転させた。
次の瞬間──
「──はっ!」
ブルーランスが、閃いた。
回転の勢いを乗せた突きが、
サージ・オッターの脇腹へ一直線に突き込まれる。
ズッ……!
硬い感触が一瞬手を伝う。
だが、その後は滑るかのような手応えだった。
蒼い槍身を伝って、海魔の身を切る。
ズンッ!!
「ギャォォッ──!!」
衝撃が、内部まで届いたのが分かった。
サージ・オッターの巨体が、
そのまま力なく回転し──沈む。
「……え……?」
ナナミは、目を見開いた。
以前、同じ相手と戦った時は、
何度も突き、間合いを取り、ようやく倒した相手。
それが──
「……一撃……?」
沈んでいくサージ・オッターを見つめ、
思わず声が漏れる。
「すごい……こんなに、違う……!」
(驚いている暇はないわよ、ナナミ)
アストラルの声が、鋭くなる。
(次が来るわ)
「……っ!」
同時に、視界の両端が揺れた。
シェード・フィッシュ。
二匹が、交差するように動く。
挟み撃ち。
(落ち着いて)
(小型は、動きが直線的よ)
ナナミは、深く息を吸う。
魔力を、脚へ。
一瞬で距離を詰める。
「──っ!」
最初の一匹。
すれ違いざま、
ブルーランスを横に払う。
シャッ──!
水と影が裂け、
一匹目は抵抗する間もなく撃破した。
残る一匹が、背後へ回り込む。
だが──
「……そこ!」
振り向きざま、
今度は突き。
蒼い軌跡が走り、
二匹目も、静かに動きを止めた。
周囲に、再び静寂が戻る。
「……はぁ……」
ナナミは、ゆっくりと息を吐いた。
手の中のブルーランスを見る。
(……武器を、補強して良かった)
そして、思い浮かぶ顔。
グリーンリーフ堂。
自信に満ちた微笑み。
「……ありがとうございます、フィアスさん」
胸の奥に、温かいものが広がった。
(行きましょう)
アストラルが、先を促す。
「……うん」
ナナミは戦利品の海晶核を回収し、さらに深く潜る。
* * *
深度計が、間もなく165を指す。
藍色の世界の奥で──
それは、現れた。
「……わぁ……」
思わず、声を失う。
鉱脈マリモ群生帯。
十個ほどの巨大なマリモが、
連なるように並び、
内部から淡く光を放っている。
鉱石の筋が、
星脈のように走り、
藍の海に静かな輝きを添えていた。
まるで、海の中の宝石庭園。
「……綺麗……」
一瞬、いつでも戦場になる状況を忘れるほどの美しさ。
ナナミは、しばらく見惚れていた。
──その時。
背筋を、冷たいものが撫でた。
「……っ」
(……来たわね)
アストラルの囁き。
マリモの影が、ゆっくりと歪む。
岩が、動いたように見えた。
次の瞬間──
鉱石を喰らい岩のような鱗を持つ巨大な魚影が、
藍の闇から姿を現した。
スケイル・フィッシュ。
その眼が、
獲物を捉え、鈍く光る。
ナナミは、槍を構えた。
ここからが──
本当の依頼だ。
──続く。




