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戦い済んで夜が明けて その3

 マッコイ爺さんと話をしている最中も、引っ切り無しに伝言や相談をしに来る村人が絶えません。

 皆、忙しそうに働いている中、お茶をしてるのが申し訳なくて、あたしも早々に席を立とうとします。


 「いや、まだ話は終わっとらんぞ」


 引き止められました。


 「なら、そちらの用事を先にして下さい、あたしは待てますから」


 そう言って、村人とマッコイ爺さんのやり取りを横で聞いています。


 

 「マッコイさん、小麦の備蓄が心もとないんだけど」


 「それなら、キャラバンの荷が無事なら問題ないはずだ。到着まで待て」


 「マッコイ、建材が圧倒的に足らん」


 「だいぶ焼けたからな。樵に言って切り出してもらえ。必要な分量をざっとでいいから教えてくれ」


 「マッコイ会長、倉庫の片付けが終わりません」


 「損害だけでも書き出しておけ。何が足りないか判らんのでは冬は越せんぞ」


 次々と訪れる村人を、躊躇なく捌いていく能力は、さすがと言わざるをおえません。



 しばらくして、やっと人の流れが途切れました。

 ちなみにその間に、あたしはお茶のお替りを2杯と、夕ご飯まで済ませています。


 「さて、やっと話の続きができるな」


 「続きがあったんですか?あたしはあれで済んだ話かと」


 「お前の報酬は済んだが、師匠殿にも何か必要だと思っているのだが?」


 律儀ですね。師匠は等価交換しただけで、そのお返しに再度、報酬はいらないって言うと思いますけどね。


 「たぶん、師匠は受け取らないですよ?」


 「そうか…しかし、あの大量の聖水があってこその村の防衛成功だからな」


 うーん、スキル上げで頑張りすぎた結果だって言ったら、まずいかな。

 あたしでも300はびっくりしたからね。

 というか聖水ってあんなに量産できるものだったんだね。


 それならどの教会でも在庫を抱えておけば、いざってときに安心だと思うんだけど…

 まあヒールポーションよりも劣化のスピードが速いみたいだから、作り置きが出来ないのかな。


 「そしたら、あの錬金ローブは喜んでましたから、服が良いかもです」


 「ああ、それは良いな。2着ぐらい仕立てて贈らせてもらおう」


 「ですです」


 教授も変な葉っぱを身に纏うよりは、数倍ましでしょう。



 「で、最後に村からの依頼の話だ」


 きたきた、厄介事の臭いがするね。


 「知っての通り、明日の昼頃には領都からのキャラバンがこの村に着く予定だ」


 「え?まだ着いてないんですか?」


 てっきりとっくに到着していると思ってました。


 「送り出した偵察隊が全滅したんだ。移動しないで続報を待っていたらしい」


 ああ、まあ確かに、突っ込んで二次被害がでるよりは良かったですね。


 「この村で2泊し、万霊祭の夜をやり過ごしてから、領都に戻るわけだが、護衛の手が足りん」


 「いつもはどうしてたんですか?」


 「こちらから自警団の迎えを送って、ここまで護送し、戻りは別の自警団員が警護につく。これで自警団の全員が領都で羽をのばせる」


 よく考えられてます。

 キャラバンの警護という名目で、自警団員の福利厚生までできるとは。


 「だが、現状では村の守りが手薄に成り過ぎるんでな。自警団の人員を割く事が出来ない」


 「そこであたしですか?」


 「ああそうだ。領都に戻るキャラバンの護衛を頼みたい」


 「なら、あたしが村に残りましょうか?その方が、皆さんも休暇が取れて嬉しいでしょうから」


 「それも考えたのだが、一つ問題があってだな…」


 「問題というと?」


 「領都に行った若い奴が戻ってこない可能性がある」


 「なるほどー」


 今回の襲撃は、本格的な戦闘を体験していなかった若手の団員にはすごく衝撃を与えたみたいです。

 特に、間近でゾンビを見たり、襲われたり、反撃して腐肉の返り血を浴びた為に、心を病んだ方もいたらしいです。

 そんな精神状態で、華やかな領都に行って、酒や綺麗どころに溺れて、村に戻らない人が出ても不思議ではありません。


 隔離するようで申し訳ないですが、しばらく村から出さない方が良いでしょうね。


 「しかし、あたし一人が増援でキャラバンのリーダーは納得してくれますかね?」


 「そこは問題ない。うちのキャラバンだからな」


 ああ、マッコイ商会のキャラバンなら、マッコイ爺さんがどんな無体な事を言っても、肯くしかないですね。

 だってマッコイ爺さんだから。


 「お前さんは自己評価がえらく低いが、エルフで光魔法の使い手ってだけで、兵士6人よりは喜ばれると思うぞ」


 「そんなものですかね?」


 やはり、なんちゃってウッドエルフだと、そこら辺の機微に疎くなりがちです。

 なので、あまり都会には行きたくないんですけど…


 「気乗りしないようだが、モルガンも何か頼みたい事がある風だったぞ」


 「あ、そうでした。行きます、行きます、領都でも王都でも」


 きっとエルザさんの消息の事だよね。

 詳しい話を後で聞いておかないと。



 そうしてマッコイ爺さんの思惑通りに、あたしは領都へ護衛として旅立つことになった。

 モルガンさんからは、エルザさんが身請けされた貴族の住所が書かれたメモと、エルザさん宛の手紙を渡されました。


 「ワシが行ければ良かったんじゃが、今、この村を離れるわけにはいかないのでな。すまんが頼む」


 「任せて下さい、必ず渡してきます」


 「いや、無理矢理はいかんぞ。へたに貴族を怒らすと不敬罪で奴隷商送りになるからな。特に領都は変態貴族も多いから、エルフなんざ奴らの格好のおもちゃだ」


 「なにそれ怖い」


 「まずは領都のマッコイ商会を頼って、情報収集から頼む。穏当な貴族だったら、執事にでも頼めばエルザに届くはずじゃ」


 「で、変態だったらどうします?」


 「握りつぶす」


 「何をですか!?」


 怖すぎて、それ以上聞けませんでした。

 真っ当な貴族さんであることを祈りましょう。



 翌日には、予定通りにキャラバンが到着しました。

 村人は大歓迎をしていますが、キャラバンの隊商とその護衛の人達は暗く沈んでいます。


 同行していた自警団の半数が死亡ですからね。

 しかも万霊祭も近くなって、闇夜の中で野営を強いられたのが、精神的な負担になっていたようです。

 村が、被害を受けつつも、住人が元気だったことで、少しずつ、顔色が回復していきました。



 その晩は、宴会です。

 元から万霊祭の前日には、祝祭が開かれるそうなのですが、それを前倒しした感じです。

 このまま翌日の夜まで、飲んで騒ぐつもりのようです。


 「まあ、なんだかんだで皆、飲んで忘れたいのさね」


 アズサさんが、料理を配りながら話かけてくれました。


 「大勢亡くなりましたからね…」


 あたしは知らない人ばかりだったけど、それでも熊に最初に飛び掛かった兵士さんは、覚えています。


 「こうやって騒ぐのも、立派な供養ってわけさ」


 辺境の流儀ってやつですかね。


 「がう」


 「はいはい、聖獣様も召し上がりますかね?」


 「がうがう」


 ヌコ様も、スパイスの効いた鳥のもも肉焼きを、お替りしています。

 マッコイ爺さんが香辛料を奮発してくれたので、そのお味にはヌコ様も大満足なご様子です。


 「ヌコ様も領都に行きますか?」


 「ぐるる」


 「ですか。やっぱり人込みは、お嫌いで?」


 「がう」


 ヌコ様も同行してもらえると心強かったのですけど、人の多い場所は嫌いだそうです。

 仕方ないので、教授に手紙を届けてもらうことにしました。

 領都へ行って戻ってくるには4週間ぐらいかかるそうですから。


 二日に渡ったお祭りが終わると、万霊祭の日になりました。

 この日は、家々の扉の上に魔よけの護符を張って、夜に備えます。


 お昼には教会に集まって、シスターマリアの、凄い短い訓話を聞いた後に、配られた聖水を家に持ち帰って、窓や煙突の周囲に撒くのです。


 「あの、配られる聖水が胡桃入りなんですけど?」


 「余ったから有効活用してんだよ。効果のほどはバッチリ試してあっからさ。安心しろって」


 マリアは、相変わらずです。



 夜は早めに各家に籠り、精霊の悪戯を受けない様に祈りながら過ごします。


 あたしも翡翠亭で、アズサさんとマーヤちゃんと一緒に寝ました。

 

 キャラバンの隊商さんに部屋を明け渡したからなんですけどね。




 その夜、教授の夢を見ました。


 『見たまえ、レオン君!これが深淵の叡智だよ!』



 何がどうしたの???




確定申告の時期になりましたので、一か月ほど更新はお休みさせていただきます。

皆様も、良い年度末でありますように。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんか面白い話無いかと探して見つけました。 続き期待してます。
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