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7Days to the Dead 23th

 マッコイ商会の倉庫から出て、アズサが追って行ったのは、一人の獣人だった。

 黒いフードで顔を隠しているが、その足取りから兵士や村人でないことが判る。

 いわゆる、後ろ暗い商売をしている者特有の足運びだった。


 それは、ひっそりと、でも足早に移動すると、開拓村の防壁に近づいていった。

 そこには、侵入に使ったと思われる、鉤爪のロープが転がっている。


 「なるほど、そうやって村に入り込んだのかい」


 アズサに後ろから声を掛けられて、その獣人は足を止めた。

 驚いていないのは、つけられているのを薄々感づいていたからのようだ。


 獣人は無言でアズサを振り向くと、聞き取れないほどの小さな声で呟いた。


 「オヒトリ デスカイ?」


 「ああ、そうだよ。団体で後を追ったら、本気で逃げ出すだろ?あたし一人なら誘い込むだろうと思ってね」


 どうやらアズサは、獣人がわざと後を追わせている事に気づいていて、なお一人で追跡したようだった。


 「ミノガシテ クダサイヨ」


 「できるわけないだろう?大体、逃げる気も無いようだしね!」


 会話の最中に、いきなり切りかかってきた獣人の短剣をアズサは冷静に自分の包丁で受け止めた。


 「チョウリニン?」


 獣人の素早い連撃を、アズサは的確に捌いていく。


 「みたいなもんさ。あんたの様な奴を料理するのが得意なね」


 そう言って、反撃した包丁の切っ先が、獣人のローブを切り裂いた。

 中から、血走った赤い目をした鼠の顔が現れた。


 「コイツ ツエエナ」


 「やっと本性を現したね」


 「ウルセー シネー」


 追っ手を油断させて奇襲をかけるつもりだったワイトローグだが、下っ端を装う芝居を続ける余裕がなくなっていた。

 一人だけなら、脱出のついでに殺していこうと、わざと後を追わせたのだが、その一人が予想より遥かに強かったからだ。

 

 本来なら片手は短剣で、もう片方は爪で攻撃するのが彼の戦闘スタイルである。

 しかしアズサの白銀色に輝く包丁はヤバそうに見える。

 迂闊に爪で切りかかって、包丁の刃で受け止められると、スッパリいきそうで怖いのだ。


 銀製か魔法の付与がかかっていなければ、ワイトは切れない。

 そのはずなのだが、あの包丁はヤバイ気配がビンビンにする。

 仕方なく、もう1本の短剣を引き抜いて、二刀流にした。


 もしこの時、アズサの包丁が、ミスリル製だと気づいていたなら、ワイトローグは全力で逃げ出していただろう。

 銀よりもさらに破邪の力を秘めた貴重な材質を、包丁にするような輩は、強者に決まっているからだ。


 するとアズサも背中から牛刀を取り出し、二刀流に変えた。

 恐るべきことに、これも白銀色に輝いている。


 片手に牛刀、片手に包丁。これで中華鍋でもあれば立派な料理人である。

 しかもその二刀をワイトローグ以上に華麗に振り回す。


 「ほらほら、ちんたらしてると三枚に下ろすよ」


 「テメエ シロウト ジャ ネエナ!」


 その堂に入った戦闘技術に、ワイトローグが叫びだした。

 素人ではないどころか、無数の修羅場をくぐってきた達人の域に達している。


 二人の剣戟が徐々に速度をあげて、火花を散らす。

 力量は拮抗していた。

 

 この場合、褒めるべきは宿屋の女将でありながら、ワイトと渡り合えるアズサなのか。

 それとも、アズサに真っ向勝負で張り合えるローグの力量なのか。



 勝敗を決したのは、武器の性能であった。


 チィチィイーーーン 


 甲高い金属音が二つ重なって、二人以外に人気の無い路地裏に響き渡った。


 ワイト・ローグの両方の短剣が、根元から切れていたのだ。


 「バ バカナ」


 折れたのではない。切り飛ばされたのだ。

 最近は手入れを怠っているので、薄っすらサビが浮き出ているが、元は鋼鉄製の自慢の業物だ。

 欠けたり曲がったりならともかく、根元から切り飛ばされる事など有り得なかった。


 その動揺にアズサが畳み掛ける。


 追撃はワイトローグの両手首を切り飛ばし、さらに 滑り込むように間合いをつめるとローグの喉をかき切った。


 「ゲ ゲハッ」


 ワイトローグは、その首を半ば切り落とされる形で大地に崩れ落ちた。


 アズサは包丁と牛刀についた穢れを、振り払って鞘に収める。


 「また汚いものを斬っちまったさね」


 


 マッコイは一連の騒動が始まってから、跳ね橋の上の櫓から一歩も動かなかった。

 ダークゾーンで視界が奪われた事もあるが、真の理由としては、ここが本命と思っていたからだ。


 倉庫の方から悲鳴があがっても、教会の方で戦闘の音がしても、頑としてこの場を離れなかった。

 

 そしてダークゾーンが晴れたとき、その考えは半分外れて、半分当たっていたことに気づいた。


 「今度は『ボーン・ウォール(骨の壁)』ときたか…」


 篝火が再点火されて、櫓の周囲にも明かりが戻ってくると、防壁の向こうに、もう一つ壁がそそり立っているのが見えた。

 禍々しい白骨を組み上げた壁だ。

 マッコイにはそれが、死霊魔法が生み出す、やっかいな壁であることが判った。

 つまりは死霊術師は、この壁の向こう側に居るということである。


 それが堀の向こうを塞いでいた。

 村の全周ではないが、跳ね橋を使って外にでることは不可能に思える。


 村が逆に封鎖されたのであった。


 「こちら側が本命だと思ったんだがな」


 どうやら裏の裏をかかれたらしい。

 首領のネクロマンサーはこちら側にいるにしてもだ。


 幹部に強行突破させて、自分は押さえに回る。

 突入が失敗したなら、部下は見捨てて撤退する。

 いっそ清々しいほどの策士ぶりであった。


 「ここで仕留めておきたかったがな」


 跳ね橋を封鎖されたら、追撃部隊を送り出すこともできない。

 なによりもう一度、ダークゾーンを張られたら、こちらは消すことができない。


 マッコイは自力でネクロマンサーを倒す事はあきらめて、正面に集めていた戦力を、村の中へと送り込んだ。

 もうその時点では、大方の決着は着いていたのだけれども…



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