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7Days to the Dead 21th

 マリアの怒号とともに教会での戦いが始まった。


 ウォーリアーの闘気に促されるように、2頭のゾンビ・ウルフがベンチの背もたれを足場にして、マリア目指して飛び掛る。

 

 しかし、背もたれに最初の一歩を乗せたとき、ゾンビ・ウルフの足が溶けた。


 「「ギャイン」」


 堪らず3段目のベンチに倒れ込んだゾンビ・ウルフ達は、断末魔の叫びを上げながら動かなくなってしまった。


 「どうだい、効くだろ。毎日毎日、あの鬼神父に、聖水で拭き掃除をさせられた、礼拝堂のベンチの味は」


 マリアは聖水の作成の訓練のついでに、出来上がったもので、雑巾掛けを日課にさせられていた。

 それは神父が居なくなった今も、続いていたのである。


 その結果、木製のベンチは少しずつ聖水を含んでツヤツヤになっていった。

 ゾンビが乗ったら、体が溶け出すぐらいに。


 「チィ マワリ コメ」


 ウォーリアーは、正面突破を諦めて、両側の通路へと2頭ずつ配下を送り込む。

 挟撃するつもりだ。


 「ははっ、そうするしかないよな!」


 マリアはそう叫ぶと、右側の2頭へと自ら走り寄って行き、その錫杖を叩き付けた。


 前を走っていた一頭は、頭蓋を直撃されて、一撃で散った。

 その隙に後ろの一頭がマリアに飛び掛る…と思われたが、再び悲鳴をあげて後方に飛び下がった。


 「おっと悪いな、この杖の先には散布器が付いてるんだぜ。聖水のな」


 『ホーリーウォータースプリンクラー』

 聖職者がたまに武器として使う、特殊な法具である。


 杖の先に、全周に散布用の穴の開いた金属製の容器が付随していて、その中に入れた聖水や香油が、攻撃の度に撒き散らされる作りになっている。

 マリアはそれを鈍器の様に扱っていた。


 予想外の攻撃に怯んだゾンビウルフを、マリアは壁際に追い詰めて止めを刺す。


 「おら!往生しな!」


 脳天をかち割られたゾンビウルフは、残った体だけがその場に倒れ伏したのであった。



 「イマダ、ヤレ!」


 左側から回り込んだ2頭は、片方がベンチを飛び越えて上から、もう片方が通路を回りこんで下から攻撃を仕掛けた。

 壁際で止めを刺していたマリアには反応しきれない同時攻撃である。

 しかもマリアの武器は長い錫杖だ。

 狭い通路で二方向から攻撃されれば、防ぎようがない。

 どちらかでも噛み付ければ、あとは押し倒して喉笛に噛み付くだけだ。


 「そうは問屋が卸さねえんだよ!」


 マリアの持っていた錫杖が3つに折れた。


 その両端を片手ずつ棍棒のように振り下ろし、2頭の同時攻撃を迎撃する。

 通路から襲った片方は、後ろに推し戻されただけですんだが、跳び越えて襲ったもう片方は、当然ながらベンチの中に叩き落された。


 「ギャイン!」


 背もたれに腹を打ち付けたゾンビウルフは、そのままずるずると力を失って動かなくなった。


 『三節根』

 中空の棒の中に、頑丈な鎖を通して、3本を繋ぎとめた変形武器である。

 1本の棒としても、2本の棍棒としても使え、さらに先端をフレイルのように振り回すこともできる。

 モンク(武闘派修道僧)の一流派が好んで使う打撃武器で、その変幻自在な動きで相手を翻弄する。


 その特徴が今まさに発揮されている。

 振り撒かれる聖水を嫌って、マリアから距離をとった最後のゾンビウルフに、本来なら届かないはずの距離から、突きが繰り出された。


 槍の要領で突き出された錫杖は、鎖の長さで間合いを伸ばすと、ゾンビウルフの口に飛び込んだ。


 「グボッツ」


 口内に直接、聖水散布をされたゾンビウルフは、あたかも窒息したかの様にその場で果てた。



 「これで、タイマンだな」


 倒したゾンビウルフ全てが、元の死体に戻ったのを確認して、マリアはウォーリアーに向き直った。


 「ヨクモ ワガ ハイカヲ ヤッテクレタナ」


 「あたいのシマに手を出した報いだよ。なんなら、あんたも直にあの世とやらに送ってやるぜ」


 「ホザイタナ コムスメ!」


 戦いの第二幕が切って落とされた。



 マリアの得物は、あいかわらず特製三節錫杖である。

 それに対してワイト・ウォーリアーの装備は、片手剣のファルシオン(曲剣)にカイトシールドである。

 

 「今度はこっちからいくぜ」


 マリアは屈みながらベンチの間を走り抜ける。

 元々、背の低い彼女が屈むと、殆ど背もたれに隠れて見えなくなる。


 さらに等間隔で並ぶベンチが、遠近感を狂わせた。


 「くらえ!」


 「チィイ!」


 予想よりも近い列から飛び出してきたマリアの攻撃を、戦士は盾でかろうじて弾いた。

 反撃で振った曲剣も、素早く戻るマリアには届かない。


 「コザカシイ ヤツメ」


 通常であればアンデッドは視覚に頼らず、生気を知覚して攻撃している。

 だが、この教会の内部では、その生命探知が著しく阻害されている。


 直接に視界が通っていないと、判別できないのである。

 マリアはその小柄な体格を生かして、死角から攻撃を繰り返す。


 「おらおら、どうした。その小娘に手も足もでないのか?」


 煽るマリアではあったが、戦士は動じない。

 なぜなら、マリアの攻撃では彼の防御は突破できないからだ。


 「アセッテイル ノハ キサマ ダロウ」


 頼みの聖水散布器はもう空のようで、先ほどから一滴も降ってこない。

 6頭のゾンビウルフを瞬殺したのは見事だったが、それも長期戦になれば不利になることを恐れたからだ。

 

 片や成人前の少女で、片や無限のスタミナを誇るアンデッドの戦士である。

 お互いに決め手の無いまま、持久戦にもつれ込んだら、勝敗の行方はあきらかだった。


 「ハア、ハア、いい加減にくたばりやがれ」


 「ドウシタ キレガ ナイゾ」


 勝ち誇る戦士に、一瞬の隙が見える。


 「そこだ!」


 乾坤一擲の突きが、戦士の下顎を貫くかと思われたが、それは誘いであった。


 「ソノ ワザハ ミタ!」


 態と遠い間合いから伸びる突きを誘った戦士は、ギリギリで盾の縁で弾くと、宙に浮かぶ三節錫杖の、鎖を一刀両断した。

 さらに返す刀でマリアの右腕を切り飛ばした。


 「「 グフッ 」」

 

 だが、苦痛の声は両者から上がった。


 切断された右腕から血を流しながらも、マリアは残った左腕に握った錫杖の一節で、戦士の胸を貫いたのである。

 その先端には、内部に仕込まれた銀の短剣が突き出していた。


 「バカナ シコミヅエ ダト」


 「はっ、あたいらは、教会のお偉いさんとは違うんだよ…、鎌だろうが熊手だろうが武器になるなら、なんでも使うのさ…げほっ、げほっ」


 聖職者でも信仰する神によっては剣や槍を振るう宗派はある。

 しかしシスター然とした服装に、錫杖を持っていたマリアを、戦士は勝手に鈍器専門だと思い込んでいたのだ。

 モンクというクラスもまた、素手や棒術での戦闘が主体だと教わっていたのも原因の一つだ。


 しかし実際のモンクは、素手をメインとしつつも農具から暗器まで使いこなす、格安戦闘のスペシャリストだ。

 それはバトルシスターも例外ではない。


 「コノ クタバリ ゾコナイガ!」


 胸に銀の短剣が突き立っているとはいえ、それで戦士が倒れるわけもなく、無防備なマリアへ止めの一撃が振り下ろされた。


 しかし、マリアはあっさりと三節錫杖を手放すと、左手でポケットから何かを取り出した。

 そしてそれを器用に親指だけで弾き飛ばす。


 「オラオラオラ!」


 指弾と呼ばれる近距離投擲術で弾かれたのは、聖水入りの胡桃である。

 胸の中央に棒が突き立っている戦士には、右半身に飛来したそれを、盾で受けることができなかった。


 「グワアアア」


 普通に投げたら避けられる。

 マリアは、確実に当てられるそのときまで、隠し通した奥の手であった。


 全身に聖水を浴びて、溶けていくワイト・ウォーリアーに、マリアが最後に言い放った。


 「おまえの敗因は、あたいの縄張りに踏み込んできたことだぜ…」



 





 

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― 新着の感想 ―
[一言] お年を召した穏やかな神父様と、ガラの悪い見習いシスターを想像して微笑ましく思っていたのに、 まさかの「鬼畜神父」に衝撃を受けました。 鬼畜神父直伝の戦闘スタイルだとすると、強く厳しい神父様…
[良い点] 先ずはマリアちゃんの一勝 でも右腕を切り飛ばされたりと割と重傷を負ったな… [一言] この世界のモンクは要するに、その場にある物は何でも使う戦闘職なのか。 言い方は悪いけど、マリアみたいに…
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