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7Days to the Dead 20th

 開拓村が闇の帳に覆われた時、プーキーはマッコイ商会の店に一人で留守番をしていた。

 

 商店主のマッコイが、自警団の団長代理で出払っている現状では、店を守るのは彼しかいなかったからだ。

 しかし店主と違って、彼には戦闘スキルがほぼ無い。

 戦力としては使い物にならない故の留守番である。


 裏手の倉庫には女子供が避難しており、その扉は内側から厳重にロックされている。

 プーキーも可能ならそこに逃げ込みたかったが、店には金庫があった。


 その中には商会の全財産が保管されている。

 これを放っておくことが彼にはできなかったのだ。


 実際には、敵が襲ってきたら抵抗など出来ようもないのだが、それでもこの場を守るのが彼の使命だと思っていた。


 そして、真夜中を過ぎて、眠気と戦いながら金庫の前に蹲っていると、それが起こった。

 突然、周囲が真っ暗になったのだ。


 最初は、ここが襲撃されたと勘違いしてパニックになったが、何も起きないので少し冷静になれた。


 手を伸ばせばその爪が見えないような漆黒の暗闇である。

 その現象に彼は心当たりがあった。


 「闇魔法の『ダークゾーン』ですかね…」


 敵の首領が死霊術師である以上、闇魔法も使いこなすのは予想できていた。

 商会の番頭として契約魔法を覚える為に魔法知識も猛勉強したのであるが、それがここで役に立つ。


 「打ち消したいけど、契約魔法のランクが足りないし、光魔法は唱えられないな」


 契約魔法の『魔法消去』はランク4である。

 マッコイでさえランク3までしか使えないし、彼自身はランク2だ。


 光魔法はシスターマリアしか使い手がいない。

 そしてやはりランク2までだったはずだ。


 ダークゾーンの範囲内では、全ての灯りとランク2以下の光源魔法が打ち消されたはずである。

 このままだとアンデッドの遣りたい放題になってしまう。


 彼は、少しだけ躊躇すると、背中を預けていた金庫に向き直った。

 鍵は商会主から事前に預かっている。

 脅し文句と一緒に…


 『いざとなったら、中の魔道具を使う許可を出しておこう。ただし、無駄使いしたなら、死ぬまでただ働きだと思え。いいな』


 どこまでが無駄使いなのかは、商会主の判断次第だ。

 このまま待っていれば誰かがなんとかしてくれるかも知れない。

 一生ただ働きは嫌だ。


 だけれども…


 「今が、いざって時ですよね…」


 誰に聞かせるでもなく、呟いた彼は、手探りで鍵穴を探し当てると、大事に懐にしまっていた金庫の鍵を取り出した……




 その少し前…

 首尾よく鉤爪付きのロープで侵入を果したワイトローグ部隊であったが、手近にあった建物が、思いの外に堅牢で、攻めあぐねていた。


 元々、見張りの注意を引き付けたなら、闇に潜んで機会を覗う予定だったので、他の場所まで移動する気もなかった。

 さらにこの建物の中には、大勢の人間の反応がある。

 襲撃できれば獲物はより取り見取りなはずであった。


 しかし忍び込む隙がまったくない。

 ぐるっと配下のゾンビラットを走らせてみたが、入り口の扉が一つあるだけで、他に侵入できそうな場所が無い。

 高い場所にある明り取りの小窓でさえ、鉄格子と硬い板で塞がれているのだ。


 最初は牢屋かと思ったぐらいである。

 どうやら物資を保管する倉庫のようで、今は避難場所として使っているようだった。


 「それにしても厳重すぎだろ」


 唯一の扉も、鉄板で出来ている。

 脳筋のウォーリアーなら叩き壊して入ろうと無駄な努力をするだろうが、彼は違う。


 「外から開かないなら、中から開けさせれば良いわけだ」


 そして配下の半数に、扉と反対側の倉庫の壁を一斉に齧らせた。


 闇の中で、ガリガリと不気味な音だけが響き渡る。

 すぐに壁の中に仕込まれた鉄板にぶつかってそれ以上は齧れなくなった。


 だが、そんな事は中の人間にはわからない。

 一斉に悲鳴を上げながら、音がする壁から離れようとする。


 そして、扉が開かれる音が聞こえてきた。


 「かかったな」


 ローグは、舌なめずりをすると、待機していた半数の配下に、倉庫への侵入を命じた。

 それと同時に、追い込み役の配下にも表に回るように命じる。


 「ここは総取りだぜ」


 おそらく人間の中で戦闘力の無い者が集められていたのだろう。

 ならば、もはや遮るものも無い以上、彼の部隊の勝利は確定した。


 「やはり楽に勝つのが一番だよな」


 彼はこの結果に満足していた…




 同時刻…

 ワイト・ウォーリアーは教会の前で足を止めた。

 その両開きの扉が大きく開け放たれていたからだ。


 「すでに逃げ出した後なのか?それとも空城の計のつもりか?」


 わざと城門を開いて、罠があると思わせて敵兵の足を止める。

 そういう策があるのは知っていたが、教わったときは鼻で笑ったものだ。


 『罠があったなら、それごと食い破れば問題ないだろう』


 なので対処方法など深く考えもしなかった。


 しかし、いざこうして目の前で遣られると、自然と彼の足が止まったのだ。

 人間は追い詰められている。

 すでに頼りの城壁が突破された以上、あとは蹂躙されるだけだ。


 これも弱者の最後の足掻きに過ぎない。


 そう思うのだが、だからこそ閉じこもって震えているべきであろう。

 それが、何故、堂々と侵入者を待ち構えているかのように、扉を開くのだ?


 さらに教会の敷地内に張られた聖域の結界が、彼の侵入を拒んでいた。

 無理矢理押し入っても、ダメージが入るような物ではない。

 だが、チリチリと肌を刺すような威圧感が、その場から漂っている。


 「だが、俺にはこれしかできん」


 そう自分に言い聞かせて、ずいっと結界内に踏み込んだ。


 数歩遅れて、配下のゾンビウルフ達も後に従った。

 


 教会は小さく、扉の向こうはすぐに礼拝堂だ。

 狭い部屋にぎっしりと、木製の背もたれ付きベンチが並べられており、狭い通路が両側にあるだけだ。


 正面の奥には祭壇があり、そこに小さい神の像が祭られている。

 彼はそれを直視しないように、部屋の中を見回した。


 伏兵はいない。

 たった一人だけ、修道女の格好をした小娘が、像の前で祈りを捧げているだけだった。


 背が低すぎて、入り口から見えなかったぐらいだ。


 「殉死でもする気か?」


 罠も無い以上、この小娘は犬死である。

 時間稼ぎに囮でもかって出たのかと思っていた時、その修道女が立ち上がって振り向いた。


 その瞬間、彼は自分が間違っていた事に気づいた。


 なぜなら、彼の目の前にいるのは、アンデッドに怯える小娘などではなく、一介の武人だったからである。



 それは修道衣を閃かせながら、己の身長よりも長い錫杖を構え、彼らを前にしてなお、不敵に笑みを浮かべていた。


 「雑魚が来たらどうしようと思ってたが、大物が掛かったみたいだぜ。その面構えなら鉄砲玉ってことも、ねえだろうしな。見たとこ若頭ぐらいか?ああ?」


 修道女の口から出るような言葉ではないが、彼には馴染みがあった。

 これはスラムと呼ばれる貧民街特有の訛りだ。


 「グググ、キサマ ハ?」


 すでに喉は変性してしまっている。それでも彼は無理矢理言葉らしき物を発した。

 そしてそれは相手に通じたようだった。


 「あたいはマリア。ここの用心棒さ」


 小娘の分際で用心棒とは恐れ入ったが、その構えには隙がない。


 「ソノフク ハ ギソウ カ?」


 「ああ?お前も似合ってないとか言うのかよ。だが、一応こっちが本職なんだよ」


 「ナルホド ソウヘイ カ」


 「こっちでは、バトルシスターって言うんだよ!覚えておけ!」



 その怒号で戦いの火蓋が切って落とされた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 喉が変性してて上手く喋れないなら、マリアに会う前の台詞は心の声? なら「」じゃなくて()の方がいいのでは?
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