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7Days to the Dead 17th

 古びた炭焼き小屋が燃え尽き、周囲に延焼しないことを確認してから、今後の行動方針を相談しました。


 「この後はどうします?」


 「がう」


 「確かにここで待つのも手ですね」


 敵は戦力の強化として、ここでワイトを増やしていたのでしょうから、転化が終わった頃を見計らって、引率にくるはずです。

 また、そうでなくても、これだけの煙が立ち上ったのですから、何事かと様子見にくる可能性も高いです。


 「しかし、団長までが被害者になったとしたら、キャラバンが危険ではないか?」


 やっと混乱から回復した副団長は、キャラバンの心配をしています。

 今も首に残った、両手で締められた跡が、黒ずんだ痣になっていて痛々しいです。


 「さすがに護衛が全滅することはないでしょうし、追加のワイトも未然に防げましたから、そちらは大丈夫じゃないかなと」


 と言うより、そっちまでどうやっても手が回りません。

 今はキャラバンの心配より、ネクロマンサーを探す方が優先です。


 その後も、幾つか案が出ましたが、これといった決め手もなく、時が過ぎていきます。

 日も傾いて、ここで野営か?と考え出したときに、警戒スキルの範囲内に反応がありました。


 「早い!飛んできます!」


 あたしの声に、反射的に兵士の皆が武器を構えましたが、その時にはもう侵入者はすぐ側まで近づいていました。


 慌てて胡桃の聖水を投げつけようとする兵士さん達を、身振りで制して、それが何かを見極めます。


 「カラス?」


 それはゾンビではない、普通のワタリガラスです。

 フギンかムニンかと思ったけど、ちょっと違う気がします。

 そのカラスが、足元に舞い降りてくると、拙い共通語で話しかけてきました。


 「ムラ オソワレタ スグ カエレ」


 「師匠?!」


 このワタリガラスは、教授の使い魔です。

 正確には使い魔の使い魔だそうです。


 あたしを道案内してくれたフギンとムニンですが、別れた場所でムニンが教授から貸与された『サモン・ファミリア』の呪文を使って、使い魔の召喚を試す手筈になっていました。


 使い魔が使い魔を呼べるのか、そして長距離でもリンクは保てるのか、など色々と疑問はあったのですが、どうやら成功だったようです。

 呼び出せる使い魔は、ムニン達の様な特殊なタイプでは無いですが、普通は半日で消えてしまう所を、効果時間延長で1日は持つようになっています。


 これを使って、フギンとムニンが交互に開拓村を見守っていてくれたみたいです。

 そしてその危難を知らせてくれました。

 日没になれば効果時間は切れます。本当にギリギリで間に合わせてくれたのです。



 どうやらこのワイトの巣は、ヌコ様を村から遠ざける囮で、その隙に開拓村を襲う作戦できたようです。


 「ヌコ様!」


 「がう」


 こうなれば、全速で村に戻るしかありません。

 あたしはヌコ様を背負うと、副団長に言いました。


 「敵は開拓村を襲っているそうです。あたし達は急いで戻りますので、後のことはお願いします」


 「わ、わかった。村を頼む」


 「いきます!」


 急発進から、深く沈み込むような前傾姿勢を維持したまま、加速していきます。

 そしてこのまま全力疾走です。


 なぜかヌコ様を背負った方が、一人で走るより早く走れるんですよね。

 ヌコ様の体重も気にならなくなったし、疲労の仕方も緩やかになりました。


 高速のままカーブも出来ます。

 疾走中にペース配分をして、スタミナも回復できるようになりました。


 なんででしょう?ヌコ様の加護か何かでしょうか。


 「まあ、なんにせよ、早く走れるのは良いことですよね」


 「が、がう」


 ヌコ様には何か心当たりがあるみたいですが、今は救援が先です。

 

 「持ってよ、あたしの足!」


 



 その知らせが届く少し前、開拓村に一頭の騎馬が辿り着いた。


 馬も乗り手も傷だらけで、今にも倒れそうになりながら村の前まで来ると、跳ね橋の手前で力尽きたのか、騎手が馬上からずるずると落下した。

 馬は、そのままよろよろと川上の方へ走り去ってしまい、後にはなんとか立ち上がろうとする伝令兵が残されていた。


 「伝令だ!かなりやられてるぞ!誰か救護を!」


 見張り台から監視していた兵士が、村に向って叫び声をあげた。


 「まあ、待て。マニュアル通りに行動しろ」


 慌てる見張りを諌めながら、櫓に登ってきたのはマッコイ爺さんだった。


 「しかし、かなり重傷のようですが?」


 「救護の準備はさせておる。だがまずは胡桃を投げてみろ」


 「りょ、了解です」


 渋々といった感じで、見張りの兵士が配給された胡桃を、倒れた伝令に投げ下ろした。


 そのとたん。


 「キシャアアア」


 奇声をあげて伝令が苦しみだした。


 「ワイト!ワイト!」


 見張り台から警告が発せられると、弓を番えた猟師が次々と櫓に登って銀の矢を放った。


 聖水に苦しみながら立ち上がり、血走った赤い目をぎらつかせて威嚇するワイトに、次々と矢が刺さる。


 やがて5・6本の矢を全身に受けたワイトは、その場に崩れ落ちた。


 「伝令の馬まで偽装するとはな」


 「という事はキャラバンはもう…」


 悲観する見張りの兵士をマッコイ爺さんは叱咤した。


 「今は村の防衛だけ考えろ。すべてを疑ってかかれ。まずは胡桃判定だぞ」


 「了解です」


 団長も副団長も不在なので、今の自警団はマッコイ爺さんの指揮下に入っている。

 

 「猟師部隊も無駄弾は撃つなよ。銀の鏃は高価なんだからな」


 「おいおい、マッコイ爺さん、命あっての物種だろ?」


 「やかましいな。予備は無いんだから大事に使えって事だ」


 「へいへい」


 対照的に、猟師部隊は普段の癖が抜けずに、ずけずけと物を言う。

 ただし、それが今は頼もしい。


 「このタイミングでちょっかいを掛けてきたということは、今夜が山場だな…」


 沈んでいく夕日を見ながら、マッコイ爺さんは呟いた。


 見張りの兵士も猟師達も、何も言わずに、ただ頷くだけであった。




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