7Days to the Dead 16th
森の奥深くにあった古びた炭焼き小屋には、キャラバンの護衛についていたはずの自警団の団長が潜んでいました。
彼はすでにアンデッドと化しており、生者を見境無く襲ってきます。
突然の遭遇に、唖然とする副団長の首を、絞め殺す勢いで爪を立てているのです。
「グッ、ゲエッ、ダ、団長…」
見る見る血の気が無くなっていく副団長が、何かを言おうとしますが、アンデッドに成ってしまった団長は、まったく気にしません。
その恐ろしい顔目掛けて、祝福された銀の鏃を打ち込みます。
「怨敵退散!」
気合を込めた一撃は、元団長だった者の額に命中しました。
その瞬間、もの凄い絶叫を上げて、アンデッドの頭が吹き飛びました。
「最後の祝福の矢だったけど、効果抜群でした」
しかし、小屋の中からは続々とアンデッドが出てきます。
「ワイト!ワイト!」
あたしは周囲の兵士に警戒を呼びかけつつ、喉を押さえて蹲る副団長を、扉の前から引きずって下がりました。
割って入るのはヌコ様です。
意味不明の叫びを上げながら、迫ってくるワイトの群れを、的確に捌いています。
「キシャアアア」
「ガウ」
「ヒャッハアア」
「ガウ」
「シュバアアア」
「ガウ」
見事な回避と反撃のヌコパンチで、ワイトの集団を小屋から出しません。
敵の数は多いですが、狭い場所に固まっていたのが敗因です。
あたしもヌコ様に当てないように、ワイトの上半身を狙って矢を打ち込みます。
使う鏃はもちろん銀製です。
昨晩、モルガンさんとダイナーさんが徹夜で作ってくれました。
ワイトに対抗するために、村中の銀貨や銀食器を集めて、鋳潰して鋳造したと言ってました。
出来上がった60本のうち、あたしが20本預かって、残りは村の猟師が持っています。
村がワイトに襲われたら、彼らが遠距離攻撃の主力になります。
なので銀の鏃は貴重品です。
一矢一矢に魂を込めて放ちます。
「回収できないのが辛いよね」
銀は柔らかい金属なので、目標に命中した時点で鏃はつぶれてしまいます。
再利用は不可能なのです。
「あ、でも再生原料にはなるかな」
銀の食器を鋳潰したときのマッコイ爺さんの顔が、すごく怖かったと二人が言ってましたから。
「がうがう!」
余計な事を考えていたあたしを、ヌコ様が叱ります。
小屋の中の敵に動きがあったみたいです。
「側面、注意です!」
あたしの警告とほぼ同時に、炭焼き小屋の窓を塞いでいた戸板が吹き飛ぶと、中からワイトが転がり出てきました。
まるでハリウッド映画のようです。
違うのは、飛び出してきた犯人が、包囲していた警官に、集中砲火を浴びてしまうところです。
「狙え!投擲!」
打ち合わせ通りに、鬼胡桃を一斉に投げつけます。
胡桃はワイトに命中すると、見事に割れて中の聖水を撒き散らします。
「ギシャアアア」
ワイトは聖水の直撃を受けて、転げ回ってもがきますが、すぐに動かなくなりました。
「聖水、めちゃ効くね」
ゾンビは頭に当たったら一撃だとは聞いていましたが、ワイトが3発で沈むとは思っていませんでした。
ワイトが聖水に事のほか弱いのか、教授の製作した聖水が普通のより効果が高いのかも知れません。
とにかく、兵士さん達にもワイトに対抗する手段があるのは朗報です。
あとの戦闘は、ヌコ様がジリジリと圧迫し、時折、窓から飛び出してくる敵を兵士さんが排除して終わりました。
もちろん、あたしも弓矢で援護しました。
この戦いで精彩を欠いたのは副団長さんです。
団長がアンデッド化しており、さらに自分を襲ってきたことに動揺してしまいます。
さらに元団長ワイトに首を絞められた時に、生気を吸われたみたいなのです。
ワイトの攻撃は、その鋭い爪とエナジードレインと呼ばれる状態異常付与です。
これは対象の生気を吸い取り、自らの活力に変換するスキルで、レイスやヴァンパイアなども使います。
これの厄介な所は、吸われた生気は(=HP)状態異常が治癒されない限り、回復できないというところです。
そしてエナジードレインによってHPを0にされた犠牲者は、時が経つとそのアンデッドに転化してしまうのです。
ワイトやレイスはこうやって眷属を増やしていきます。
ヴァンパイアぐらいの高位アンデッドの場合は、同格の存在ではなく、下級眷属に転化する事も多いと言われています。
この手のアンデッドに遭遇した場合は、接近戦を挑まずに、遠距離から倒すことが大事です。
副団長は驚きによってできた隙を突かれてしまった模様です。
エナジードレインを受けると、HPの他にも戦闘力や抵抗力が若干ですが下がります。
先手を取られると、どんどん不利になっていく厄介な敵なのです。
やがて小屋の内部にいたワイトは全滅しました。
その全てが揃いの鎧を着た、自警団の団員だったようです。
倒したのは合計で7体。キャラバンの護衛隊の一個小隊にあたるそうです。
討伐隊のメンバーの顔色も、衝撃からか、すっかり蒼褪めてしまっています。
この小屋には、ワイト・ネクロマンサーも他の幹部も居ませんでした。
彼らはどこに行ったのでしょうか。
そしてここで何をしていたのでしょうか。
「がうがう」
「なるほど、ワイトに転化する時間を稼ぐために、ここに遺体を集めていたと」
「がう」
「しかし転化が早すぎませんか?」
確か、ワイトの転化は丸一日かかったはずですが。
「がうがう」
「月齢が悪い?闇の精霊が強くなっている、ですか」
そういえば、もう秋も終わりのはずです。
これからどんどん寒くなるし、夜も二つの月が両方欠けて暗くなって来ています。
それがアンデッドの転化速度にさえ影響してくるとは…
ネクロマンサーの行方も気になるところですが、元団員達の遺体をこのままには出来ません。
再びアンデッドとして甦るかもしれませんし、仲間として弔ってあげたいでしょうし。
皆で小屋の中に運びこんで、火をかけました。
簡単な火葬ですが、一人ずつ荼毘に付す時間はありません。
あたしは『祝福』も『聖句』も唱えることができません。
ただ、燃え上がる炎を見つめながら、彼らの魂が神に召される事を祈るばかりです。




