7Days to the Dead 15th
ヌコ様を先頭にして、あたし達、『アンデッド討伐隊』は森の中を進んで行きました。
目指すは、今回の騒動の首謀者である、ワイト・ネクロマンサーの討伐です。
選抜されたのは、自警団副団長とその部下の12人の兵士、それとヌコ様とあたしです。
ヌコ様が居ないと敵の発見も覚束無いですし、細かい指示にはあたしの通訳が必要なのです。
「がう」
「ああ、何かいますね。たぶんゾンビウルフかな」
「総員、戦闘準備!数はわかるかね?」
「がうがう」
「3体だそうです。指揮官は無し」
「了解した、第一小隊前進!第二小隊は周囲の警戒を継続」
「「 了解です 」」
実際には、他の敵を呼び寄せない様に、小声の会話ですが、概ねこんなかんじで野良のゾンビを狩っています。
アンデッドの気配の濃い場所を辿っているのですが、あちこち移動しているらしく、本命はまだ見つかっていません。
足跡などの痕跡も、そこら中にあるので、どれが本命かわかり辛いのです。
それでも、本隊から逸れたのか、囮のつもりなのか、こうして野良のゾンビが数匹集まっていたりするので面倒です。
「目標を発見!ゾンビウルフ3頭。排除します」
自警団は二つの小隊に分かれています。
第一小隊が副団長を含む7人、第二が6人です。
ヌコ様とあたしはオブザーバーなので指揮系統には入っていません。
自由に行動します。
まあ、ヌコ様は動くときは電光石火ですから、指示を出す隙なんてないですしね。
そのフォロー役として、あたしもフリーに動くことになっています。
指揮官のいない野良ゾンビなら、第一小隊だけでも無理なく倒せます。
ただし遠距離から発見できていればです。
もし奇襲を受ければ無傷とはいかないでしょう。
視界の利かない森の中では、音をたてないし気配もしないアンデッドを見つけるのは難しいのです。
魔法で探知するか、臭いで見つけるのが主な方法ですが、自警団にはそれらのスキルのある人はいません。
探すのが普通の動物や魔獣なら、村の猟師さんを引き連れてくるところですが、今回はアンデッドです。
もしマリアに探知系の呪文があれば、先導役として抜擢されていたかもしれません。
まあ、唯一のヒール呪文の使い手を、危険に会わせることは無かったと思いますが。
「がうがう」
「え?あたしは良いのかって?そんな、いまさらですよ」
何せ、最初はあたしとヌコ様だけで討伐隊を組もうと言い出したぐらいですからね。
村を出る前の論争を思い出します……
「駄目だ」
「でも効率を考えたら、それが一番かなと」
あたしの主張は、マッコイ爺さんに却下されました。
爺さんなら冷徹に判断するかなと思ったんですけど。
これがアズサさんなら許可しないのは、わかりきっていましたから。
「村の防備を減らすのは…」
「確かに自警団を派遣すれば、守りは手薄になるが、そこは師匠殿の援助でなんとかなる」
「でも戦力はかなり低下してますよね?」
今でもギリギリなのに、さらに討伐隊に人員を割くのは無理だと思うのですが。
「理由は幾つかある」
幾つもあるんだ。
「まず、討伐隊の戦力が少ないと、首謀者を取り逃がす可能性が高くなる」
まあ、二人だけだと包囲はできないですからね。
「次に、討伐隊に参加者がいないと自警団の士気が落ちる」
ああ、それはありますか。
他人任せは嫌でしょうからね。
「最後に、聖獣にまかせっきりだと加護がなくなるのだ」
なるほど、自助努力をしない者には女神は加護を授けないと。
こっちの神様はシビアなんですね。
「だから足手まといかも知れんが、自警団を同行させろ」
いやいや、足手まといとか思ってないですよ。
敵の数が多いときは、頼りになりますから。
というわけで、現在に到ります。
「討伐終了しました」
「よし、土魔法で穴を掘り、死骸を埋めておけ」
「了解です」
火葬にする暇は無いので、埋めるだけです。
目印を残しておいて、後日正式な処理をするそうです。
そのままだと、疫病が広がったり、新たなゾンビになったりする可能性があるらしいので。
それでもこうやって戦闘と後処理を繰り返していると、時間がどんどん過ぎていきます。
ヌコ様が言うには、徐々に近づいているそうなのですが、自警団には焦りも見えます。
「聖獣様、次はどちらの方角でしょうか?」
「がう」
「疲れている様だから、休憩したらどうか?だそうです」
「いえ、移動中でもこの速度なら疲労は回復できます。ご指示を!」
あまり無理をすると、本番で困ると思うのですが、手薄になった村も気になるのでしょう。
副団長さんは進軍を願ってきます。
「ぐるる」
仕方なさそうに、ヌコ様は移動を始めます。
その前に何かいいたげに、ちらっとあたしを見ました。
でもあたしの所為にされても困るんですけど。
自警団のやる気が空回りしてるのは、止めようがないじゃないですか。
慣れない森の中の行軍と、散発するアンデッドとの戦闘で、自警団の皆さんの足が鈍り始めてきた頃、敵の塒と思える場所に辿り着きました。
「古い小屋みたいですね」
「炭焼き小屋の様だが、開拓村の関係者ではないな」
副団長さんが言うには、こんなとこまで入り込む村人は居ないそうです。
「かなり古そうだ。初期の開拓民が残したものかも知れん」
確かに丸太で組まれた小さな小屋は、今にも崩れ落ちそうな危さがあります。
外側も、ほぼ蔦と根っこに覆われていて、いかにも何かが潜んでいそうな雰囲気です。
「がうがう」
「中に複数いるそうです。指揮官の存在は不明、ただし居てもおかしくないと」
「了解した。本命と思って行動しよう」
副団長さんは、兵士を3人ずつ4組に分けると、遠回りに包囲させました。
正面からは、あたしとヌコ様と副団長で殴り込みです。
副団長は腰に差した魔法剣をゆっくりと引き抜きました。左手にはカイトシールドを掲げています。
魔法剣は、マッコイ商会の倉庫にあった虎の子だそうです。
お値段なんと金貨1200枚。
副団長の給料5年分だそうです。
握る手が震えているのは、武者震いか、借金の額の所為なのか。
包囲が完了して、副団長が慎重に入り口の扉に近づきます。
あたしとヌコ様がその背後で援護する体勢です。
丸太小屋の出入り口は、朽ち掛けた木製の扉ですが、そこだけ蔦や根が取り払われています。
何かが出入りしているのは間違いないようです。
苔むした石の階段を数段上ると、副団長は扉を蹴り開けようとしました。
しかしそれよりも早く、扉は内側から吹き飛ばされました。
ズドン
「敵襲!」
吹き飛んできた木片を盾で防ぎながら、副団長は飛び出してきた人型のアンデッドに切りかかり…
その手が驚きと共に止まりました。
「だ、団長?!」
それは泥まみれの鎧を身に纏い、血の様に赤い眼を見開き、異様に伸びた爪を振りかざして襲ってくる、自警団の団長の姿だったのです。




