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7Days to the Dead 14th

 あれはダメだ。

 あれを近づけてはいけない。

 あれは、白き獣だ。


 人間の砦をもう少しで突破できるという時に、かの者が邪魔をする。

 あれは我の過去でも、女神の試練として立ち塞がった。


 またか、また、奴が邪魔をするのか。


 我の憎悪が配下にも伝わり、その攻撃が全て白き獣に向った。

 それがかの者の狙いとは気づかずに。


 

 跳ね橋の決戦は膠着状態になった。


 こちらの戦力は隠し玉として投入した灰色熊のみ。

 人間側も白き獣のみになった。


 途中で見張り台から降ってきた亜人はそのまま堀に沈んだ。

 一体何がしたかったのか…


 狼の群れを蹴散らした白き獣だが、流石に灰色熊には手を焼いているようだ。

 不死者として甦らした事で耐久力は元の倍になっている。

 そのタフさで、殴り合いに持ち込めば、こちらにも勝機がある。

 それが理解できているのか、迂闊に飛び掛ってこない。


 忌々しい獣だ。

 頭が良く、素早く、そして女神の加護がある。

 我ら屍鬼の耐性を容易く突破してくるのだ。


 我が前線に出れば、瞬時に屠られてしまうであろう。

 ウォーリアーでさえ、二撃もつかどうかである。


 残念な事に、こちらの戦力も枯渇している。

 影響範囲内には野良の不死者も残っていない。

 もう少し予備を召喚しておくべきだったかも知れない。


 もうこうなったら、ウォーリアーとローグを突撃させるしかないかと考えていたとき、灰色熊の頭が爆ぜた。


 何が起きた?

 ふらつく灰色熊に、白き獣が襲いかかる。

 さらにもう一度、灰色熊の頭が吹き飛ばされた。


 今度は見えた。

 砦の中から矢が飛んできたのだ。


 しかし威力が高すぎる。

 あの獣でさえ攻め倦んでいた灰色熊を、矢の二撃で半傷に持ち込むとはただ事ではない。


 まさかさっきの亜人か?

 飛び込み自殺したのは目眩ましで、密かに中に戻って機会を待っていたとでも言うのだろうか。


 だとすれば、恐ろしい策士だ。

 そしてあの弓の技…

 なるほど、あれが森の女神の使徒か。


 だから白き獣が駆けつけてきたのか。


 全てが繋がった。

 あの亜人こそが我の宿敵であると判った。



 いいだろう、この場は勝利を譲っておこう。

 だが、次に逢い見える時が、お前の命日と知れ……



 だが、奴の狡猾さは我の想像の上を行った。


 翌日の早朝、奴は白き獣と共に、この地を去ったのである。


 この状況で人間どもを見捨てるとは…

 

 自らの不利を覚ると、庇護すべき者どもを囮にしてでも、速やかに逃走する。

 策士としては正しい。

 だが使徒としてどうなのだろうか。


 どちらにしろ、我が奴を討ち果たす事はできなくなった。

 ならば残された人間には、この報いを受けてもらうしかない。


 昨晩の内に考えた作戦を決行することにする。


 

 大鷲による鼠の投下は上手く行った。

 混乱を巻き起こすことで負傷者を増やす事に成功し、その結果、唯一残っていた光の霊圧が消えた。

 今なら我の死霊術も届くに違いない。


 目論見は上手く行き、砦の内部に屍鬼を召喚できた。

 クラスも持たない低級の眷族ではあるが、銀の武器を持たない人間に負けることなどない。

 瞬く間に3人を倒した。


 すぐに2体目の召喚を考えたが、屍鬼に殺された者は、一晩たてば眷属として甦る。

 魔力の温存の為にも、ここは我慢することにした。


 それが失策であった。


 人間が、周りの迷惑も考えずに、火魔法を乱射したのである。

 窮鼠猫を噛むとはまさにこのことか。

 我の眷属は倒されたが、それ以上の成果をあげることができた。


 今なら住居の消火に意識が向いている。

 倒された眷族の代わりに、新たな屍鬼を召喚した。



 だが、そこに、またしても白き獣である。


 いつの間にか戻ってきたかの者が、我の眷属を瞬殺してしまった。


 なぜ戻ってきたのか。

 やはりあの使徒も、見殺しは心苦しかったのだろう。

 自分の安全が確保されたので、白き獣だけ送り出してきたということか。


 どこまでも狡猾な奴だ。

 だが、策士としては正しい。


 白き獣が居る以上、内部への召喚は死体の無駄使いだ。

 ここは時期を待つことにしよう。


 幸いなことに、月齢は我に有利だ。

 やがて来る万霊祭の夜には、闇の精霊が最も力を発揮できる。

 その日にだけ発動できる儀式魔法も存在する。


 包囲を続けながら、その準備をするのも一興だ。


 野良の狼を支配下に置きにいったウォーリアーの報告によれば、川下から人間の隊商も近づいてきているらしい。

 奇襲を掛けて、眷族を増やすのも良いかもしれぬ。


 まずは鼠で撹乱して疫病を感染させておくとするか。

 川底から接近させれば、探知もできまい。


 感染者の対処で、本隊の足を止めつつ、偵察に出てくる小数を襲う。

 一人は重傷のまま本隊に戻し、行方不明者の救難に出てきた少数をさらに襲う。


 この場合、最初の犠牲者は死霊術で屍鬼に転化しておくと効果は抜群だ。

 助け起した仲間に襲われる恐怖は、判断を狂わす。

 攻撃を躊躇すれば、思う壺である。


 屍鬼が殺した死体は、放置せずに隠す。

 一晩たてば、立派な眷族である。

 しかもそれらは転化させた屍鬼の配下になる為、我の統率を必要としない。


 川下から来た人間どもが、仲間の半数が不死者になったと気づく頃には、逃げ道も塞いでおく。

 そうなれば人間どもの末路は決まったも同然である。


 そしてそれだけの眷属が増えたなら、あの砦の攻略も可能になるに違いない。


 待っておれ、忌々しい白き獣よ。


 我は必ずそなたを屠る。


 そしてそなたが守ろうとした森の女神の使徒も、いつか打ち倒してみせる。

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