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7Days to the Dead 10th

 「うそ、間に合わなかった…」


 壁の向こうで、黒煙を上げながら燻る家を眺めながら、あたしは呆然としていた。


 いつもは見張りの兵士さんが居るはずの櫓にも人影が無い。


 「まさか、全滅…」


 あたしの呟きを聞きつけたのか、ヨロヨロと一人の老人が櫓の上に姿を現した。


 


 「そこの早とちりエルフ娘、勝手にわしの村を焼け落ちた風に言うな」


 「ほえ?」


 見上げると、そこには櫓の上で槍を構える、マッコイ爺さんの姿があった。


 「業突く張りのマッコイ爺さん?!」


 「業突く張りで結構、ちゃんと使いの任は果したんだろうな?」


 「あ、本物だ」


 あたしは、心からほっとした。


 「村は、村人は無事なんですね?」


 「無事、と言えるかどうか。手が足りなくてわしがこうやって見張りしとるぐらいだからな」


 確かに、本当なら自警団の若者が詰めていなければおかしい。


 「まあ、立ち話もなんだ。中にお入り。茶は出せんがな」


 そういって、縄梯子を垂らしてくれた。

 緊急の出入り用に、倉庫から引っ張り出してきたらしい。


 「でも流石ですね、こうやって必要な物資を、村の為にただで放出して…」


 「なわけ、なかろう?事が終わったら代金は請求するに決まっとる」


 ですよね。

 でも被害が大きすぎて、村の資金では払いきれないような…


 「無論、請求先は領主だな。金はあるだろうから、取り逸れはなかろう」


 「はあ、領主さんが快く払ってくれると」


 「誰がそんな事を言った?嫌がっても毟り取るのが商人の心得よ」


 領主様にも遠慮の無い、マッコイ爺さんであった。



 「それで、何があったんですか?」


 「うむ、空から攻められた」


 ああ、確かに。

 そこは盲点でしたね。


 

 「最初は一匹のネズミだった」


 爺さんが、昔話の様に語り始めた。


 「まだ取り零しが居たかと兵士を集めると、次々と目撃情報が上がり始めた」


 「マーヤ見ちゃった。ネズミが空から降って来たの」


 目撃者はマーヤちゃんかい!


 「慌てて上空を監視させると、2羽の大鷲が、それぞれの足にネズミを掴んで、村の上空で落としておった」


 「やはりその大鷲も?」


 「むろんゾンビだな」


 すげえな、ゾンビ・イーグル。腐った羽で空を飛べるんだ。


 「弓で迎撃したが、中々倒しきれない」


 真上へ弓で射掛けるのって難しいんですよね。どっちかって言うと、弩弓の方が当て易いです。


 「なんとか撃退したときには、10匹近く、潜入されていたのだ」


 まずいじゃないですか。


 「そうだ、かなり混乱したのだ。これも陽動だという意見もあり、兵士の全員を村の探索に当てるわけにもいかず、駆除はかなり手間取った」


 「村人に被害は?」


 「無論でた。ゾンビ・ジャイアントラットに噛まれて負傷した者は、軽症6名、重傷3名、死者1名にのぼった」


 また一人亡くなったんだ…


 「さらに感染症を発症した者も出て、教会はてんやわんやになったんだが、そこを狙われた」


 どういう事?


 「次々に運ばれる負傷者の手当てで、シスターが魔力切れでぶっ倒れた」


 マリア大丈夫かな?


 「感染症の患者は薬師のジョンソンが引き継いで治療したが、遺体の防腐処置や、ましてや火葬にまで考えが及ばなかったのだ」


 「それって、まずくないですか?」


 「ああ、敵は待ってたんだろうな。村の内部に浄化されていない遺体が出来るのを…」


 だとすれば敵の次の手は…


 「教会の裏手にある遺体安置所に置かれていた村人の死体が起き上がって、人々を襲い始めた」


 やっぱりアンデッド召喚!


 「しかも最悪なことに召喚されたのはワイトだった」


 「ゾンビじゃなかったんですか?」


 「ああ、ゾンビだと思って倒しにいった兵士が3名、返り討ちにあった」


 「そんな…」


 「ワイトは、銀製の武器か魔法の付与された武器でしか倒せない。そこにもっと早く気が付いていれば…」


 「魔法は?魔法なら効くはずです」


 「ああ、現場でも魔法の使用許可が下りた。中心になったのは火魔法使いだ」


 あ、なんとなく察しました。


 「混乱の中で放たれた多数の『ファイアー・アロー』は、ワイトを撃破するのには成功したが、代償として周囲の民家にも引火した」


 「それで火事になったんですね」


 「不幸中の幸いだが、住人は全て避難所に退避していたので、火災による人的被害は出ていない。ただし、消火活動と遺体の監視で、兵士の殆どが出払っているのが現状だ」


 あたしが目撃した黒煙は、消火が間に合わなくて、焼け落ちてしまった民家の残り火だったようです。

 しかし村の中の遺体に呪文を掛けるとか、大胆な策ですね。


 「あ、ワイトと戦って亡くなった兵士の方の遺体は、安全なんですか?」


 「いや、想像通り、こっちが手を打つ前に、また召喚された」


 やっぱり、これだけ防衛側が混乱してれば、遺体は放置されてるはずだからね。

 しかもマリアが魔力切れで意識不明な状態だと、対処の仕様が無かったわけだし。


 「だが、そこに聖獣が戻ってきた」


 ああ、ヌコ様が間に合ったのですね。


 「召喚されたワイトを瞬く間に制圧して、事なきを得た」


 さすがヌコ様、そのパンチはワイトも砕くんですね。さすヌコです。


 「今は安置所で、遺体の警戒を兵士とともにしてもらっている。だが、その後に召喚された気配はないそうだ」


 向こうも魔力切れか、こっちの混乱が収まったのを察知したのでしょうね。



 「こちらの状況はこんな感じだが、そっちの成果はどうだったんだ?」


 「あ、はい、贈り物は喜んでもらえて、ポーションの作成は請け負ってもらえました」


 「そうか、それで救援は?」


 「それは断られました…」


 「だろうな、普通なら関わりを持つことさえしないハイエルフだからな」


 「すいません…」


 「別に謝る必要はない。元々戦力的には期待していなかった」


 「ですけど…」


 「それより少しでもポーションが欲しい。往復の時間を考えると、錬金製作はできなかったろうが、在庫を回してもらえたか?」


 ああ、まあ普通に考えたらそうですよね。


 「いえ、ちゃんと作ってくれました。本数が必要だろうから、簡易版ですけど、保存期間はともかく効果は保証付きだそうです」


 「流石だな、こちらの需要を良くわかってる。商売相手には合格だ」


 「それで、こちらが簡易ヒールポーションです」


 「ほう、土を固めた瓶か…そうかガラスの材料が足りなかったか」


 さすがマッコイ爺さん、着眼点が違います。


 「こちらで添えたガラス瓶は、普通のポーションになって戻してもらえてるな。この6本だけでも助かる」


 あたしは慎重に荷物を取り出し続けます。


 「おい、何本あるんだ?」


 「えっと、簡易ヒールポーションは24本ですね」


 「それを全部、その場で作ったのか?」


 「ええ、師匠ですから」


 「そ、そうか…」


 何故か、あのマッコイ爺さんが若干ですが引いています。


 「それで、その大量の胡桃はなんだ?」


 「あ、これ聖水だそうです」


 「せ、聖水?師匠殿は神聖魔法も使えるのか?」


 「ですね、師匠ですから」


 「そ、そうか…まあポーション瓶が足りなくて容器を胡桃に工夫したのは流石ハイエルフ殿だな」


 なんか師匠の株が上がっていますが、まあ下がるよりは良いのでしょう。


 「で、この投擲用聖水が…」


 「ちょっと待て、投擲用?」


 「はい、投げて頭に当たればゾンビもイチコロだって」


 「イチコロ…」


 「その投擲用聖水が、確か300…」


 「プーキー!ちょっとこっち来い!いいから直にだ!」


 あ、マッコイ爺さん逃げましたね。


 プーキーさんが冷静でいてくれると助かるんですけど…



 「なんだ!これーーー」


 ダメみたいです。



 


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[一言] 便利な言葉。『師匠ですから』
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