7Days to the Dead 8th
現在俺は、徹夜明けのハイテンションで、聖水の練成を遣り過ぎて怒られている。
俺は正座だが、アインは後ろに立って控えているだけだ。
解せぬ。
「メイドは、そこが定位置なので問題ないのです」
ショーコ君はそう言うが、アインのメイド服姿に、ふがふが言っていたのと無関係には思えないのだが…
「教授、反省してませんね」
「いや、ちゃんと反省はしているぞ」
自分でも作り過ぎたと思う。
しかし、流れ作業の様に練成を続けていると、止め時が判らなくなったのだ。
結果、目の前にはうず高く積まれた鬼胡桃の実の山ができた。中身は聖水だ。
「いったい幾つ作ったんですか?」
呆れ顔のショーコ君が尋ねる。
「まあ、ざっと50ぐらい…」
「はあ?」
「いや、100ぐらい…」
「ほほう?」
「もしかしたら150ぐらいは…」
「どう見ても300個はありますよね?!」
まあ、そう言えなくもない。
「こんなに持ってけないですよね?」
「いや、重さ的には可能…」
「はあ?」
「まあ、ヒールポーションと合わせるとちょっと…」
「ちょっとどころか、絶対無理です!」
いや、ショーコ君ならワンチャンあるかと…
「教授はあたしをなんだと思ってるんですか?!」
ウッドエルフの皮を被った餓狼?
「ほほう、どうやら教授は過去のやらかしをアインさんに話しても良いと…」
「俺が悪かった!」
「わかればよろしい」
俺の後ろのアインが小声で呟く。
「聞きたいような、聞いてはいけないような…」
絶対に聞かないほうが良いです。
「しかしマスター、これでは対場が逆ではないでしょうか?」
アインにとって師を説教するなど考えられない事なのであろう。
「教師と言えども、粗相をすれば生徒に集団で突き上げをくらうものだ。ましてや思春期の女子学生の集団には、絶対に逆らってはいけない」
「なるほど、なんとなく判りました」
「そこ、何か言いました?」
「「 いえ、なにも! 」」
「大体、この木の実の山で、どうにかなると?」
まあショーコ君から見れば、リスの隠した宝物だよな。
「効果は保障しよう。投げて頭部に命中すれば、ゾンビなら一撃だ」
「マジですか?」
驚くのも無理は無いが、防御力を無視して、アンデッド特効ダメージが入るのだ。しかもゾンビには頭部被弾で2倍ダメージという弱点がある。
「これだけあれば弾幕には十分だ」
「教授は何と戦う気なんですか…」
「戦闘は数だよ」
「その名言を言った方は、最後は一機しかない超弩級機動重戦士で無双してましたよね?」
「いや、量産の暁には」
「それって『長門級が量産できていれば』と同じ理論ですよね」
ごもっともです。
正座したままで、生産物の説明に入る。
「ヒールポーション、投擲型聖水ともに消費期限が短くなっている」
「短いというと?」
「最低保障は一週間だ。その倍はもつとは思うが、早めに使い切ることを薦める」
「一週間以内に決着をつけないとダメなんですね?」
「実際問題、それ以上篭城戦が長引けば、村が孤立するだろう?」
食料や燃料が不足するのは間違いない。
それ以上に、村人の精神が持たないだろう。
「冬篭りと考えればなんとかなりそうですが?」
「常に襲われる恐怖を感じながらの生活は、相当な負担だと思うがね。ましてや敵がネクロマンサーならば」
通常なら、長期戦になれば敵も消耗する。
補給も必要だし、野外の布陣は長期になるほど過酷になっていく。
だがアンデッドなら補給は必要ないし、寒空で歩哨を命令しても反抗しない。
しかもネクロマンサーなら、随時、戦力を増加できる。
篭城している側から見れば最悪の相手だ。
さらに術者本人もアンデッド化してるとなると、根競べは絶対に負ける。
なんとか敵を蹴散らすしか方法が無いのである。
「これで勝てますでしょうか?」
ショーコ君は不安なようだ。
「もちろん絶対ではない。だが君がここに残って、範囲魔法を取得するまで訓練するよりは可能性が高い」
「範囲魔法!それってどれくらい修行すれば?」
「それまでの練度にもよるが、3週間あればなんとかなると思う」
「却下ですね」
だろうな。
「もしくはアインを増援として派遣する方法もあるが…」
「それは…難しいかもですね」
村人の、ダークエルフに対する感情と、アインの気持ちを考えれば、良策とは言えまい。
「教授ご自身が来てくれるというのは…」
「無いな」
「ですよね」
基本、俺にとっては縁も所縁も無い村だ。
事故現場に近かったというだけで襲撃の目標になったのには同情するが、そこまでだ。
錬金術師としての依頼なら受けても良いが、開拓村を守護するのは俺の役目では無い。
「ですね。ここから先はあたしの我儘です」
「ネクロマンサーさえ倒せれば、後はどうとでもなるだろう。雑魚に構わず敵将を狙え」
「はい」
「帰りの道案内にフギンとムニンをつける。最短距離で川に出られるはずだ」
「ありがとうございます」
「うむ、逝って来い」
「はい!」




