表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/95

7Days to the Dead 7th

 「さて、ショーコ君が起きてくる前に、練成だけは済ませておこうとするか」


 「はい、マスター。そのローブ、とてもお似合いです」


 錬金術基本セットをテーブルの上に並べて、ポーションの作成の準備をする。

 そして折角なので、寄贈された錬金術師のローブを纏ってみた。


 「ほう、自動調整機能付きか」


 俺の背丈に合わせて、ローブの丈が自動で微調整される。

 着心地はかなり良く、古着とはとても思えない。修復機能もしくは状態保存魔法でもかけてあるのだろう。


 性能としては、防刃、耐熱、耐酸が付与されていて、着衣時には体温の最適化が成される機能もついていた。

 有体に言って、化学実験をするのに最適な白衣である。


 「これは実に良いな」


 「はい、マスターの権威を、より高めているように思えます」


 特にカリスマへの修整能力は付いて無いはずだが、まあ、白衣を権威の象徴と捉える事はあるかもだな。


 「アインも似合っているぞ」


 「お褒めに預かり光栄です」


 アインも村から購入してきたメイド服に着替えていた。


 寄贈品のローブや基本セットはともかく、他の服は荷物になるから置いてくれば良かったと思うのだが、ショーコ君には何か譲れないものがあったらしい。

 アインのメイド服二着と、下着を数セット運び込んでいる。


 別に錬金術の助手がメイド服を着ているいわれは無いのだが、ショーコ君の眼が覚めたときに喜ぶだろうと、アインに着替えてもらった。


 ヴィクトリアンスタイルのロングスカートのメイド服を着ると、アインの有能さが滲み出てくるようだ。

 できればハーフフレームの眼鏡を掛けて欲しいが、レンズが作れないのが残念である。



 レンズで思い出したが、ポーション瓶に使う為の珪砂が見つかっていない。

 やはり砂漠か砂浜を見つけないと、大量に入手するのは難しそうだ。

 水晶の鉱山でもあれば別だが、それはそれで価値がついてしまうので、ガラスにするのは憚れる。


 今回、開拓村から、出来るだけ多くのヒールポーションを製作して欲しいとの要望が来ている。

 薬効成分になる薬草は、2・3日前から採集を始めていた。

 この事態を予見したわけではなく、単純に資金源として有望視していたのだ。


 薬草は群生地が幾つも発見できた。

 女神の加護なのか、この森林には薬効のある植物が多数生育している。

 なので、フギンとムニンに『ディテクト・プラント(植物探知)』の呪文を貸与して、高速で周囲一帯を飛行してもらったのだ。


 樹魔法ランク1の『植物探知』は、他の探知系の呪文と同じく、術者から半径30m以内の指定対象を探知する魔法である。

 効果時間も10分しかないが、両方を魔法制御で拡大すれば、半径60mの範囲を20分間探知できる。

 さらに術者自身が高速で移動できれば、かなりの広範囲を網羅できるというわけだ。


 普通なら森の中を警戒しながら探索するので、それほどは移動できない。

 しかし使い魔なら森の上空を飛行できるので、5kmぐらいはカバーできてしまう。


 その結果、薬草は大量に確保できている。


 なお、現地に採集に行ったのはアインであったが。



 俺には拠点で、集まってきた薬草を乾燥させる役目があったのだ。

 決して、森の中を歩くのがダルいとか、手製のスコップで掘るのが面倒だったわけではない。


 乾燥させた薬草は、保存が利くので大量に用意したのが、今回は役に立った。

 問題はポーション瓶だ。


 ポーション瓶は液体の薬を、安全に運ぶ為、薬効を維持する為、そして投げたら割れる為にガラスで作る。

 しかも錬金術スキルを使ってである。


 普通のガラス職人が、形だけ真似て作っても、薬効がすぐに抜けてしまうし、些細な衝撃で割れてしまう。

 錬金術スキルによって、補強、保管、投擲属性がつくのである。


 なので、ポーション瓶の材料がないと、ヒールポーションも作れない。


 「空のワインボトルでも持ってきてもらえばよかったな」


 ガラスならなんでも良い。なんなら空のポーション瓶もリサイクルできる。

 錬金術基本セットの中に、空の瓶が6本あったのは、そういう意味だろう。

 しかし6本ぐらいでは焼け石に水だと思う。


 「まあ、無いよりマシか」


 そう思って、ヒールポーションを練成してみた。


 「アイン、着火」


 「はい、マスター」


 「アイン、水生成」


 「はい、マスター」


 助手のアインには、土魔法の次に水魔法も仕込んである。

 ダークエルフは、ウッドエルフの反面として水魔法と光魔法が禁忌になる場合もあるらしい。

 幸運なことにアインは、どちらも禁止されていない。


 なので、可能な限りの魔法を仕込む予定である。

 もちろんこれも使用人の技能訓練なので、教育ではない。



 ヒールポーションを練成するには、純水と乾燥して粉末にした薬草、それに容器が必要である。

 火にかけた坩堝に、純水を入れ、薬草の粉末を溶かしつつ魔力を込める。

 練成に成功したら、すぐにポーション瓶に移して封をする。このときにも少しだけ魔力を使う。


 熟練の錬金術師なら、5分で1本は作れる。

 だが魔力が持たないので、1日に作れる本数には限りがある。


 だいたい1本に6MPかかるとして、普通の錬金術師では、4本が限界であろう。

 そして魔力の回復に8時間の睡眠が必要になる。


 だが、俺なら材料さえあれば、30本は作れる。

 水は魔法で生成できるし、薬草の在庫もある。問題は容器だけなのだ。


 「マスター、容器はガラス製でなければいけないのですか?」


 「いや、陶器や竹筒でも可能だ。ただし液漏れしたり、投げても割れなかったりで、信頼性に欠けるらしい。保存も効かないそうだ」


 「ですが、今回は短期決戦になると思われます。多少零れようが、保存期間が短縮されようが、構わないのではないでしょうか?」


 

 「なるほど、それは盲点だったな」


 ポーションの類は、きっちり作らないとクレームが来るという先入観があった。

 言われて見れば、今、開拓村に必要なのは急場しのぎで良いから、数を揃えることだ。


 急遽、土魔法で土瓶を作ってみた。

 本当なら素焼きぐらいはしたいのだが、時間がない。

 できるだけ圧縮して、水漏れが少なくなるようにしてみた。


 「うむ、いけそうだな」


 錬金術スキルの所為なのか、思いの他、ガラスに近い性能になった。

 もちろん不透明なので中身は見えない。飲むのに勇気がいるが、そこは信用してもらうしかない。


 慣れてくれば土瓶も大量生産できる。

 ヒールポーション工場の完成である。

 これでヒールポーションも作り放題だ。


 「いえ、マスター。運ぶのは一人です」


 そうだった。ショーコ君が運べる量に限界があったな。


 こういうときの『ヒドゥン・トレジャリー』なのだが、貸与呪文のランクが低くて貸与できない。

 なのでヒールポーションは適度に本数制限をすることになった。


 

 「あとは、聖水だな」


 アンデッド対策といえば聖水であろう。

 本来は宗教儀式や神聖魔法の触媒として使うのだが、アンデッドに投げつけてダメージを与える効果もある。

 ただ投げて当てれば良いので、戦闘技能などを必要としない。

 だとすれば女子供でも戦力になる。


 威力は、普通の人型ゾンビなら2発当てれば倒せるぐらいだ。

 もし頭部に直撃すれば一撃で撃破できる。


 聖水は、祝福された清らかな水を魔力で容器に詰めるだけだ。

 つまり魔法で水を出して、『祝福』すれば良いので、材料も必要ない。

 

 容器は、最初は泥団子を硬化して、中を中空にして聖水を詰めようと考えていたのだが、アインに止められた。


 「マスター、仮にも神聖な物ですので、それなりの配慮が必要かと」


 「やはり泥団子は拙いか?」


 「いささか問題になると愚考します」


 丸いから投げるのに便利かと思っていたが、それ以前の問題だったらしい。


 なので、薬草探知中に偶然見つけた、鬼胡桃の実を容器にする事にした。

 ちょうど季節の終わりで、大量に地面に実が落ちていたからだ。


  それを拾って(もちろんアインが)、中身を刳り出し、樹魔法で加工して容器として使えるようにしてみた。

 内容量が少なめなのと、移動中にパカっと割れそうなのが難点である。


 だが、多少の劣化は数で補えば良い。



 俺とアインは、一心不乱に聖水を練成した。

 その結果…


 「なんです?これ」


 起き出してきたショーコ君の目の前には、鬼胡桃の山が積みあがっていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ