7Days to the Dead 4th
現在、開拓村の主要メンバーを集めて、鍛冶屋のモルガンさんの仕事場で、対策会議が開かれています。
教会は野戦病院ですし、宿屋の食堂は炊き出しの真っ最中です。
仕方なく、モルガンさんが場所を提供してくれました。
参加メンバーは、マッコイ爺さん、自警団の団長代理さん、鍛冶屋のモルガンさん、宿屋のアズサさん、シスターのマリア、なぜかあたし、そしてヌコ様です。
あたしは流れ者だし、ヌコ様は発言できないと思うんだけど、良いのでしょうか?
聖獣様は十分に参加資格がある?あたしはその通訳と…なるほど、理解はしました。
扱いに納得はしてませんけどね。
会議の議事長はマッコイ爺さんです。
この人、どんだけ影響力あるんだよって感じです。
「さて、村の現状を聞いておこうか」
マッコイ爺さんが、各部署の代表に話を振ります。
最初に自警団長代理のベルクさんが話し始めました。
ちなみに彼が団長代理なのは、団長さんが不在なだけで、亡くなったから指揮権を引き継いだわけではありません。
団長さんは、キャラバンの護衛任務で、一隊を率いて一週間前から開拓村を離れているそうです。
「現状、自警団は損耗率が13%ほどです。死亡者1名、重傷者5名、軽傷者12名ですが、軽傷者はシスターの協力によりすでに復帰しています」
「感染症の具合はどうなっとる?」
「それは、あたいから話すよ」
マリアが説明を始めました。
「薬師のジョンソンが、急ぎで作ってくれた治療薬が効いて、病状は回復に向ってるぜ。まあ体力をかなり消耗しているから、しばらく荒事は無理だけどな」
薬草採集班の苦労が無駄にならなくて良かったです。
さらにマリアの報告は続きます。
「感染症の予防薬が12回分、治療薬が10回分あるから、まあしばらくは持つだろうな。ただ。ヒールポーションが圧倒的に足りねえ」
確か、もろもろキャラバンが補給してくれる手筈になっていたはずです。
「それはうちも同じだな。在庫は全部放出した。あとはキャラバン待ちだ」
マッコイ商会にも在庫は無いようです。
「で?キャラバンは何時到着しそうなんだい?」
今度はアズサさんが発言しました。
アズサさんも何故ここにいるのか謎な方です。
「はっきり言ってわからん。村の団長以下15名の自警団の護衛の他に、商会から腕利きの冒険者を警護に雇っているはずだ。その戦力が合流できればゾンビの包囲も怖くはないんだが…」
現状がどう伝わってるか判らないので、キャラバンの安全を優先して、様子見をする可能性もあるとのことです。
「隣の街に救援要請は出せんのか?」
モルガンさんが顔をイラつかせながら聞いてきます。
飲みたいのに会議中で飲めないのが原因のようです。
「ダメだろうな。狼煙で『大規模な襲撃を受けている』事は伝えてある。それを見てどう動くかは向こう次第だ。救援要請の使者を送るにも、一人では辿り着けない可能性が高いし、小隊規模の戦力は割けん」
マッコイ爺さんが悲観的な推測をしています。
「そもそも奴らの正体がわからぬ以上、詳しい報告もできん。現状では『突然発生したアニマルゾンビの集団に襲われて、なんとか撃退した』に過ぎん。辺境軍を動かす理由には弱すぎる」
「がうがう」
突然、ヌコ様が発言しました。
皆の視線が一斉にこちらを向きます。
「え?ネクロマンサーが居るんですか?しかも本人もアンデッド化してるみたい?」
それ、あたしも初めて聞きましたけど?
「がう」
「忙しくて話す暇が無かった?まあ、そうですけど」
普通にヌコ様と会話しているあたしを、皆が奇異な目で見ています。
「嬢ちゃん、本当に聖獣様と普通にしゃべれるんだな?」
モルガンさんが皆の心中を代表して、聞いてきます。
「ええ、まあ、なんとなくですけどね」
「そ、そうか」
「がうがう」
「え?例の信徒の死に損無いなんですか?詳しくは師匠に聞けと」
また初耳な情報が出て来ましたよ。
あの連中、本当に碌な事をしないですよね。
あ、まあアインさんは改心したから別です、別。
そっか師匠に頼るのも有りかも…でもなぁ…
「その使徒ってのはどこの連中だい?」
マリアが耳聡く尋ねてきます。
「あー、なんていうか迷惑なカルト集団でして…」
仕方なく、ヌコ様が狙われて、師匠に撃退された顛末を、簡単に説明します。
アインさんの件はさすがに伏せました。
その後、紛糾した皆の意見を纏めると、『聖獣様を狙うとは不届きな連中である』と、
『その師匠とやらに救援は頼めないのか?』という2点に集約されました。
「師匠に頼むのはあたしも考えたんですが、師匠、ハイエルフなんですよね」
「「「 なるほど 」」」
それで通じてしまったようです。
なんでもハイエルフの眷属以外への無関心さは、広く知られているらしく、よほどの事がないと協力はしてくれないのが常識だそうです。
「まあ、あたしが頼めばポーションぐらいは量産してくれるとは思いますが、村まで来て、防衛や治療をしてくれるかというと…」
「「「 だろうね 」」」
この、ハイエルフに対するネガティブな信頼は、どうなんでしょうか?
それでも、師匠を動かしてくれと泣きつかれるよりは百倍マシなんですけどね。
なにせ、こんな3日もかかるような場所に遠征してくれるはずもないですから。
兎にも角にも、ヌコ様からの情報で、敵の正体が判りました。ただ、その目的は未だに不明です。
「アンデッド化したネクロマンサーというと、まさかだけどリッチじゃないだろうね?」
アズサさんが、超メジャーなアンデッドの名前を挙げました。
いやいや、そんなのが襲ってきたら、もうこの村滅んでますって。
「がう」
「そこまで強くないそうです。ネクロマンサー単体なら、あたしでも倒せる…って、あたしが倒すんですか?」
「がう」
「問題は、周囲のゾンビと指揮官二人が邪魔だそうです」
ヌコ様も、この村の援護に来る前に、ネクロマンサーの排除を狙っていたそうですが、数が多すぎてあきらめたそうです。
「指揮官もアンデッドでしたか?」
「がう」
あたしの質問にヌコ様は肯定します。
その二人も使徒でしょうから、アインさんに聞けば何か情報は得られそうですね。
「これは一度、師匠に相談した方が良さそうです」
あたしの意見に皆が同意してくれました。
「敵の脅威度が不明だと対策も立てようがないからな。嬢ちゃんには悪いが、使者として行ってくれるか?」
「村のほうは、1日2日は大丈夫だろう。だいぶ戦力も減らしたし、敵もマナが回復しないとアンデッドも呼び出せないだろうしな」
「ならダイナーに言って、錬金術基本セットの製作を急がせよう。それを持っていって、ポーションの製作もあわせて頼みたい」
「道中危険だから、聖獣様についていってもらいなよ。ショーコ一人じゃ危な過ぎるさね」
「がう」
というわけで、あたしとヌコ様は明朝に、師匠の元に戻ることになりました。
はっきり言えば、ヌコ様は村の防衛に残って欲しいところなんですが、周囲が頑として聞き入れてくれません。
仕方なく、アンデッドの包囲を突破するまではヌコ様に警護してもらい、途中で分かれて村に戻ってもらう作戦にしました。
これなら再度の襲撃時にヌコ様が不在と言うデメリットを無くせます。
翌朝、皆に見守られて村を発ちます。
「師匠殿によろしくな」
「はい、皆さんもお気をつけて」
万が一を考慮して、門からではなく、反対側の櫓から飛び降りるルートをとります。
村から走り去るあたしの耳に、マーヤちゃんの声が届きます。
「ねえ、お母さん、なんでショーコ姉ちゃんは聖獣様を背負ってるの?」
「シーッ、黙ってな。皆、つっこみたくても我慢してるんだからね」
「ふ~ん、そうなんだ~ マーヤ良くわかんない」




